第4話 騎士団長の息子は家族に報告します
「戻ったかエクス!」
アリスを送ってから自宅である屋敷に戻ると、大柄な筋肉男に出迎えられる。この男こそなにを隠そうロスト子爵家の当主にして、ランドリー王国の騎士団長である、ベクトル・ロストだ。そして、俺、エクス・ロストの父親でもある。
本日の夜会にも当然参加しているので、俺がやらかしたことは知っているのだろう。さて、どんなお小言を言われるのかと思っていると、父上は俺の肩に手を置いてご機嫌な様子で言った。
「よくぞ、目を覚ましてくれた!」
「父上、なんですか急に?」
「いやいや、よくぞ目を覚ましてくれた。ここ最近のお前の行いを見ていて私は不安だったが……やはり私の息子だ。一人の騎士として女性を守ろうとしたのは正しい判断だ」
そう言って肩を強く叩かれる。そうか、最近の俺の行動、つまりヒロインに攻略された状況に危機感を抱いていたのだろう。まあ、そりゃヒロインにメロメロ状態だと何があろうと悪い意味でヒロインを信じてしまうからね。腑抜けと言われても仕方ない状態だったのだろう。しかし、俺は一つだけ間違いを正すために言葉を出した。
「父上、私は一人の騎士としてアリス様をお助けしたわけではありません。私はアリス様を一人の女性として心から愛しく思っていたので割って入ったのです」
「そうなのか?しかし相手は公爵令嬢だろう。それに確かお前はあの小娘に骨抜きにされていると報告を受けていたが……」
「一時期は惑わされました。でも、昔のシンプルな気持ちをようやく思い出したのです。私はアリス様を愛しております」
そう言うと父上は驚いた表情を見せてから少しだけ涙ぐんで言った。
「そうか……ならば私も父親としてお前の想いを応援しよう。なんとかミスティ公爵を説得して縁談をとりつけ――」
「あ、それは大丈夫です。アリス様には良いお返事を頂きましたし、ミスティ公爵ご本人も許可を得ましたので」
「なに?本当か!?」
大層驚いた表情を浮かべる父上。
「あの腹黒がよく許可を出したものだが……何をしたのだ?」
「普通にお願いしただけですよ」
まあ、剣で真っ二つにされそうにはなったけどその経緯を話す必要はないだろう。父上は俺の言葉にしばらく考えてから言った。
「まあ、一応正式な縁談の申し込みはしておこう。それで、エクス。お前に聞きたいのだが……」
「なんでしょう?」
「学園を卒業したらお前は騎士団に正式に入るということでいいのか?」
「ええ、そのつもりではあります」
現在、俺は学生だ。来年卒業すれば俺は基本的には騎士団に入り、ロスト子爵家の家督も遠くないうちに継ぐことになるだろう。そして、アリスを嫁として迎える。元々アリスは王子の婚約者として王妃教育を受けているので、我が家での嫁修行は必要ないだろうが、やはり早めに俺の元に来て欲しいというのが本音だ。まあ、あと一年は学生として過ごすのでその間はアリスと学園生活を楽しみながら将来を見据えて動くべきだろう。
前のエクスは自分のこれからについて、不満を持っていた。騎士団に入るのも嫌がっていたが、俺は別に騎士団に入ることについては対して抵抗はないので大丈夫だ。俺はアリスと幸せになれるならなんでもする覚悟だ。
そんな俺の言葉に父上は嬉しそうに頷いて言った。
「そうか……ならば、来年までお前を待とう。騎士団に入ったなら必ず私を越えろ」
「ええ、もちろん。ただ、私はアリス様を守るために遥かに強くなる予定なのでそこはえておいてください」
「覚えておこう」
そう言ってから背を向ける父上だったが、思い出したようにこちらを見て言った。
「そうそう、お前がアリス嬢を連れ出した後……殿下とお前以外の側近、それに小娘は陛下の指示で連れ出されたそうだ」
「そうですか。それで何か処罰でも下ったのですか?」
「ああ、殿下は継承権剥奪になったそうだ。他の側近もそれぞれ家で処罰を受けているようだ。小娘は……どうやら錯乱しているようで、牢に閉じ込められているそうだ」
牢にねぇ……まあおそらく『こんなイベントあり得ない!』みたいなことを叫んでいたのだろう。転生者なら自分の知ってる知識じゃない展開に発狂したくもなるだろう。ゲームと同じ感覚でこの世界を楽しんでいたならそうなりそうだ。ベタなところだとアリスを恨んで何かしそうな感じがするがアリスは無関係なのでなんとしても守るべきだろう。
頭が回る相手なら俺が主犯だとわかりそうなので俺を攻撃してくるかもしれないが、その場合はアリスに被害がいかないよう全力で守ろう。あとは他の攻略対象だが……多分俺が裏切ったと思っているだろうからヘイトは俺に集中するだろう。特にヤバそうなのは王子かな?愛しのヒロインを閉じ込められて、王位継承権を剥奪されて、まさにお先真っ暗になってしまったのだから俺を恨む気持ちはわからなくはないが……アリスの不幸の上に成り立つ幸せなんて認められないので間違ったことをしたとは思わない。
むしろ、向こうが最初にはめようとしてきたので恨まれる筋合いはまるでないが、それを話したところで納得などしないだろう。何かしてきそうならその対策を考えるべきか。あとの懸念は乙女ゲームの強制力、世界の強制力みたいなものがあればそれをどうするかだが、そこはあまり心配してない。何故なら逆ハールートをヒロインが無理矢理できたことと、俺がアリスを救えたことが何よりも確かな証拠だからだ。ま、どちらにせよ俺はアリスを守ろうとそう改めて決めたのだった。
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