第5話 騎士団長の息子は娘さんを貰いにいきます
翌日、俺はミスティ公爵家へと来ていた。ミスティ公爵と公爵夫人へ改めて挨拶と、アリスに会いにきたというのが理由だが、一番はアリスと一緒にいたいというのが理由だ。
貴族らしい大きな屋敷につくと、使用人と一緒にアリスが出迎えをしてくれた。
「ごきげんよう。ようこそおいでくださいました」
「こんにちは。昨夜は大変お世話になりましたアリス様」
「はい、エクス様」
にっこりと微笑んでくれるアリス。うん、やっぱり笑顔が可愛いと思っているとアリスは首を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ、アリス様の笑顔にみとれてました。無礼でしたらお許しを」
「み、みとれ……あ、ありがとうございます……」
照れるアリスのその様子があまりにも可愛いので写真に撮りたくなったがカメラがないので心のフォルダーにいれることにする。
「えっと……お父様がお待ちですのでご案内いたします」
「はい。お願いします」
そう言ってからアリスに案内されて応接室へと通される。ドアの前まで来たことろでアリスは頭を下げて言った。
「エクス様。お父様のお相手大変かもしれませんが何卒お願いします」
「もちろんです。むしろご両親に挨拶が出来るのは願ったりです。もう一度きちんとアリス様を下さいと言いますので、終わったら一緒にお茶をしていただけますか?」
「はい、もちろんです」
少し照れながらそう言うアリスに頷いてから俺はドアを開けた。広い応接室には二人の人物がいた。一人は昨日も会ったアリスの父親、そしてもう一人はアリスが年を経てさらに綺麗になったような女性。おそらくアリスの母親であろうその人は微笑みながら言った。
「お久しぶりね、エクスくん。覚えてるかしら?」
「はい。お久しぶりです。ミスティ公爵夫人。相変わらずお美しいですね」
「あらあら、お世辞が上手くなったわね。でも主人の前で言わない方がいいわよ。この人嫉妬深いから」
「ええ、気をつけます」
そう言ってから俺は隣のミスティ公爵へと視線を向けて言った。
「昨夜ぶりです、ミスティ公爵。昨夜はありがとうございました」
「何の感謝かしらないが、元気そうでなによりだよエクスくん。昨夜はよく眠れたかな?」
「ええ、アリス様のことを想いながら寝ましたので」
「そうか」
笑ってはいるが視線はあまり笑ってないミスティ公爵。おそらく先ほどの奥さんへの世辞で若干機嫌が悪くなったのだろうが、俺は特に気にした様子を見せずに言った。
「本日はお二人に改めてご挨拶をしようと思いまして来ました。すでに正式に縁談がこちらに来ていると思いますが、こうして顔を見せて必要なことを口頭で言葉にする必要があると感じましたので」
「あらあら、そんなに固くならなくていいのよエクスくん。あなたは義理とはいえ親子になるのだから」
「ありがとうございます。ミスティ公爵夫人」
「もう、お義母様でいいのよ?」
「ではそう呼ばせていただきます」
そう言うと嬉しそうに微笑む公爵夫人……いや、お義母様。腹黒な夫とは違い天真爛漫な様子で仲良くできそうでありがたいが……もう一人の方の親はにっこりと微笑んで言った。
「私のことは間違っても義父とは呼ばないことだ。まだ君を許したわけではないからね」
「もう、またそんなこと言って。本当はエクスくんのこと、そこそこ気に入ってるくせに」
「何を言うんだ、まったく」
鼻で笑うが否定をしないところを見ると本当なのかな?まあ、どっちみち向こうの許可がないなら今まで通り呼べばいいだろうと思い俺は頷いた。
「わかりました。それで本題なのですが……アリス様を私の妻に下さい」
「ふふ、随分とストレートな告白ね。アリスは顔を真っ赤にしたんじゃないの?」
「ええ、大変可愛い反応をいただきました」
「あらあら、若いっていいわねー」
そう笑ってからお義母様は微笑んで言った。
「私はアリスの意思を尊重するわ。あの子が選んだ道ならそれを否定はしないわ」
「ありがとうございます」
「私は昨日も言ったが、アリスを泣かすようなら容赦はしない。それだけだ」
「もちろんです。アリス様が泣くようなことがあったら私を叩き斬っていただいて構いません」
「あら、強気な発言ね」
「ええ、アリス様が泣くのなら私に責任があるのでしょう。ですから私はいかようにしていただいても構いません」
そう言うとミスティ公爵は鼻で笑って言った。
「その覚悟は立派だが、アリスが君のために涙を流すとは限らないよ」
「ええ、もちろんです。それでも私はアリス様には笑顔でいて欲しいのです」
「何故だ?」
「無論大好きだからです。好きな人に泣いて欲しくないというのは当たり前のことですよね?」
そう聞くと公爵はポカーンとしてから少しだけ笑って言った。
「なら、アリスを絶対に守れ。そうすれば黙認してやる」
「ありがとうございます」
そう言うとまた鼻をならす公爵だが特に何も言わなかった。そんな公爵を微笑ましげに見つめるお義母様はやはりこの人の奥さんにふさわしいのだろうと心から思ったのだった。
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