第3話 騎士団長の息子は公爵様にご挨拶します
「ここにいたか探したぞアリス」
アリスが俺の告白を受け入れてくれてから俺とアリスが見つめあっているとそんな声が聞こえてきた。アリスはその声にハッとしてから俺から手を離すと恥ずかしそうにそちらを向いて言った。
「お、お父様。いつから……」
「たった今だが……お邪魔だったかな?」
そう言って微笑むのはアリスの父親でありミスティ公爵家当主のレイド・ミスティ公爵だ。公爵はアリスに微笑みかけてから俺を見て言った。
「久しぶりだねエクスくん。大きくなったな」
「お久しぶりです。ミスティ公爵。お元気そうで何よりです」
「ああ。それで君は私に何か言うことがあるのではないのかな?」
そう言う公爵の瞳はこちらを強く射抜いていた。その眼力に怯みそうになるが俺は堂々と胸を張って言った。
「ミスティ公爵。私は今改めてアリス様に求婚させて頂きました。その上でアリス様から良い返事を頂きました」
「それで?」
「アリス様を私に下さい」
そう言うと公爵は更に強くこちらを見て言った。
「今まで殿下を止められず散々アリスを苦しめて出てきた台詞がそれか?」
「まったく同感です。今までの私はアリス様のマイナス要因でしかありませんでした。アリス様が苦しんでいるのを知っていて黙って見ないふりをしてきました。でも、それも限界なのです」
「…………」
「アリス様への諦めていた気持ち。それを私は取り戻しました。だからこそこれからは私はアリス様を精一杯守り抜くつもりです」
「そうか」
そう言うと同時に公爵は腰に下げた剣を抜き俺へと斬りかかる。アリスが悲鳴をあげて止めそうになるのを片手で制して俺はそれを黙って見ている。この体になってからやけに色々体が軽いと思ったらどうやら身体能力が爆発的に上がっているようだ。公爵の一連の動きが全て止まって見えており、真剣なのに頭の中でどうやって対処すればいいのか普通にわかる。
やがて公爵の剣が俺を真っ二つにする――前に剣先がピタリと止まり、公爵は感嘆の息をもらす。
「ほう。私の剣の軌道が見えていたのか。流石はこの国最強の騎士である騎士団長の息子だな」
「過分な評価恐れ入ります。その上でもう一度お願いします。アリス様を私にください」
「子爵令息が公爵令嬢にプロポーズか?我が家のメリットがまるでないが」
「そうでもないでしょう。私が騎士団長になればミスティ公爵はこの国の騎士団とも太いパイプができます。そうなればミスティ公爵は貴族間での発言力が更に大きくなります。それこそ陛下も無視できないほどに」
その言葉にしばらく黙っていた公爵だったがふっと剣を鞘に戻すと俺に背を向けて言った。
「アリスを泣かしたら殺す。覚悟をするんだな」
「ありがとうございます」
「アリス。エクスくんに泣かされたらいつでも言いなさい」
そう言ってから公爵はこの場を後にした。多分あの人はあの人で何か企てがあったのだろう。今回の婚約破棄、公爵もその場にいたのにまったく出ていく様子はなかった。本当に娘が心配なら出ていくだろうにそうしなかったのはおそらくあの状況に何かしらメリットがあったからだろう。
それが何かまではわからないが……まあ、今は関係ないのでスルーしてもいいだろう。
「え、エクス様!大丈夫ですか!?」
そんな風に一安心しているとアリスが心配そうにこちらに駆け寄ってきた。
「お怪我はありませんか?大丈夫ですか?」
心底俺を心配してくれるアリスに心が温かくなるのを感じつつ俺は笑顔で言った。
「大丈夫です。アリス様には格好悪い姿をみせましたね」
「そんなこと!むしろ格好いいで――」
と、そこまで言いかけてアリスは慌てて口をふさいだ。
何を言いたかったのか物凄く分かりやいすいけど、それで苛めるような真似はせずに俺は言った。
「ひとまずアリス様との婚約を認めてもらえてよかったです。出来なければ駆け落ちも覚悟していたので」
「か、駆け落ちですか?」
「ええ。騎士が姫を拐って遠くへ逃げる。物語みたいで素敵じゃないですか?」
その光景をイメージしているのか少しだけ幸せそうな表情をするアリス。なんとも可愛い。なんで王子はこんな可愛い婚約者を放置できたのか……ブス専なのかな?まあヒロインは客観的に見れば可愛いからブス専ではないのかもしれないけど、それにしても謎だ。
「さて、では今日はこれからどうしましょうか?」
「どうとは?」
「アリス様には3つの選択肢があります。1つ目はこのまま帰ること。2つ目は私の実家に泊まること。そして3つ目は――私が用意した小屋で私と一晩過ごすこと。さてどうします?」
「い、1番です!それ以外ないです!」
「おや?私と一緒は嫌ですか?」
そう言うとアリスは慌てたように言った。
「ち、違います!ただそのまだ早いというか……心の準備が、あの、その……」
あわあわするアリス。やべぇ、なんだこの可愛い生き物!そんなことを思いつつ俺は笑顔で言った。
「わかりました。では今日は屋敷まで送ります。正式な挨拶をしたいので続きはまた明日ということで」
「つ、続きって……」
「ご想像におまかせしますよ」
そう言ってから俺は赤くなるアリスを連れて馬車へと向かった。ちなみに続きと言っても話の続きなのでアリスが想像している可愛いことではないだろう。まあ展開しだいではそうなるかもしれないが、それはアリスの可愛さに俺の理性が持つかどうかによるだろう。
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