第2話 騎士団長の息子は返事を聞きます

しばらく歩いてから追っ手が来ないの確認して俺はゆっくりと歩みを止める。現在位置は城のちょうど中庭に続く道。そこから見える中庭の景色は月灯りにより花が綺麗に輝いてみえる。話をするには最高のシチュエーションだろう。


念のため、不意打ちの奇襲などの可能性も考慮して適度に開けた場所まで来ると俺はまず先にアリスに頭を下げて言った。


「まずはこのような事態になったことを謝罪させてください。私がもう少し早く殿下の行動を止めていたらアリス様にこのようなお辛い気持ちをさせずにすんだのに……」

「そ、そんな……私こそロスト様を巻き込んでしまい申し訳ありません」

「アリス様。私のことは昔のように名前で呼んでください」

「で、でも……」

「お願いします。私はあなたに名前で呼ばれたいのです。そしてどうか私があなたを名前で呼ぶことをお許しください」


すでに何度も名前で呼んでしまっているが、それでも確認のためそう言うとアリスはしばらく考えてからゆっくりと首を縦に降った。


「わかりました、エクス様。それともう一度謝罪をさせてください本当にすみませ――」


そこまで言わせずに俺はアリスの唇に人差し指を当てると強引に黙らせて言った。


「アリス様からの謝罪は受け取りません。あなたは何も悪くないのですから」

「で、でも――私が殿下のお心に寄り添えなかったからこのような大事になってしまって」

「いえ、そもそも殿下が大切な婚約者を放置して他の女性にうつつを抜かしたことが原因なのです。だからあなたは全く悪くありません」


きっぱりと断言する。そもそもこんな可愛い婚約者がいながら他の女にデレデレする神経がわからないよね。確かに王子だから庶民的な女にひかれやすいのかもしれないけど、だとしてもせめて穏便に婚約解消に持っていくなり、ヒロインさんを側妃にするなり他にも方法があっただろうと今さらながら思う。


そんな俺の言葉にまだ反論しそうなアリスに俺は先んじて言った。


「それよりも……私はあなたの本当のお気持ちが知りたいのです」

「ほ、本当の気持ちですか?」

「ええ。私はあなたのことが大好きです。愛しています」


その言葉にアリスは顔を真っ赤にする。うぶすぎる反応だがそんなところも愛しく思いつつ俺は言った。


「なのでアリス様には幸せになっていただきたいのです。もちろんアリス様が俺の求婚に答えてくださるのが一番いいのですが……無理強いをするつもりはありません」


ここは強引にいくべきところなのだろうが、しかし俺は勢いだけでアリスの気持ちを奪う気はないので一応の選択肢を示すことにする。


「あなたがもし他に好きな男がいるなら私は涙をのんで全力で応援しましょう。もし今回の一件で結婚が嫌なら私があなたへ行く縁談をすべて阻止しましょう。何があろうと私はあなたの味方でいるつもりです。ただ出来るなら―――」


そう言ってから俺はアリスの手を取って真っ直ぐに目を見て言った。


「これから先の人生をすべて私にください。あなたのすべてを私にください。そして――あなたをこれから生涯愛して守り抜くことをお許しください」


自分でもかなり痛い告白をしている自覚はあるが本気なのでそこはスルーする。アリスの瞳には驚きと迷いが見えたが、拒絶は感じられなかった。現に今も繋いでいる手を全く離す気配はない。視線が左右に揺れて瞳が潤んできてはいるが、顔は真っ赤でそれが俺の中のサディストを刺激してしまう。うん、落ち着こう。これで断られたりしたら痛いどころじゃないんだ。大爆死間違いなしだが、まあ、その場合はその場合で彼女の中で笑い話に変わることを切に願う。


「あ、あの……私……」


しばらく言葉に詰まっていたアリスだったがやがてポツリと呟いた。


「いいんでしょうか……私なんかがエクス様に愛されるなんて」

「あなたがいいんです」

「私……婚約破棄された世間的には不良品ですよ?」

「不良品?むしろ新品同然じゃないですか。それに婚約破棄は全部殿下の仕業であなたのせいではありません」

「エクス様はお優しいからそう言ってくださいますが……他の皆様からしたらそうは見えません。私は殿下に捨てられたダメな女です」


ぎゅっと唇をかみしめるアリス。そこまで自分を追い詰める必要ないだろうにこの子はなんて健気なんだと、俺の中でアリスへの好感度が爆上がりしていくが無論口には出さずに俺はきっぱりと言った。


「他の人間からどう見られようと構いません。私にとってアリス様はアリス様です」

「え……?」


ポカンとするアリス。そんな表情も可愛いが俺は優しく微笑みながら言った。


「世間からどう見られようとあなたはあなたです。私にとってはアリス様が一番なんです。例え世界中を敵にしても、たとえあなたが自分のことを好きじゃなくても、私はあなたが大好きです。そして、私以外の人類があなたを蔑み見下すならそのすべてを私の剣で叩き斬ります」

「どうしてそこまで……」

「決まってます。アリス様のことが大好きだからです」


それ以外に理由なんてないと言うとアリスはぽぅと顔を赤くしながら俺を見つめた。これは少なからず俺に好意を抱いてくれたと見ていいのだろうか?いや、まだ足りない。


そう思い俺は改めてアリスの手を握るとそのまま片膝を地面につけて誓いをたてる騎士のように言った。


「改めて申し込みます。アリス・ミスティ様。私の妻になってください。私はあなたのことを愛しております」


そう言うとアリスはしばらく迷うような仕草を見せてからやがてポツリ頷いた。


「……はぃ」


人生初の大告白が成功したのだとしばらく理解するのに時間はかかった。こんなに強引なやり方で告白したのだ。嫌われても仕方ないだろうにアリスはこんな強引な告白を受け入れてくれたのだ。多分この時から……いや、俺は自分の意識を取り戻してからずっとアリスにキャラクターとしての愛から人間としての愛、つまり一目惚れしたのだろうと後に思う。


まあ、自分のチョロさやイージーさに思うところはあるが今後この感情が変わることは永遠にないと断言できる。チョロくても俺は一途なのだ。アリスのことを永遠に愛して守ろうと心の中で誓うのだった。





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