第22話 光一は美麗を疑いたい(茜視点)

 ◆◆◆◆◆◆



「茜お嬢様、────さん、いらっしゃいました〜!」


 自室で漫画を読みふけっていたら、使用人がうるさい口調で遮ってきまして。


 腹立たしい。


 ルームウェアでだらけた格好をしている私に、接待しろとおっしゃるのでしょうか? 教育がなっていませんね、わたくしの使用人は。あとでみっちりお叱りを入れましょう。そうしなければ、またわたくしを怒らせるようなことをしそうですので。


「なんなのよ! 私の至福の時間を邪魔する気ですの?」


「いいえ、違います、お嬢様。雨宮光一さんがお見えになりました」


「光一さんですって!? それを早くいいなさいよ、使用人。あの方とお会いできるなんて夢のようですわ!」


 信じられません。光一様はまさしく私にとっての光。美麗に対しての怒りすら浄化してくれそうです。心の健康のためにも、今すぐにでも会いたいものです。


「最初にいったかと思いますが……」


 あんなにキザでクールな男、どうして平民の美麗は嫌がるのでしょうか。私にと

 って彼はドストライクの男だといいますのに。自分の好きな人に好かれていながら、「あの人好きじゃないからな」っていわれる私の気持ち、考えたことありま

 して? 


 それなのに自分は悪くないなんて、ひどい話です。コーラの二リットルボトルくらい、あの人の頭上にかけられて当然といったところでしょう。しおれた子犬のような悲しい顔をしているのをみて、少し気持ちが晴れました。


 さあ、光一さんに会いにいきますよ。


 応接間に光一さんはいました。私は、晴れやかな笑顔で出迎えます。光一さんも至高の微笑みで私を迎えてくださいました。天にも昇る気持ちです。


「こんにちは。会えてうれしいですわ、光一さん」


「こちらこそ。キミは、たしか。アケミさんだったかな?」


「私は、さ・さ・く・ら・あ・か・ね・death!」


「すまないね、茜さん。ボクときたら、来る日も来る日も美麗さんのことばかり考えてしまって。頭の中からキミの情報がごっそり抜けていたみたいだね、ハハハッ」


 少しムカつくところですが、光一さんがいうことは、すべてが金言ですの。何をいわれようとも気にしないのです。腹が立てばまた美麗というサンドバッグにぶつけてあげればよいのですから。


「本日はどういったご用件で。もしや、私に会いにきてくださって」


「いや、美麗さんのことでひとつ頼みがあるんだ。きいてくれるかな」

「光一さんのいうことならなんなりと」


「美麗は僕の婚約者だ。本来は僕のことだけを見てほしいものなんだよ。それなのに、彼女の洋服から男性の匂いがしているんだ、それも毎度のようにね」


「それの何が問題ですの?」


 女子校とはいえ、男性の教師がいたっておかしいことではありません。何が問題なのでしょう。


「美麗さんが通っている高校は、女子校じゃなかったのか」


「そのはずですが」


「電車や道端ですれ違うことはあっても、そこまで匂いはつかない。明らかに、

 男性と長い時間同じ場所にいないとそんなに匂いはつかないはずなんだ。ボクの鼻は誤魔化せないということさ」


「さすが光一さん、なんと聡明な方」


「ということで、美麗に何か怪しい行動がないか、しっかり監視しておいてほしい」


「もちろんですわ」


 頑張って美麗の闇を暴きますの。なんせ光一さんからのお願いですよ。私、必ず成功します。


 失敗は許されません。この笹倉茜、誠心誠意まごころをこめ、責務をまっとうさせていただきます。

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