第21話 明日翔と小丸の思い(明日翔&小丸視点)

 ◆◆◆◆◆◆


 私は、図書館からよく部活の様子を眺める。楽しい。


 小丸は部活に入らない主義だけど、人が楽しんでる姿を俯瞰できるのだけは楽しい。小説でも、人の話を客観的に眺められる。だけど、リアルで部活をしてる人を見るほうが、虚構の小説よりも惹かれることだってある。


 陸上部をのぞいてみたら、陸夜っぽい男の子がいた。陸夜、部活には入っていなかったような。


 放課後の図書室は、決してひとりじゃない。委員会のときを除けば、自習室をとれなかった高三生が自習のためにやってくる。高三生以外は本好きが人が少ないようだし、部活で忙しいのえほぼ来ないと考えていい。


 受付でぼうっとしていても、必死になっている受験生の雰囲気に押しつぶされそうになるから、距離をとってる。


 誰ともコミュニケーションを取れる状況ではないから、延々と脳内で考えごとをしている。


 部屋の奥の窓から眺めるので、視線は右斜め前になる。近くの本棚から一冊抜き出す。きょうは何を読もうかな。


 ふと手に取ったのは、恋愛ものだった。バッドエンドをむかえるらしい、映画の原作本だった。


 恋愛、といえば。私には、忘れられない人がいる。



 ある日、駅のホームに、彼はいた。プリキラの同人誌を読んでたら、中身をじっくりみられちゃって。気まずくなって目があったたった数秒。青春は一秒一秒が宝物だ、というフレーズをきいたことがある。まさにその通りだと、私は思った。


 いつもは何気なく消費しているあの数秒で。ときめき、色めき、輝き。オーバーワークしていたせいか、全身が燃えたぎるような感覚だった。


 恥ずかしいけど、一目惚れだった。


 もう出会えないとは思うけど、あの感覚をまた味わいたい。それまで、彼に見合った女の人になって、しっかり私の想いを伝えたいな。


 ◆◆◆◆◆◆


「なんだよ、こっちは今部活中なんでけど、織野」


 いつも俺との距離が織野。何度も遊びにいこうといわれ、その度に断ってきた。それなのに、彼女は俺を校舎裏に呼び出してきた。


「私、明日翔くんのことが好きなの! あなたのことがずっとずっと私から離れないの。だからお願い。最初はガールフレンドからでいいの。だから────」


 残念ながら、俺が選ぶのは彼女じゃない。あの日あのときあの場所で出会えた、会えるはずもない、名前も知らないあの人なんだ。求めているのは。


「気持ちは嬉しい、ただ」


「これから、いっさい俺に関わらないでほしい。もう鬱陶しいんだ。もちろん、織野が好きって気持ちは重く受け止めるつもりでいるから……ごめん」


「最低。そうやってあんた、何人もフッてきたんだ。本当に何がしたいの?」


 少し言いすぎてしまった。でも、織野という女にはもう懲り懲りしてたんだ。区切りがついた。部活に、戻るか。荷物を教室に置きっぱなしだった、取りにいかないとな。


 ◆◆◆◆◆◆


 恋愛ものをどうにか読み終えた。


 一緒にいる時間が長いからこそ、いつの間にか無理していたところを無視していて、それが破局につながって、身を滅ぼすことになった。普遍的な感情から起こっ

 た負の連鎖だけど、現実もそんなものなのかな。


 些細なズレからすべてはじまるのかもしれない。初恋だって勘違いかもしれないよね。


 私は身支度をして、図書室を後にした。階段を下り、昇降口につくと。


「あ、明日翔、くん」


「おお、小丸さん」


「部活ですか?」


「そうだね。来る日も来る日もサッカー三昧だよ。でもめっちゃ楽しいよ。これから部活だから、また今度」


 明日翔くんに会うと、明日も頑張ろうって気持ちになれる。明日という目的地まで、私を羽ばたかせてくれる。飛翔させてくれる。彼だけは、少し心地いい。

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