第14話 光一は美麗に近づきたい(美麗視点)

 ◆◆◆◆◆◆


 昨日の夜は課題だった国語の問題に追われたためか、かなり精神的には参っていたと思う。他のクラスメイトも、その問題量の多さから、休憩時間を駆使して課題に追われる他なかったみたい。半分以上は解説中も問題を解いていた。


 ここ、奏流高校は県内でも屈指の学力を誇る名の知れた高校だ。授業進度はもちろん早く、内容も他の学校に比べれば難しい。宿題も多いのだ。


 さて、通わされていた私立は編入だったので、授業についていくにも一苦労だった。


 中学受験のときで、すでに何年分というアドバンテージがあるのだ。それを取り返すには必死だった。今数学や英語でやっている内容は私立で中三のときに習った内容だけど、課題の分量が多いと話は変わってくる。


 中学の後半の頃のように、課題に追われて深夜までやるなんて、よくあったことだ。そのせいで身長が思うように伸びなかったのかもしれない。


 校門を出ると、私はいつものように椀さんの車へと向かっていった。普段と変わらない乗車だったかと思えたけど。


 高速道路を抜け、自宅に近いところで高速道路を降りるかと思えば、数個前のポイントで突然椀さんは降りた。


「ちょっと、ここに何か用事でもあるの?」


「あの、私の口からいうこと現段階では止められていますから」


 気になるけど、深く問い詰めることはせず、流れるままにときがくるのを待っていた。


 すると、信号が赤になったタイミングで、車は道の端へと寄り、ライトを照らしはじめた。それから数分後、この車に手を振りながら近づく男の姿が見えた。


「どうも、美麗さん。今日はボクもご一緒させていただくよ」


「へっ?」


 寝ぼけていた私の頭では、すぐに理解できなかった。


「あの、これはどういう真似かしら、光一さん」


「キミと帰りの時間がたまたま被ったものだから、椀さんにお願いしたんだよ。一緒に帰りたいってね。ボクたちは婚約者となる相手同士だろ? 一緒に帰ることくらい、なんてことないとボクは思うけどな」


「そうでしたか」


 いまの立場を考慮すれば、光一の主張も間違っていない。なんせ、婚約者同士な

 のだから。


 荷物を席に置いているのため、横幅が少し狭い。どうしても光一との距離が近くなってしまう。その上、光一自身もわざと近寄ってくろので、うまく距離をとれない。


 熱烈に語ってこられても、やっぱり嫌悪感からか雑な返ししかできない。あからさまに面倒臭そうな態度をとっていると見られてもおかしくないレベルに。


 数十分を耐え抜き、晴れて車内の密閉空間から脱出できた。私のそっけなさすぎる態度でも、光一は万々歳といったところだったらしい。車から降りて私を見送るときの歩みが軽やかだった。


「今日もキミのような美しい方とともに過ごせて何よりさ。キミとボクは、見えない運命の糸で繋がり続けているから、当然かもしれないがね。また会えるのを楽しみにしているよ」


 窓越しからのセリフだった。


 椀さんは、これから光一も自宅まで送ってやるという。応車が見えなくなるまで手を振ってやった。胃の中のものを吐き出しそうになるくらい、嫌悪感がある。


 徐々に、光一は私の生活を蝕んできている。果たして、私の精神はいつまで持つんだろう。

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