第15話 陸夜は美麗とふたりで出かけたい(陸夜視点)
◆◆◆◆◆◆
国語の問題を授業で解説された翌日。僕は早々に学校に到着していた。前日のように棚葉と明日翔がいるかと思われたが。課題のためだけに早くきていたようで、今日はみる影もなかった。読書なり勉強なりで時間を潰す。早く来過ぎても、やることなんてありやしない。
誰もいないので、スマホを弄ってもバレたりはしないだろうが、朝からやる気分じゃなかった。
最高に清々しい朝だ。奏流高校の敷地は自然に溢れているので、窓を開けなくても十分心地いい。駅からさほど遠くない位置にありながも、混雑して息苦しい駅とは別世界だ。肺の奥まで取り込んで残しておきたい大気だ。十数分もすると、美麗が来た。顔色がいいとはいえず、いつもより沈んだ表情をうかべていた。
さりげなく近づき、
「おはよう、ちょっと体調平気か?」
と耳打ちすると、
「ごめん、男子には関係ない話」
と切り返された。深く聞かないでおこう。さっと席に戻り、作業に戻る。朝から申し訳ないことをしてしまったというか。気遣いが足りていなかったというか。自分の行動を悔やむほかなかった。謝った方がいいかもしれない。
気まずい雰囲気のまま、いつも通り放課後を迎えていた。今日は、美麗も僕も部活がない。普段なら、誰もいなくなる教室で雑談が弾むんだが。ああ、今日だけは積極的にはなしかけるわけにもいかない。すでにホームルームも終わり、清掃もなく終わったので、クラスメイトたちが帰っていく。
明日以降まで、持ち越すのか。
「陸夜」
ふいに、背中を誰かの手が捉えた。そして、名前を呼ばれる。
「美麗、何だよ」
「帰りに話、あるから残って」
下校で教室が混み合っている中、出口と反対側にはけ、リュックだけ机に置いておく。さりげなくトイレで時間を潰して、戻ってきたときには、ふたりきりの状態になる。放課後は自習用という名目で解放されていて、担任が教室まで戻ってくることはほとんどない。
「ちょっと、朝の弁明をさせて」
「いや……僕がただ、余計なことをいっただけだろ、デリカシーのかけらもないような、さ」
「私、そうじゃないから。財閥で揉めただけ。そこいい思いをしなかったから、気分悪かっただけ。ほんとそれだけだから。まだあんまり人が来てないからって油断してた。紛らわしいこと、しちゃったね」
ぎこちなく笑いかける美麗。自分の心配は杞憂に終わった。とはいえ、今の彼女は無理をしている気がする。
「美麗、無理、してないよな。いつでもさ、誰でもさ、いってくれればいいから」
「いつでも、誰でも、ね。そう気軽にいえたらいいよね」
「人にはなすと楽になるからさ、僕でよかったらきくから。長い付き合いになるわけだし」
そういうと、美麗は黙り込んでしまった。下を向いて、小さくため息を吐きつける。美麗の言葉を、待ち続ける。口元は、動いていた。肝心の言葉が出ていないだけで。
「あんたにはさ、わからないでしょ、財閥のこと」
「なんだよ、急に」
「私、帰るから」
流れのままに、美麗はリュックを背負い、早足で教室から立ち去ろうとしていた。
「美麗、今の気持ちだけも吐き出してくれよ。思ってるだけじゃ何も伝わってこないんだよ。長い付き合いで、テレパシーみたいなものは少しあっても、そっちの事情までは汲み取れないから。もっと正直になってくれよ」
反射的に、美麗の腕を掴んでいた。
「……」
「わかった、いうことを変える。美麗、今、何がしたい」
「何がしたいか、だよね」
リュックをおろし、呼吸を整えた彼女は。僕の胸元に飛び込んできて、泣き出した。泣くことでしか、今は発散出来なさそうだった。ワイシャツが湿り出す。染み込んでいく。
「これで、いいのか?」
「あとさ……これから、カラオケ一緒にいこ」
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