第12話 織野は明日翔を愛したい(明日翔視点)

 ◆◆◆◆◆◆


 放課後を迎えた。俺は国語の課題を死ぬ気でやり切ることができた。サッカー部の馬鹿たちに絡まれたけど、六時間目だったからなんとかなったって感じだ。そんな馬鹿なところがあいつらのサイコーなところに違いはないんだがな。


 俺はどうも、棚葉にいわれたことで少しモヤモヤしてる。朝、はやく来て勉強してたときのこと。


 長い間、幼馴染としての関係のまま過ごしてきたあいつ。うるさいし、鬱陶しいし、すぐつっかかってくる。そんな棚葉を、心から嫌っているわけじゃない。普通のままでいたいのに、どうしても強く接してしまうんだ。心にもないことをいってしまうし、すごくムズい。


 部活にいく前、掃除の担当を終えた俺は、さっさとカバンに荷物を詰め込んで教室を後にしようとしたのだが。


「明日翔くーん、きょうグルで放課後からカラオケするけどいく?」


「それめっちゃいきたいわ。でも今日部活だからさ」


「部活? 休めばいい話でしょ。せっかく友達なのにさ、明日翔くん」


 クラスの女子、織野おりの。クラスのムードメーカーというか、とにかくクラスの雰囲気を作ってる奴。交友関係も広いし、サッカー部の友達とあいつでかなり絡んだりしてる。


 いいかたは悪いが、たぶん俺は彼女に待ち伏せされていたんだと思う。扉のすぐ後ろに隠れていたんだもんな。


 織野は嫌な奴っていうんじゃない。少し、好意を持ってくれているみたいで、かなり誘ってくれたりする。そういう性格なのかもしれないし、同性の友達感覚で接しているのかもしれないけど。


「部活、しっかりやりたいからさ。また今度いこーぜ。絶対織野となら楽しい気がしてるから」


「えー、つまんないの。私は明日翔くんと一緒にカラオケいきたかったな。やっぱ私今日のカラオケいくのやめる」


「そんな軽い気持ちでいかなくていいんかよ。友達同士でいくつもりだったのならさ」


「いいよ、私からきっちり説明すればわかってくれるいい友達ばっかだから」


「ならいいけどよ」


 そう返事をすると、もう織野は諦めたみたいで、せわしなくステップを踏みながら教室を後にした。じゃあね、と笑顔を振りまいて手を振って。俺もしっかりにこやかに返す。


 実は、これがはじめてのことじゃない。


 何度か帰り際に待ち伏せを食らい、どこかいこう・一緒に帰ろう・ちょっと話さない、なんてアタックをしにくる。それも週に何度も。流石に毎日とかじゃないけど、もう少しされたら恐怖心に支配されそうな気しかしない。そんなことをされ続けると、好意すら失せてくる。 


 他に、告白してくる女子もいるわけだし。サッカー部のマネージャーの子にも告られたけど、内気すぎてテンションが合わないというか。ひどい奴だよな。何かしら理由をつけて、全部断ってる。


 高校入ってからの告白された回数は全五回。


 これを多いと見るか少ないとみるかは人次第なんだろうけど。もう告白されるのは散々だし、勝手にあからさまな好意を向けられるのには困ってる。噂なんてあっ

 という間に広がるから、女子にも男子にも根も葉もない噂を持ちかけられる。


 こんなことなら、さっさと彼女を作った方がはやいのかな。誰かに妥協して、付き合うとか。


 今はそんなに多くないのは、棚葉とのやりとりのせいなのだろうか。はたからみればカップルっぽいのかもしれない。見かけ上はそれでいいんかな。それはともかく、ずっと探していたあの子を、絶対に見つけたい。


 中学校の頃、遠くの駅で偶然出会ったあの子のことを────

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