第11話 明日翔はちょっと無神経
昨日の姉との通話はなんだかんだで体力をガッツリ持っていかれた。せっかくビデオ通話なのにVRで出てくる姉がどこにいるかって話だよ。自分の姉だけどさ。
僕の朝は早い。部活の朝練があるわけじゃないけども、朝の方が過ごしやすいらしい。体質の問題だろうか。いつも最速で教室についているわけなのだが。
扉を開けると、なぜかふたり、もう来ている。静かすぎて絶対誰もいないと思っていたのに。
「おっはよー! 陸夜じゃん。ちょっと遅かったね」
「おー。棚葉、もう来てたんだ。ちょっと早いね。しかもお前もいるし。明日翔」
「別にいつ来たっていいだろ、冷たいと俺だって傷つくからやめて欲しいわ。サッカー部の朝練だと思ってさっさと来たのにさ、今日は顧問の都合で中止だっていうからさ」
「棚葉はそこそこ朝早いけどさ、明日翔はいつも遅刻ギリギリだからさ、ほんと何事かと思った。しかも棚葉とふたり、か……」
「たまたま被っただけだわ。あんな奴と一緒に待ち合わせてくるなんて一〇〇%ないから」
「あんたって奴は……」
本当にこのふたりの関係性は、わからなくなる。付き合ったらうまくいきそうだけどうまくいかなそうなタイプ。どっちなんだよ。でも、実際そんな感じがしてる。こういうフワッとしたことを、確か「エモい」とかいうんだっけか。
「朝から気分最悪。あーあ、あんたが私を避けるようなことをいうと、私まであんたが嫌なことを思い出すの。不快、限界、撤退。さっさとレッドカードでクラスから退場願います」
「ほんとよくもそんなに俺に対する悪口が出てくることだよ。こっちはお前の顔面に一発スパイク打ち込んでやりたいくらいだ」
「頼むから、険悪にならないで欲しいんだけどな......」
ふたりはこんなやりとりしかしていないんじゃなかろうか。ほんといつからこんな関係になったんだろうな。
口論も途中から少し凝った悪口から暴言に成り下がり、さすがに終わりがないことに気づいたのか、もとに戻っていた。そうなることがわかっていても、結局また同じ道を歩むんだろうな。
「こ、今回はこのくらいにしてあげるから。もう喧嘩ふっかこないでよね」
「そっちこそな。終わり終わり」
一〇分近く(!)の罵り合いをしたって、まだまだ人が来る気配すらない。こんなにはやく来ても、おしゃべりで全ての時間が潰せるわけでもないので、各自で勉強がはじまる。
今日は国語の読解問題の提出日だった。分量がかなりあったけど、三人ともまだ未着手のようで、必死になってカリカリやり始めた。宿題って、割と放置しちゃうよね。人間の性なのかな。全部が全部じゃないけど、当日か前日になるまでやらないという。
「ねえ明日翔」
「棚葉、どうした? わからない問題でもあった?」
一旦タメをつくってから、
「あ、あんたってさ……好きな人とかって、いるわけ」
恥ずかしそうに、たどたどしくもいった。
「どうしたんだよ、急に」
「だって、その……せっかく可愛い子に告白いながら、ことごとく断ってるじゃない。色々理由をつけて断ってるけど、なんか、理由でもあるのかなって」
頼むから、この二人でぜひとも純愛ラブコメをはじめてほしい。もういいじゃないか。さっさと付き合えば、いいよ。幼馴染との恋愛、悪くないよ。
「いや、俺、もう好きな人、いるから。その人が振り向いてくれるまで、ずっと待ってる」
「そ、そっか。好きな人、いたんだね」
「悪い、ちょっとトイレいってくる」
「いってらっしゃい」
口笛なんて吹きながら、廊下をスキップしてかけていく。完全に明日翔が出ていったと判断したや否や、棚葉から一言。
「なんなのあいつ、サイテー」
あゝ、明日翔って奴はどうしてこうなのだろうか。棚葉から向けられている思いにも気づかないで。これで好きな人が棚葉だったらいいだろうが、僕にはそういうふうには見られなかった。
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