第10話 別居中の姉は陸夜のことを気にしたい(陸夜視点)

 僕には姉がいる。ただ、現在は別居中。彼女はもう大学生で、通っているのが遠くの大学なのだ。もう久しく会っていない。


 ビデオ通話アプリで顔を合わせて話すこともよくあるのだが。ちなみに、最後に電話しのは三日前だ。僕にとっての三日が懐かしいとか、そういう時間感覚じゃなくて。ビデオ通話なのに、あいつは顔を出さない。現に今も通話をしているのだが。


「はぁ〜い、ようこそ!! 退屈アンニュイ退屈アンニュイパラララァ」


「頼むから俺と話すときくらい配信者キャラじゃなくしてほしいんだけどな」


「いいじゃない、いいじゃない。忙しい合間を縫って弟と話してあげる姉なんて私くらいよ、私くらい」


 通話中、姉は顔を出さない。弟とのビデオ通話でありながら、二次元萌え終えお姉様アバターを画面に映してくるのだ。


 沢田愛海さわだあいみ。ただの大学生でありながら、誘惑お姉さん♡キャラ(自称)という立ち位置で、視聴者から投げ銭をさせ、搾取してまくっている。俺の実の姉貴だ。


 まだ大人気の配信者ではないといえでも、毎月の家賃くらいは稼げているらしい。週二回の三〇分の生放送で。投げ銭させられている視聴者も可哀想だ。さて、誘惑お姉さん♡キャラ(自称)のリアルな姿は。


「り・く・や〜!! 私とイケない恋、イケない恋しな〜い? お姉様に誘惑されて、誘惑されてそのまま」


 顔が真っ赤だぞ。酔ってるのかよ。


「というかいま愛海姉さんは県外のビデオ越しだろうが。会えるはずもないんだしさ」


「別に今から、この今から超特急で陸夜のお家、いくけど?」


「丁重にお断りします」


「視聴者さんなら、ブヒブヒ言いながら”ぜひイってください!!”っていうんだよ〜 もったいないな」


 彼女はただの痴女だ。痴女。男性諸君を惑わす小悪魔系とかがこの世には存在するが、彼女は違う。常人ならどんな変態でも引いてしまうような痴女だ。


 いかがわしい、を無意識にしてしまう姉は、残念ながら僕の手では止められない。悪化の一途を辿るばかりだ。そして暴言もひどい。視聴者を一体なんだと思っているのだろうか。


「俺は姉さんで興奮しない。弟が姉の帰還にブヒブヒいって喜ぶはずがないだろ」


「それなら、知り合いのえっちい系の配信者の子、紹介しようか?」


「どうしてそうなるんだ。姉さんじゃなければ誰でもいいってことでもないんだが」


「釣れないのね、つまんないの。イケない子ですね。このあいみんがお仕置き……」


「もういいわ、切る」


 話が通じていないな。やっぱり飲んでいるのだろう。


「じゃあラスト一個だけ。陸夜が女の子の紹介を断るはずなのに、どうして丁重に断ったのかな? 女の子が寄ってこないって数年まで嘆いてたくせに。もしや、彼女でもできたかな? ふふっ」


「で、できてないし。ふざけんな。さっさと視聴者と結婚できるといいな、この変態配信者」


「あぁぁん、実の、実の弟に罵られてるぅ」


 あいつとの電話を切った。遠くから見る分には面白いやつなんだよ、姉さん。すぐそばにいるとロクなことがないんだね。姉は些細なことでわざとらしい反応をとる。それをみる僕の気持ちにもなってほしい。


 なんだろう、僕の周りには変わった女の子しか集まらないのかな? ほんとそういうのは勘弁なんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る