第6話 放課後はふたりきりで〇〇したい
美麗が
今の美麗と僕は、放課後に教室で談笑を楽しむまでの関係になっていた。二年前のことを語り合ったり。その日のクラスメイトの些細なネタに、声を出して笑ったり。押さえ込まれていた美麗の心が解き放たれていたようで、その姿を見るだけでもただただ嬉しかった。
今日も放課後に待ち合わせをして、話し込むことにしていた。
「陸夜、お待たせ! 待たせちゃったかな?」
「いや、全然待ってないから大丈夫」
「よかった〜」
つぶらな瞳を輝かせ、髪をいじる姿だけでも絵になる。自分の胸元あたりに美麗の顔がくるくらいの身長差だから、結構可愛い。中学の頃は同じくらいの大きさだったので、より小さく思えるのだろうか。
ちょっとした可愛さを意識できるくらいに、心が落ち着いてきていた。ふたりで会うときだけは、あの頃の口調に戻れる。
「美麗さ、最近は笹倉グループでの集まりがあまりないから、こうやって会える
んだ。たまたま時間を作れてるんだから、ありがたいと思ってよ」
「美麗、いつの間にか調子に乗りやがって。口数が少なくて、従順的だった一ヶ月前が懐かしいな」
「も、もしかしてあの頃の私の方が陸夜は好きってこと?? あんな陰気臭い雰囲気を、幼馴染みの前でもやってみる気にもなってほしいものね。あーあ、最悪。付き合ってもいいっていってあげたのにさ。『昔の美麗が見たいんだ!!』とかいってきたのはどちら様だったかしら」
「美麗ってやつは……はいはい、『ありがとうございます、美麗さん』っていえばいいんだろ」
「ふふーん、よろしい。これで陸夜は私の支配下にあるようなものね! 主導権は私が握ったも同然かな」
「いい加減調子に乗るのもやめたらどうだ、今ならまだ間に合うぞ。僕だって美麗に怒らないとは限らないんだからな」
「陸夜が言っても正直説得力がないように聞こえちゃうなー。夜が女子にしっかり怒れるような男の子じゃないことくらい、私とっくに知ってるからね」
付き合いが長いから、久しぶりに会ってもしばらくすればあの頃と大差ないやりとりが交わせる。ここまで美麗に下に見られて、嫌味な言い方をされると凹むけど、そのウザささえも愛らしい。何せ話していて楽しいんだから。
「何度話しても美麗には何だか勝てそうにないていうのが、ちょっと腹立つわ」
「いいでしょ? 私、一日の中で、こうやって陸夜とくだらないことをいい合う時間が、今はいっっっちばん好きなんだよ。ほんとだーーーいすき!! 陸夜はめんだくさい時間と思ってるかもしれないけど、私にとってはすごく大事な時間だよってこと」
まだ幼い、純粋な子供のような話し方で迫ってくる。思いっきり笑ってくれている美麗を見ているだけで、ご飯三杯はいける気がしてしまう。本当の心は変わっていないんだな。同じことを思ってくれていたみたいで安心できる。
「相変わらずでいいね。俺はすっごく嬉しい」
「ありがと、陸夜。一番っていうのも、だいすきってのも真っ赤な嘘だけど」
「それはないだろ......」
冗談だと信じたいものだ。
「あ、いけない!! 委員会の仕事、今日同級生の子に教えてもらうだった!! ごめん、私、先に抜けるね」
「突然大声出すなよ。何の委員会にしたんだ」
「図書委員会。一人枠の空きがあったから」
「図書委員会? なんで美麗が同じ委員会にいるんだよ」
実は自分も図書委員会だったりする。なった理由は。 誰も手を挙げない雰囲気に飲まれたからだ。ネガティブな理由だろう?
「別にいいじゃない。ラッキー、ラッキー」
「で、その集まりって美麗だけなのか」
「いや、今日は全員が集まるらしくて、一年生の学年代表の子がいってたよ」
何? そんなこと、一切聞いていないのだが。
「なら急がなきゃだろ。あと集合時間まで何分?」
「あと二分」
「美麗、走るぞ」
急いでリュックを拾って背負い、咄嗟に美麗の手を握る。
「え、陸夜、これって」
「荷物取ってさっさと走るぞ!! いいな」
「陸夜?」
美麗を混乱させてしまったが、これはやむをえない行動だ。美麗の左手を、しっかりと握る。美麗はこの状況を読み込めず、ポカンと見つめてくる。ダメだ、可愛い。手から、美麗の体温が伝わってきた。
「いいんだ、とにかく急ぐぞ」
少しでも目線に入ったら意識してしまいそうだった。前だけを見て、図書室へと急いだ。他の生徒に「あのふたりって、付き合ってるの?」だと噂されようが気
にしない。これは手段なんだ。
「こんな、強引にしないでよ」
「今は急がなきゃいけないときなんだ。今だけ、耐えてくれ」
「でも……」
抵抗する美麗をさしおいて、走り続ける。少し遠い図書室だけれども、今は走る。
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