一章

第3話 明日翔と棚葉は幼馴染だが仲が悪い!?

「おい、陸夜、こっちの世界に戻ってこーい」


 次の日の昼休み。


 昨日のことが頭から離れず、空間を見つめるしかなかった僕に、幼馴染の三北明日翔が話しかけてきた。


 彼はサッカー部所属の、いかにもモテそうな奴で、実際モテる。一言で表すなら、テンプレ陽キャだ。自分は現在一七三センチの身長があるのだが、明日翔はそれよりひと回り大きい。自称一八〇センチの男。基本何でも器用にこなす、ハイスペック幼馴染ってところだ。シャープな顔立ちで、目がキリッとしていて、透明感がある。本性はまともじゃないのに、モテるんだよ。結局は顔か......


「悪い、ちょっと体調悪いかもしれない」


 普段は何かしらしている僕が、ずっと椅子に座ってぼーっとしている様子を、明日翔は見逃さなかった。美麗とキスをしたわけではないけど、美麗とのハグは脳内で延々とループし続け、しまいには夢にまで出てきてしまった。


 それだけの印象をつけさせた時間だった。今日ですら、美麗の感触がある気がしてしまう。


「もしかして昨日、夜更かしでもして、えっちいビデオでも見てたんじゃない?」


「棚葉......相変わらずだな。僕だってひとりの男だけどさ」


 赤佐棚葉。こちらも幼馴染の一人。雰囲気は昔の美麗と似ている。こっちはもう、男らしさ八割くらいのボーイッシュガール。ショートカットがショートすぎて、パンチラなんか気にせず走りまわってるような女子。中学のときは男顔負けのハードな喧嘩をクラスの男子とよくやっていたのを覚えている。美麗より背がひと回り大きくて、女子の中では中の上くらいといえるかもしれない。


 バレー部所属のマジな方のスポーツ女子。サバッサバな性格で、Sっ気が凄いときあんてしょっちゅうなのに、なんだかんだ男子人が一部からはある。


 さて。ふたりと比べて、僕は。


 美麗が中学からいなくなってからのことは、思い出したくない。周りに女子が寄ってこなかったんだ。せっかくハイスペック幼馴染みが二人もいるのに、どちらかに女子が流れて、おこぼれなんてそんな大層なものはなかった。


 イケメンになりたい、なんて高望みはしない。モテ期の片鱗くらい授かりたいものだ。


「よかった。元気そうで何よりだわ。本当に疲れてたらリアクション取れないでしょ」


「そうだけどさ」


「まあそう嘘つくなって。俺がお前ん家にいったとき、ベットの下から......」


「いうな!! それ以上いったらしばくぞ」


 黒歴史を掘り返すなって、頼むから。年頃の男子はみんなそんなもんだろ??

 三人の間で、ふいに笑みがこぼれる。せっかく同じクラスになれたのに、この三人で話したのは久しぶりだった。懐かしさが込み上げてきたのだろう。


「そういえばだけど、美麗が帰ってきたな」


 明日翔が、ぼそっとこぼす。


「そうだね」


「そうみたいだね」


 苗字が変わっている時点で、全員が変化に感づいていたのは確かだった。ただ、今まで美麗のことを深掘りすることを躊躇し、あえて触れずにきた。こういう反応しかできない。


「それはそうと、明日翔は美麗が戻ってきたっていうのに何よ。昨日の帰り道は誰に告られただ、誰が可愛いのだ、って。自分がちょっと美形でもてるからって調子に乗るのマジでキモイよ」


「棚葉はそうやって口が強いからモテないんだぞ。このハイスペックの持ち腐れ女」


「うるさいわね! あんたはステータスだけはキラキラしてても、 中身はスカスカの屑でしょ。せっかく可愛い後輩に告られたのにさ、バッサリと振ったでしょ。そんなことばっかしてると見透かされるってわかんないの?」


「俺のことくらい勝手にしてくれよ、まったく……」


 棚葉は未だ納得がいっていないみたいだ。ぶつぶつ未来翔への文句をいっていた。


「明日翔、あんたにはほんと懲り懲りよ。未来翔がもう少しまともだったら、関り方も検討したいんだけどね。残念で哀れな人間をちょっと熱くなっちゃっただけ」


「おい、まだ続けるつもりかよ」


「ふたりとも、このテンションのまま数時間コースの喧嘩になったのは一度や二度じゃないからさ、ほんと、今なら間に合うから」


「陸夜がそういうならな。棚葉、今日はもうこれまでにしとくけど、今度またうるさいこといってきたら覚えておけよ」


「あんたって奴は……」


 この瞬間は棚葉と明日翔が対立気味だけど。ほんとはみんな仲がいい。本来は、ここに美麗も途中まで加わっていた。明日翔と棚葉のようなテンションだったはずなんだ。美麗は、僕らがまた昔みたいに馬鹿なことをしたら、普通に笑ってくれるのかな。

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