ドローンさんを抱えたまま、私は寒空の下でユズが出て来るのを待っていました。本当は中に入って応援してあげたかったんですが、部外者は立ち入り禁止だろうし、何よりユズの気を逸らしたくありませんでした。なので外で待機してたという次第です。

「寒いですね、ドローンさん」

「ロボットニハ、寒サガ分カル個体ガ、エアコン位シカ存在シマセン。ナノデ私ワ寒クナイデス」

「……あっそう」

 何なんですかねコイツ、説明が長い癖に言ってる事が分かり難いです。

 さて、そんな風にドローンさんをジト目で見つめる事数分、門が開かれてユズが出て来ました。ウキウキした表情から察するに、結果は良好だったのでしょう。

「エルシアちゃん!」ユズが駆け寄ってきます。

「ユズ!、どうでした?」私はドローンさんを投げ捨ててユズの元に小走りで近付きました。

「イテ」そう呟いたドローンさんは、役目が終わったと判断したのか、何処かに飛んで行ってしまいます。コキ使ってすいませんでした。

 ユズは走り寄る私に涙ぐんだ表情を浮かべながら抱き着いてきます。嬉し泣きってやつですね。……ユズが泣いてると、不思議と私も泣きたくなってしまいます。

「やったよぉぉ!、エルシアちゃぁぁん!」

「おめでとうございます!」

 私たちはちょっぴり泣きながら抱き合い続けました。冷えきった体にユズの体温が心地いいです。

 胸元では私のペンダントとユズのペンダントが擦れてぶつかり、肌を圧迫して少し痛いです。でも痛みなんてどうでもいい程、私はユズの合格を心から喜びました。

 そしてクラスは明日発表との事らしいので、私は全財産を使い切る勢いでユズと共にお祝いのお肉やケーキ、海鮮を思う存分食べ尽して、ちょーっとだけお酒を呑んで大人びた気分になりながら、ひたすら楽しんで、いつの間にか宿で抱き合ったまま眠ってしまっていました。


 次の日の朝、荷物を纏めてユズと共に宿を後にした私は、騎士学院の前に来ていました。

 今日から晴れて学院生のユズは制服を着ています。ピシッとしてて凛々しくて格好いいです。因みに学院は全寮制らしいので宿がなくても平気との事、これで私の気掛かりは全てなくなりました。

「……お別れですね、ユズ」

「……エルシアちゃんはこれからどうするの?」

「分かりません。でも家には帰りたくないんで、ぼちぼち旅は続けてると思いますよ」

「また……会えるよね?」ユズは泣き出してしまいました。

 そんなユズの涙を指で拭った私は「必ず会えます」と笑顔を見せました。

 そして泣き止むまでユズを抱きしめ続けた私は、不意に彼女のペンダントを取り外しました。そしておもむろに自分の首に巻き付けます。

「エルシアちゃん?」首をかしげながらペンダントを取り返そうとするユズ。

 そんなユズに、私は自分のペンダントを着けてあげました。

「次に会うまで交換です。だから――」遂に涙が溢れ出した私は、震えた声で続けて言います。「だから、必ず私に会いに来てください!。それまでは絶対に旅を止めません!」

「うん、うん……!。絶対にエルシアちゃんを探しに行くから!」

「約束ですよ。この先の遥か遠い場所で、私は貴女を待ち続けますからね」

 こうしてお互いに強く抱き合った私は、最後の挨拶を交わすと、振り向く事なく自分の進むべき道を歩き続けるのでした。

 私は信じてます。いつか親友が私を探し出してくれる事を。信じてるからこそ、これ以上の別れの挨拶は不要なのです。

「また一人旅ですか……寂しくなりますねぇ」

 空を見つめながら呟く私の声は、ユミリアの住民の雑多に掻き消されて誰にも届く事はなかったのでした。

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