2
ユミリアに到着した私たちは、宿に荷物を置いてから早速騎士学院に足を運びました。
そして門の前まで辿り着いた私たちは、目の前にでかでかと掲げられた看板を見上げながら読みました。
「この門を越えて来れた者のみ、入学試験の参加を認めるものとする……ですか」
ふむ、どうやら門を叩いても誰も出迎えてはくれなさそうですね。
ユズは早速門を力いっぱい押して開けようとします。ですが門は微動だにしません。まるで固定されてるかの様に、一切開く気配はないのです。
「ふんぬー!」門と格闘するユズ。
そんなユズを横目に、私は門の向こう側まで辿り着いて彼女が到着するのを待ちました。
「エルシアちゃん……どうやってそっちに……?」息切れを起こすユズが聞いてきます。
「門の端を登りました」
「それってアリなの?」
「越えられれば何でもいいんじゃないですか?」
ですがやっぱり門を開けて入りたいユズは、数時間の格闘の末、驚きの開け方で門を超えて来るのでした。
「そぉい!」
――ガラガラガラ。
えぇ、この門……いかにも普通に押引きで開けられそうな見た目ですが、まさかの横にスライドするタイプの門だったのです。私も気付きませんでした。なんじゃそりゃ。
さて、無事に門の越えれた訳ですし、後はユズが自力で何とかするでしょう。
私はユズの背中を押して応援すると、学院を出て町の探索に乗り出していくのでした。
のんびりと町の中を歩く私は、周囲を見渡します。どれもこれも建物がデカいし長いです。見た事はありませんが、時計と鐘の付いたアレが噂に聞く時計塔でしょうか?。早速行って、あわよくば登ってみましょう。
時計塔の足元に着くと、何やら水車が設置されています。そして水車からは人を乗せられる様な大きさの板が沈んでは浮き出て、時計塔の頂上まで回っていました。
「すいません、あの水車は何でしょう?」私は通り掛かりのお姉さんに尋ねました。
「あの水車?。あれは時計塔に登る為の……なんだったかしら?。エレベーター?、とか言うものだそうよ?」
「エレベーター……昔も使われてたとか言う、人を搬送する装置ですか」
ますますユミリアの町そのものに興味がわいた私は、お姉さんに「ありがとう」とお礼をすると、早速エレベーターを体験してみました。
水飛沫で服が濡れて気持ち悪いですが、それ以上に不思議な感覚が私の全身を襲っていたので気になりません。
何て言うんでしょうか……足はしっかりと着いているのに空中浮遊する感覚。エレナさんの箒に乗せてもらった時の感じに少し似ています。
不思議な体験をしつつも頂上に辿り着いた私は、見晴らし台の上から町全体を見下ろして感動しました。
「うわぁ!……凄いです!、広いです!」
町全体の石造りな建物は大きく広く長く、まるで絵本に出て来る巨人の国に来た様な気分になりました。遠くに小さく見える点は人間です、それを見て私がどれだけ高い場所に来ているかを実感すると、少し怖くなってきます。
……私はそっと足元を覗き込んでみました。
高い……高過ぎる。これは落ちたら助からないでしょうね。
「いやぁ、絶景ですねぇ」私は感心しながら町を見渡し続け、今までの事を思いふけっていました。
本当に此処までの道のりは長かったです。辛い事も多かったし遠回りもした、でも今となっては全てが大切な思い出です。そしてこの全てが大切な思い出になったのは、ユズが一緒に居たからと言う所も大きい気がします。彼女と笑い合って、喧嘩して、泣いて……そして全てが忘れる事の出来ない思い出に昇華された。そう思うのです。
「ほんと、ユズに会えて私は救われましたね……」
さて、黄昏てる時間はありません。ちゃっちゃか次の面白そうな場所を回りましょう。こうして私は町の至るとこを見て回り、夜になって宿に戻ってくるのでした。
宿に着いた私は、お湯に浸かりながら今日見て来た物の事を思い返しました。
どうやらこのユミリア、オーパーツや空白の50年の記録があると噂されるだけの事はあるらしく、至る所で安全だと分かる範囲のオーパーツを日常生活に組み込んで回っているみたいでした。その証拠に外では『街灯』とか呼ばれる、火を使わないランタンが大量に設置されていました。
他にも火を起こさないで調理が出来るキッチンや、魔法の様に熱や風を発生させて心地いい空間を作り出す横長の箱……『エアコン』とか書いてありましたっけ。他にもこのお風呂だってそうです、火を使わずに何故か水が温まり、しかも冷めないのです。
「オーパーツって何でも出来ますよねぇ」私はお湯を手で掬うと、肩に掛けました。程良く暖かくて気持ちいです。
お風呂を満喫した私は体を拭かずにオーパーツの設置された小部屋に入ると、両腕を広げて足を少し開きました。すると突然、ゴォォ――と凄い音と共に温風が私の体から水滴を吹き飛ばしてくれます。うるさいですけど、不思議と強風が気持ちいです。
しかしオーパーツは人間を駄目にするかもしれませんね……便利過ぎます。
私は体の水滴を全て吹き飛ばして部屋を出ると、寝間着に着替えながら呟きました。
「便利なんですが、欠点がありますね……コレ」そう言いながら自動拭き上げ部屋を眺めました。「ドアがスケスケですし、全身の水滴を飛ばす為には恥ずかしいポースを取らないといけませんし……」
恥ずかしさなのか、のぼせたのか、妙に顔が火照った私は急いで寝室に戻りました。
この宿は凄いですよ。『オートロック』とか言うマグロの部位みたいで美味しそうな名前をしたオーパーツで鍵が掛かり、私の顔を判別すると勝手に開くのです。旧世界って訳分かんない便利道具を使いこなしていたのですね。
天井に設置された円盤のオーパーツが私を認識して、勝手に明かりを灯してくれます。やはり火は使っていないらしく、原理は多分『街灯』と同じだと思われます。これの名前は……『センサー付き電気』とか宿のお爺さんが言ってた気がします。
「ありがとう、センサーさん」私は勝手に点いてくれた事にお礼を言いました。
「イイエ、オ役ニ立テテ、何ヨリデス」
「…………」マジですか、返事すると思わなかったです……。
はぁ、ユズにも一緒に驚いてほしいですが、彼女は彼女できっと騎士学院に設置されてるであろうオーパーツに驚きまくってるんでしょうねぇ。
私は布団にうつ伏せで倒れました。
……ユズ、寂しいです。
「エルシアサン、オ休ミニ、ナリマスカ?」
「寝ませんよ、まだ日記を書いていませんし」
トイレで用を足してから日記を書こうと立ち上がった私は、ドアを開けて便器の前に立ちました。そして驚いて固まりました。
――ウイィィン。
「!?!?!?」
え?、マジで?、トイレにもセンサーさんいらっしゃるんです?。私のプライベートは無視ですか?。
私はなるべく脱ぐ面積を少なくして用を足すと、急いでドアの陰に隠れました。
――ウイィィン。ジャバァァ。
……どうやら勝手に流れた様です。何処で私が離れた事を察知したのでしょうか?。目とか耳とかが付いてる訳でもなさそうですし、まさか触覚ですか?、便座に触覚でもあるのですか?。
「……トイレさーん?」
「ハイ、何カゴ用デショウカ?」
「……トイレさんに触覚はありますか?」
「何ヲ言ッテルノカ、私ニハ分カリカネマス」
「…………」
ふむ、触れてる感覚がある訳ではないみたいですね。
ふぃ、安心したら何だか眠くなってきちゃいましたが、最後に日記を書くまで踏ん張ってから寝ましょう。
こうして私は日記を書き終わると、謎の疲れを感じながら布団で爆睡するのでした。明日は町の中央で『空白の50年』に纏わる記事を拝見しに行きましょう。
「オ休ミナサイ、エルシアサン」
…………。
親切なのは分かりますが……ちょーっとだけ、うっさいです。センサーさん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます