10節 騎士の都、ユミリア
1
寒さに体を震わせた私たちは、白い息を吐きながら灰色の寒空を覆い隠す程に高くそびえ立つ大きな建物を見上げながら歩いていました。
後もう少しであの建物……王都内で唯一の騎士学院がある都市に到着です。そしてそこは、私の旅の終着点でもありました。
そう、私たちは遂にユミリアに辿り着いたのでした。
「話には聞いた事があったけどさ……大きな町だね」ユズは騎士学院の建物を見上げながら呟きます。
「えぇ、王都国内で2番目に大きな町です」私は日記帳を眺めながらユズに答えました。
私の日記帳には色々な事が書き込まれています。例えば自分のプロフィールとか、今まで出会って来た人の名前だとか、訪れた町の名前やオーパーツの見た目を模写したものとか。その中でも王都国民で知らない人が居ない程の知名度と伝統を持つ町、騎士の都ユミリアを調べていない筈がありませんでした。
もちろん此処が私の一応の目的地でもあったから入念に調べました。でも、オーパーツや騎士の事を除いてでも、私は一度この町に来てみたかった事も事実です。
綺麗な町並みや活気のある大通り、訓練に精を出す騎士見習いや食事も有名な場所です。一度だけお母さまに連れられて来てる筈なのですが、何故か私は当時の事をよく覚えていないのです。なので実質初めてユミリアに来る事になります。楽しみで仕方ありません。
「あぁ、そう言えば」私はユズの胸元を見ながら今更過ぎる質問をぶつけました。「貴女、騎士見習いの資格、持ってるんですよね?」
この国で騎士になるには騎士見習いの資格を所持してる事が絶対条件になります。騎士の資格を取る訓練が出来る場所はユミリアだけですが、単純に資格だけならどこの町でも取れたりします。なので私はユズが始まりの町で騎士見習いの資格を取ったと思っていたのです。レウィンさんの事を騎士隊長って呼んでたし。
しかしユズ、此処に来て冗談にならない事を言ってきたのです。
「……騎士に見習いとかあるの?」
「…………」
「……え?、その資格ないとマズい感じ?」
「…………」うっそーん。
開いた口が塞がらなくなった私を、ユズは顎に手を当てて無理矢理閉じようとします。ですがそんな事で閉じれる程に私の受けた衝撃は軽いものではありませんでした。いや嘘でしょ?、子供でも騎士見習いの事は知ってますよ?。え……本気で言ってるんでしょうか?。
私は、いや……嘘でしょ?――と言わんばかりに死んだ目で半笑いしながらユズの顔を見ました。
私の顔を見たユズは、その絶妙な表情に色々と悩んだ末に、死んだ目で半笑いしながら見返してくる――と言う謎の選択をしました。
違う。私は表情の真似をしろと言ってる訳じゃあない。
「……本気で言ってるんです?」
「うん……騎士見習いって、なんぞ?」
私は絶望に似た衝撃を全身に感じながら、止めていた足を動かしてユミリアに続く道を歩き出しました。
もう……マジで?――って言葉しか出て来ません。いや確かに今まで確認を取らなかった私も悪いですよ?、私の裏騎士のペンダントを見て不思議そうな表情をしたユズに疑問を覚えなかった訳でもないですよ?。でもまさか、騎士見習いの資格の事自体を知らないなんて……一体誰が思うのでしょう。
「とりあえず……歩きながら話しますよ……」
「……さーせん、お願いします。エルシアちゃん」
こうして私はユミリアの町の門を潜るまでの間に、騎士見習いの事や今からユズがするべき行動を簡潔に説明しました。
彼女の取るべき行動はシンプルです。騎士学院に入学して、色々な事を学んで、卒業する。そして卒業した際に貰える騎士見習いのペンダントを持って王都に行き、騎士の検定試験を受ける。……簡潔に纏めるとこんな感じです。
因みに騎士学院の卒業までに掛かる年数は五年と言われていますが、過去に半年で卒業した化け物が居たそうですよ?。……えぇ、私の母です。
まぁその事例を見ても、ユズだったら一年経たないで卒業出来るのではないでしょうか。
「とまぁ、ユズの取るべき行動はこんな感じです」
「学院で勉強か~、やだな~」
そんな話をしていた私たちは、遂にユミリアの町に足を踏み入れるのでした。
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