その後、数日眠り続けた私は病室で目が覚めました。

 医者が言うには、後一分でも病院に来るのが遅かったら死んでいたそうです。

 そして泣き過ぎて目頭が腫れたユズに何度も謝られた私は、謝るのを止めないと許さないと言い、替えのワンピースに着替えました。

 さて、色々と頭の中が落ち着いてきた私は、あの後に何かなかったか、此処は何処なのかを聞きました。


 私の意識がなくなった後、ユズは急いで病院に向かって走り出したそうです。

 その時背後から、マリナが私を呼ぶ声が聞こえたそうですが、構ってる余裕はなかったから無視したと言います。

 そして村は安全じゃない上に医療設備も整ってないと踏んだユズは、近場の町に移動して病院に駆け込んだそうです。

 そしてその町、その病院が此処――との事でした。

「すいません、本当に迷惑を掛けました。後でパフェでも奢りますよ」

「うん……所でさ、あの肉塊って何だったの?」

 そっか……ユズはアレが村長だとは知らないんでした。

「あぁ……アレですか……」本当の事を言いたい私でしたが、ユズの為だけじゃなく私の為に、彼女の問いに嘘を吐きます。「アレは夕飯用の犬肉らしいです」

「……犬って食べれるの?」ユズが微妙な表情で訪ねてきます。

「まぁ狼だって食べれるんですし、味はともかくイケるんじゃないですか?」

「……私、あそこで夕飯を食べなくてホッとしてるよ」

「……同感です。もうあんな肉は見たくもありません」

 そんな話をしつつ1週間で速攻退院した私は、新しい服を求めて服屋さんに向かいました。

 此処はかなり賑やかな町です。活気があって、道の端では大道芸や吟遊詩人が人々を楽しませています。

 この町は色に重点を置いているのでしょうか、屋根がカラフルです。

「いい町ですね……一泊します?」

 私はいつの間に買ったのか、焼き鳥を咥えるユズに聞きました。

「へふひほっひへほひひほー」別にどっちでもいいよー。多分そう言っています。

「ん~、止まるにはまだ日が高いですよね……」私は空を見上げて言いました。

 そんな時です。何やら町の中央広場に大層な装置が設置され、そこに集まる人だかりが見えてきました。何事でしょう?。

 丁度お洋服屋さんの前ですし、私は何となくその大層な装置を見に行きました。

「――っ!」私は持っていた荷物をその場に落として、両手で口を押えながら座り込みます。

 周りで驚いた人たちが私に呼び掛けてくれています、ユズもどうして私が動揺したのかを察して、優しく抱きしめてくれています。

「はっ、はっ、はっ……!」

「エルシアちゃん落ち着いて。ゆっくりと深呼吸だよ」

 深呼吸とユズが背中を擦ってくれたお陰で落ち着きを取り戻した私は、改めて正面の大層な装置……ギロチンに押さえ付けられて、それでも笑い続ける青髪の少女を見ました。

「マリナ……」

 彼女は私に反応すると「エルシアさん!。私、此処まで全員を殺して来たよ!」と、本当に幸せそうな顔を浮かべながら言いました。

「貴女は……人を殺すのが幸せだったのですか?」

「うん!。何にも縛られず、踏み付けられる事も蹴られる事もない……寧ろ今までやられてた分をやり返せる……これは幸せ以外にないよ!」

「…………………………………………」

 どうやら、私の見間違いだったみたいですね。

 彼女の心はまだ生きてると、そう思っていたんですが……実際は地獄から生き返った亡者の類でした。

 処刑人の騎士が私に、刑を執行していいか聞いてきます。

「すいません、お邪魔しました」私は騎士にそう言うと、一歩後ろに下がりました。

「エルシアさん!。私、これからも沢山殺して幸せになるよ!」

「……残念ですが、それは無理です。貴女は今から処刑されるんですよ……マリナ」

「だったら、天国や来世で沢山殺すね!」

「……貴女の行き着く先は、地獄です」

 私の声はもう届いていないのか、マリナは只々笑い続けました。

 ギロチンが落ちて、首が地面を転がっても尚……その表情は狂気の笑みと幸せを内包したものだったのです。

 結局、彼女は幸せの本質……自由に気付かないまま、その短い生涯を終えたのでした。



 あれから一月以上経った今でも、私は青い髪の少女の笑顔を直視出来ません。

 ……完全にトラウマです。

 私がマリナに言いたかった事……それは、幸せは死に物狂いで手に入れる事。そして幸せの先にある自由を掴み取る事……それが出来た時、人は本当の意味で幸せになれる――そういう事だったのです。

 ですが、完全に言葉足らずでした。

 私はもう二度と求めてない人に助け舟を出す事をせず、自分の手に負えない事には手を貸さない――そう、胸に強く刻み付けるのでした……。

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