6節 幸せを掴む少女

 この世界は、理不尽に溢れています。

 親が居ないだけで迫害され、身分が違うだけで陰湿な嫌がらせを受ける。もちろん身分の低い方が。

 そして内戦や戦争で負けた場所に住む女性や子供の末路は……語りたくもありません。

 そんな理不尽な世界でも、人は幸せを手になる事が出来ます。

 例えば、これは私の掲げる持論ですが「自分の進む道を邪魔する者は、誰であれ排除しながら進む」等が挙げられます。要は相手より強ければ良い――と言う暴論の極みです。

 他にも、神父様よろしく説教を説くとか、同じ境遇の人を集めてヒッソリと暮らすとかもあります。

 それは確かに本人たちは幸せかもしれません。今まで受けて来た仕打ちがなくなるんですから。

 しかしこれは本質的な幸せとは程遠い場所にある、言うなれば偽りの幸せです。

 ならば本当の幸せとは何か?、どうすれば本当の幸せを掴み取れるか?。簡単な事です。

 真の幸せとは、自由である事です。自由なら迫害も嫌がらせも受けません、受けても気にしない選択肢さえ生まれます。

 じゃあどうすれば自由になれるか。それも結局は「力」が全てになります。

 何も暴力じゃなくて構いません。それこそ説教でも、お金でも、裁判でも、人里離れて暮らすサバイバル能力でも、何でも構いません。

 まぁ個人的には、オラオラしてきた相手にオラオラ仕返すのが手っ取り早いと思いますが。

 何が言いたいかと言うと「自由を望むならそれ相応の努力をして強くなれ」って事です。

 だから私は、今の並の人より強い自分が好きでした。



 私たちは今、テントの前で朝食の準備をしていました。

 ユズは近くに流れる川で水浴びをしています、外で全裸になれる人って変態気質があると思います。ただの天然かもしれませんが。

「それにしても、いい天気ですね~」

 私はインスタントラーメンに注ぐお湯を焚火の前で沸かしながら、両手を組んで前方に伸ばしました。

 昨日は野営で全身が固まってたせいか、伸びが気持ちいいです。

 深呼吸をして正面の花畑を眺めた私は「この通りは絶景続きですね」とタメ息を一つ。

「エルシアちゃん、お待たせー」

 頭を犬の様に振ったユズは、クンクンと鍋から立ち込める湯気の匂いを嗅ぐと「今日もラーメンか」と呟いて座りました。

「嫌なら食べなくていいですよ?、私だけ食べますから」

「やだなーエルシアちゃん」ユズは笑いながら言うと、一気に真剣な表情にシフトしていいました。「……私が食事を逃す訳ないじゃん」

「…………」何というか……まぁそうなんですが。うん……言い方が乞食。

 さて、私も体を洗ってきましょう。

「ユズ、火の加減をお願いしますね」私は着替えとタオルを持って立ち上がりながら言いました。

「あいあい、行ってらー」

 ユズの気の抜けた挨拶を背に、私は川に向かって歩き出すのでした。


 川に着いた私は衣類を全て脱いでタオルを巻くと、川の浅い場所に浸かりながら頭を洗いました。

「…………」何かの視線を感じます。何というか、イヤらしい視線です。

頭を洗い終わった私は、水を被ってシャンプーを流しながらチラッと片目を開けました。

 うん、対岸から馬車に乗ったオッサンが凝視してました。と言うか後ろから魔物が迫ってますが平気なんでしょうか?。

 オッサンはタオル一枚の私に夢中らしく、背後から迫る魔物に気付かず馬車を停止させます。

 そして私が体を石鹸で洗い始めた時「うわーっ!?」と、魔物の存在に気付いたエロジジィは暴れ始めます。知った事ではないですが。

 そんなこんなで体も洗い終わった私は、全身をタオルで拭いてワンピースを着ると「やかましい!」と言いながら気まぐれに魔物とオッサンに石を投げつけて昏倒させるのでした。


 とりあえず昏倒したオッサンと馬車をテントの前まで連れて帰って来た私は、ジト目で私を見つめるユズに事情を説明しました。

「まぁそんな事だろうと思ったけどさー」ユズはタメ息を吐きながら言います。「エルシアちゃんは毎回さ、やり方が荒いんだよ」

「そんな事言っても……他に投げれるのはナイフだけでしたよ?」

「それは投げちゃ駄目な奴だって……」

 そんな話をしてると、オッサンの意識が戻り始めてきました。後で覗き見した事を餌に、何か譲ってもらいましょうか……冗談ですけど。

 そして意識の覚醒したオッサンは私たちに感謝の意を表すと「何かお礼をさせて頂きたい、村まで来てくだされ!」と言って、私たちに馬車の荷台に乗る事を催促してきました。

 このオッサン、覗きにはノータッチとかいい度胸してますね。えぇ?。

 ……まぁ気まぐれに石を投げて助けた。本当にそれだけだったんですが、感謝をしたいってならお言葉に甘えておきましょう。

 こうして私たちはオッサンの馬車の荷台に揺られながら、近くの村まで連れて行ってもらうのでした。

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