私たちは今、シナの前で座って待機しています。

 シナは完全に目を覚ました様で、即席で私たちが作った椅子に座りながら発声練習をしていました。

「そうだ」シナは何かを思い出したかの様に言うと、私の方を見て「どんな歌を歌う?」と聞いてきたのです。

「お任せしますよ」

「……お姉ちゃんが決めて?」

 頑なに私に要望するシナ。

「そうですねぇ……」私は髪を弄りながら言います。「シナの気持ち、それを歌にしてください」

「私の……気持ち……」

「そうです。私はシナの心の声が聞きたい」

「…………」

 暫く悩んだシナでしたが、自分の中で整理がついたのか、口を開けて空を見上げました。

 既に錆びてボロボロになった腕は動かないのか、いつもの様に胸の前で手を組む事はしません。

 そしてシナは、自分の気持ちを歌に乗せて歌い始めました。

 自分が生まれてからの事、滅んで行く村を見るのが辛かった事、それからは誰にも相手にされなかった事。

「…………………………………………」

 綺麗な星空に、シナの擦れ掛けた声が響き渡ります。

 歌うのを諦めようとした時に私たちが現れた事、そして歌に感動して拍手をくれた事、まるで友人の様に接してくれた事。

「…………………………………………」

 久々の観客に胸が躍った事、私たちの優しさに無い筈の心が温かくなった事、いずれ迎える別れが悲しいと感じてしまった事。

「…………………………………………」

 気が付くと、私は涙を流しながらシナを見ていました。

 もっと一緒に居たかった事、もっと歌を聞かせてあげたかった事、もっと……一緒にお喋りをしていたかった事。

「……シナ!」

 私は立ち上がると、シナを抱きしめました。

「私も本当は、もっとシナと一緒に居たかった!」

「…………」

「ユズに言われなかったら、本当に旅に連れて行ってた!」

「…………」

「でも!、貴女はオーパーツで私は人間……いつまでも一緒には――」

「エルシアちゃん」

 私はユズに呼び止められて、シナに語り掛けるのを中断しました。

「シナちゃん……もう眠っちゃったよ」

「……シナ?」

 何処まで私の話を聞いてたのか、それは分かりません。

 彼女の眠る表情は、嬉しそうに悲しそうに、そして幸せそうに見えました。

 シナの全身が淡く発光すると、ミキさんの時のオーパーツと同様に粒子になって消滅していきます。

 私はその光景を、涙を堪えながら見届けました。

 そしてシナは、完全に消えてしまいました。

「……今まで、お疲れ様でした」

「綺麗な歌だったねー」

「えぇ。今後聞く事は出来ない程に最高の歌でした」

 涙を拭った私は、シナが居た場所に落ちていた心臓部分のオーパーツを拾い上げました。

 どうしてこれだけ消滅しないのか、それはこのオーパーツがまだ稼働しているからです。

 心臓より先に肉体が限界を迎えた、恐らくはそういう事なんでしょう。

「さて、明日の朝にはこの村を出ましょうか」

「そだね。……所でエルシアちゃん、ソレどうするの?」

 ユズは私が手に持つオーパーツを指差しながら聞いてきました。

「荷物入れの端にでもぶら下げて、お守りにします」

「……そっか」何か言いたそうなユズでしたが、その言葉を口にする事はありませんでした。


 そして次の日の朝、私たちは廃村を後にしました。

 今日はよく晴れていますね、太陽が眩しいです。

 さて、王都までの道のりは、まだまだ長いですが頑張っていきましょう。

 こうして私たちが出会った、滅んだ村の「最後の歌姫」との物語は終わりを迎えるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る