シナと出会ってから、数日が経ちました。

 未だにオーパーツとしての彼女の調査は終わらず、まだ調べきるには数日を費やしそうでした。

 ユズには申し訳ないのですが、もう暫くはシナと遊んでてもらう事になりそうです。

「シナちゃん!、エルシアちゃんがね、シナちゃんの新しい服を作ってくれたんだ!。ちょっと着てみてよ!」

「……?」シナは笑い掛けながら首をかしげます。

 私は新しい服を抱えながらシナに近付いて「その服、ボロボロじゃないですか。せっかくだし新しい服を着てみてくださいよ、きっと美しさが変わると思いますよ?」と、そう言いました。

 数日調べて気付いたんですが、シナには知性がある様で私たちの言葉に頷いて答えたりするんです。

 今も私の言葉に微笑みながら頷いた彼女は、その場で着ている服を脱ぎ始めました。

 本当なら外で衣服を脱いだりしたら止めに入る所なんですが、まぁ彼女は人形だし平気でしょう――と、特に止める事はせず脱ぎ終わるのを待ちました。

 そう言えば、シナについて分かった事がもう二つ。

 彼女、一応会話が出来るみたいで、時々「ありがとう」と言ったりします。

 それと、知性とは別に感情もあるみたいで、怖い話を聞かせると怯えたり、悲しい話を聞かせると泣いたりします。

 さて、何だかんだで新しい服を着たシナは、立ち上がってから回って見せました。

 彼女の顔は私を見つめています。きっと「似合う?」と聞きたいのでしょうね。

「うん、可愛いです。やっぱりレースやフリルって正義ですよね」

「エルシアちゃん、こういうの好きだよねぇ。可愛いけどさ」

 ふむ、ユズにもレースやフリルの良さが分かってきたみたいですね。

 だったら今度はユズのパジャマを――。

「まぁ私は着たくないけどさ」

 おいぃぃぃぃ!!。今のは着たいっていう流れだったじゃないですか!。

 私が心の中で叫んで悶絶していると、シナが私の肩を叩いて呼んできました。

「ありがとう……エルシアチャン」

「――っ!?」名前を呼ばれた事が嬉しくて、私は両手を口元に当てました。

 しかし今の言い方だと、恐らく「ちゃん」の意味が分かって無いみたいですね。

「シナ、私の名前はエルシアですよ」

「エルシア……」

「そうです。そして可愛い子には、名前の後ろに「ちゃん」を付けるんです」

「エルシア……ちゃん?」

「はい。エルシアちゃんです」

 私は舞い上がりながら、シナに色々な事を話しました。

 私は絶世の美少女である事。強くて可愛い旅人である事。そして面白い事を探して世界を見て回ってる事。他にも色々と、私の事を話しました。

「おーい、エルシアちゃーん。自分の事美化し過ぎじゃ無い?」

 後ろからユズの冷めた声が聞こえますが、気にしません。

 しかしアレですね。娘に色々な事を教える親って、多分今の私が感じてる様な嬉しさだったり楽しさを胸に秘めながら話してるんでしょうね。

 シナは笑顔で私の話を聞き、分からない事は聞き返してくれています。

 まるで娘……と言うよりは妹が出来た気分です。

「シナ、私の事をお姉ちゃんって呼んでみてくれませんか?」

「エルシアちゃん!?」ユズは私の奇行に驚きの声を零しています。

 最初は意味が分からずに戸惑っていたシナでしたが、何かを察した彼女は微笑みながら「分かった、お姉ちゃん」と言ってくれました。

「…………」ヤバい。本当に念願の妹が出来たみたいで、涙が出て来ました。

 私は一人っ子だったので、周りの兄妹や姉妹が羨ましかったんです。

 まさかこんな場所で疑似的とは言え夢が叶うとは……旅に出て良かったです。

「はい、お姉ちゃんですよ」

「エルシアちゃーん、帰ってこーい」

「さて、お姉ちゃんに何か歌って聞かせてもらえますか?」

 私の問いに笑顔で頷いたシナは、新しい服を風に靡かせながら胸の前に手を当てました。

 私たち以外に誰も居ない廃村の中を、シナの美声が響き渡ります。

「シナの歌は、やっぱり綺麗ですね」私は目を閉じて、彼女の歌に没頭しました。

 さて、可愛い妹の歌を聞いていたい所ですが、私は私の調べ物を片付けなくちゃ。

 こうして今日も私はシナの調査をして、一日を終えるのでした。


「エルシアちゃん、ちょっと話があるんだけど……」

 仮拠点に戻ってきて夕飯を食べてる時、ユズが真剣な顔で話し掛けてきました。

「何です?」私は鹿肉を頬張りながら聞き返します。

 するとユズは、何か言い難そうな顔を見せた後「シナちゃんを妹として見るのは止めた方が良いよ?」と言ってきたのです。

「…………」

「エルシアちゃんが喜んでるのに、こんな事を言うのは嫌なんだけど……」ユズは悲しそうな顔をして話し続けます。「直ぐにシナちゃんとの別れは来る、その時にエルシアちゃん……彼女の事を置いて行ける?」

「…………」

「今のままのエルシアちゃん、彼女も連れて旅を続けそうな勢いなんだよ」

 だから妹と思うのは止めた方が良い。感情移入しない方が良い――と、ユズはそう言いました。

「…………」ユズの言う通りです、余りシナに深入りするのは良くないと分かっていました。

 そもそも私が一人で居る事が多い理由、それは感情移入しやすいからです。

 親しくなれば、その人の事が嫌でも見えて来る。

 そうなった時に私は、まるで本人かの様な感情を抱いて自らを危険に晒してしまう。

 それが旅をするうえで、どれだけ危険な行為か分かっていながらも……私は相手の為に手を貸したくなってしまうんです。

 それを予防する為にも、私は誰とも関わらずに一人で旅をしていました。

「……そうですね。早い事切り上げて、此処を出ましょう」

「うん……ごめんね、こんな言い方しか出来なくて」

「いえ、十分に優しかったですよ。ありがとう」

 こうして私たちは夕飯を食べ終わり、眠りに就くのでした。


 そして次の日の朝、私はシナの歌でも聞きながら朝食を作ろうかと思って彼女の元に向かいました。

 そしてそこで見つけたのは、死んだかの様に崩れ落ちるシナの姿でした。

「シナ!?」私は慌てて彼女の元に駆け寄りました。

 抱き上げて確認した所、魔物による攻撃を受けた傷は無いです。

 私の存在に気付いて目を開けたシナは、私の手に触れながら力無く笑うと「おはよう」と言ってきました。

「シナ……どうしたんですか?、元気がありませんよ?」

 私の問いにシナは「もう……疲れちゃったのかもしれない」と、青空を眺めながら答えました。

 気が付けば、シナの体……オーパーツは錆び始めています。

 オーパーツは、完全に壊れると錆びてボロボロになる様に作られています。今まで見て来た物もそうでした。

 つまり、シナはもう……。

「お姉ちゃん」シナは俯く私の頬を撫でると、弱々しく言いました。「今日が最後の歌になる」

「……分かりました。無理はしちゃ駄目ですよ?」

 私の返答に頷いたシナは、再び目を閉じて眠ってしまいました。

 その後、結局仮拠点で朝食を作った私は、ユズに彼女の事を話しました。

「そっか……突然だね」

「えぇ。ですが彼女も言ってしまえばオーパーツ……どう動てるかも分からないんですし、いつ壊れたって不思議じゃないんですよ」

「それに魔物にも襲われてた訳だしね」

「えぇ……尚の事限界が早かったのかもしれないですね」

「……大丈夫?」ユズは私の肩に触れながら聞いてきました。

「えぇ……平気です」私は顔を上げて答えました。「彼女が生きてる間に、全て調べてしまいましょう」そして全てを片付けた後、シナの最後の歌を聞きましょう――と。

 ユズは頷いて、微力ながらも協力をしてくれると言いました。

 本当は数日掛けて細かく調べたいと思っていたんですが予定変更です。今まで見たオーパーツと被ってる部分は調べずに、初めて見る物だけを集中的に調べます。

 さて、調べるとは言ったものの、既に初めて見る部分のオーパーツは日記に書き留めてあるんで、後はどういった稼働をするのかを調べるだけだったりします。

 そして寝ているシナを調べて気付いたのが、オーパーツは人体の骨格と酷似する様な管で全身を繋いでいる、という事です。

 恐らくこれがシナを自立させて動かしている正体でしょう。

 そして頭部ですが……流石に開きたくないんで見ませんが、察するに疑似的な脳が埋め込まれてるんだと思います。

 そして胸にあるオーパーツ、やはりこれは心臓の様です。

 常に稼働し続けて、定期的に何かを生成、全身の管に供給してるみたいでした。

 つまりオーパーツ……と言うか旧世界には、人間を疑似的に作る技術が存在したって事になります。

「……つくづく恐ろしいですね、旧世界」

 これ以上の調査は必要ないと思った私は、この出来事を日記帳に纏める為に仮拠点に戻っていきました。

 纏める事は沢山あって、かなり苦労しそうですね。

 そして、日記を書いている内に、気が付けば夜が近付いて来ていました。

 ……最後の歌を聞きに行きましょう。

 何かを覚悟した私は立ち上がると、日記と羽ペンを置いてユズと共にシナの元に向かうのでした。

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