5節 最後の歌姫

 そう遠くない廃村に、未だに動き続けるオーパーツを組み込んだ人形が居る――。

 この話を聞いた私たちは、その廃村に向かって歩みを進めていました。

「しかし、珍しいですね」私は顎に指を当てて考える様にしながら呟きました。

「何が?」そんな私を見て、不思議そうにユズは首をかしげます。

「考えてもみてください、ユズは動くオーパーツを見つけたらどうします?」

「うーん……王都に連絡して、回収してもらうかな?」

「ですよね。仮に王都に連絡を入れなくても、普通は放置しないと思うんですよ」

「でもエルシアちゃんって、結構オーパーツ拾うよね?」

「私に場合は誰も近付かない場所に落ちてる奴ですし、多分未発見のオーパーツですよ」

 そんな話をしてると、私たちの眼前に廃村が見えてきました。

 ……不思議な感じがします。滅んでて悲しいのに……何か温かいものを感じます。

 私は、この何とも言えない不安に近い気持ちを抱えながら廃村に足を踏み入れていくのでした。


 廃村に着いた私たちは、野営する事も見越して何処か形の保っている建物を探しました。

 しかしまぁ、見事に滅んでますね……。これは魔物の仕業でしょうか?。

 トボトボと灰色の空を見上げながら歩いていた私でしたが、急にユズから「エルシアちゃん、あれかな?」と声を掛けられて、視界を空からユズの指先に移しました。

 そこには決闘上の様な場所の上で、項垂れて動かない人形がポツンと転がっています。

「いや、動いてないし違うんじゃないですか?」

 私は人形の所までよっこらせ――と、なんだかお婆さんが言いそうな言葉を口にして上ると、人形の手を掴みました。

 ふむ、驚く程に綺麗な肌です。温かくは無く、血の通っていない肌色である辺り、エレナさんの様に人形みたいな人間……なんて事はなさそうです。

 それにしても、どうしてこの人形、肌も髪も目も綺麗なのに、こんなにも服がみすぼらしいんでしょうか?。

 かなりボロボロになった服は、かつては綺麗な装飾が着いていた事が窺えます。まぁ今は見る影もありませんが。

「エルシアちゃん、どう?」ユズもどっこいせ――と、お婆さんみたいな言葉を口にしながら「それが話に聞いてた人形っぽい?」と尋ねてきました。

「どうもこうも……」私は立ち上がって周囲を見渡しながら「この人形以外、原型を留めてる物、無いじゃないですか」と、腰に手を当てながらタメ息を吐きました。

 うわぁ、寝床どうしよう……。

 さて、とりあえず目の前の動かない人形が、例のオーパーツが組み込まれた人形だと断定した私たちは、急いで寝泊まり出来る場所を探しました。

 もうこの際しっかりとした家が良いなんて贅沢は言いません。とりあえず雨風を凌げる場所があれば、それで十分です。

 と言うのも、空模様がかなり怪しく「そろそろ雨降らせんぞワレィ!」と言わんばかりに、雷がゴロゴロ鳴っているんです。

 と言う訳で、人形が居た闘技場みたいな場所の下に掘って作られた広いスペースがあったんで、今日は此処を仮拠点にして夕飯の支度を始めます。

 しかし此処、元は何の部屋だったんでしょう?。

 ボロいとは言え、まだ使えるキッチンやベットがあり、比較的綺麗な衣類が仕舞われています。

「……お借りしますね」

 何となく勝手に使うのが申し訳なく感じた私は、手を合わせてから、使えそうな物を漁り始めました。

 さて、設備が良かったという事もあり、今日の夕飯は主食にパン、主菜に鹿肉と野菜の炒め物、副菜に大根の味噌漬け、汁物に鹿肉入りスープを作りました。

 本当はもっと凝った物を作りたいんですが……まぁ旅の最中だと色々と設備も食料も足りないんですよ。

 そう言えば食事を作ってる最中、私は師匠のしつけを守って家事全般をこなしていた事を思い出していました。

 まぁ実際の話、しつけと言いながら自分が家事をしない口実を作っていただけらしいんですけど……。

「……なんか嫌な事を思い出しちゃいました」

 私は夕飯を「美味しい、美味しい」と言いながら幸せそうに食べるユズを見て、なぜか泣きたくなってしまっていました。

 ……そう言えば師匠、私のご飯を「美味しい」なんて一度も言いませんでしたね。

 それどころか家事全般で褒められた事が一度も無い気がします……。

 気が付くと、私の頬から熱いものが流れ落ちていました。

「だ、大丈夫?」

 ユズが心配して私の隣に座ると、肩を抱き寄せてくれました。

「大丈夫です。私のご飯を美味しいって言って、幸せそうに食べてくれる事が嬉しかっただけですから……」

「……エルシアちゃんのご飯は、いつも美味しいよ?」

「インスタントですけどね」

「……テントを出すのも早くて助かるし」

「ボタン一つで開きますよ」

「えっと……歌も上手い!」

「この前ユズに音痴って言われましたけどね」

「あー……ご飯が美味しい!」

「それ、さっき言いましたよ」

「えぇ?。あー……えーと……」

「……ぷっ。ふふふふ」頭を抱えながら私を励まそうと必死になるユズが可愛くて、私は思わず噴き出して笑いました。

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたユズが私を殴って来ますが、私はその攻撃を難無く回避、くすぐって反撃します。

 さて、そんな風にじゃれていると、何処からか女性の声が聞こえてきました。

「エルシアちゃん、これって……」ユズは乱れたブラウスを直し、ボタンを止めながら聞いてきます。

「えぇ。あの人形の声でしょうね」私は乱れた髪を梳かしながら言いました。「行ってみましょうか?」

「うん、人形がどんな動きをするのか気になるしね」

「ですね。ってか私は人形が喋る事に私は驚いてますけどね」

「……確かに」

 こうして私たちは、夕飯を一気にかき込むと、急いで人形の元に向かって行くのでした。

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