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「いやー!、エルシアちゃん強かった!。めっちゃ格好良かった!」
「うん!、エルシアさん素敵でした!。結婚してください!」
「ふふっ、ハク。次にふざけた事言ったら、絞め殺しますよ?」
「…………」
賭博場を後にした私たちは、宿のお婆さんに挨拶を済ませて荷物を回収すると、町の門の前まで来ていました。
「あ、そう言えば――」私は思い出した様に「ハク。これは貴女の取り分です」と言って、多めに勝って得た金額を渡しました。
「……良いの?」ハクは涙目で私を見つめながら、その金貨300枚を大切そうに、そして重そうに胸の前で抱えながら聞いてきました。
「えぇ、構いませんよ。私たちもガッツリ儲けてますし」私はそこそこ大きな麻袋に、溢れ出すほど入った金貨を見せながら言いました。「ただし!、もうスリは止めてください。次にあった時、同じ事をしてたら……絶対に助けませんから」
「……約束する」ハクは真剣な眼差しで、私に返事をします。
「よろしい。そしてユズ、もう今臨在、自分だけでは解決出来ない問題に直面したら、一人で何とかしようとしないで、私に相談してください」
「……良いの?」ユズは申し訳なさそうに聞いてきます。と言うかハクと同じ聞き方は、笑いそうになるから止めていただきたいです。
「えぇ、ユズの為だったら私も頑張りますよ」
私がそう言うと、ユズは嬉しそうに抱き着こうとしてきました。
そんなユズが抱き着いたのは、私が身代わりとして差し出したハクでした。
「??????」何故に自分が抱き着かれてるのか理解出来ないハクは、ユズ胸の中で顔を真っ赤にして固まってしまいました。
そんな光景を面白おかしく見た私は、一人で離れた場所に歩いていきます。
「エルシアちゃん?」ユズが心配そうに呼び掛けてきます。
「ちょっとお花を摘みに行って来ます」
「……エルシアちゃんって花好きだったっけ?」
「おしっこですよ。言わせないでください、恥ずかしい……」
私はユズにそう言うと、一人で木々の生い茂る場所に小走りで向かって行きました。
そして良い感じの場所に辿り着いた私は、周囲に人影が無い事を確認すると、近くに流れる小川の前に立ちました。
あ、先に断っておきますが、おしっこに行くと言うのは嘘です。
「よし」私は少し前屈みになると、勢い良く両手を広げました。
バサバサ――とローブがはためくと、そこからは不思議な事に、大量のトランプカードが……。
そうです。私のイカサマとは、ローブの下に予めロイヤルストレートフラッシュの5枚を仕込んでおく事でした。
服や下着の紐、それ以外の挟めそうな部分に、大量に準備してあったのです。
そしてこれが、天才賭博幼女エルシアが見つけた「必勝法」だったのです。
全てのカードを出し切った私は、最後に胸の間に挟んでた5枚を手に持つと「……やっぱり谷間が出来る程に大きくないと、胸に挟むのは無理がありますね。角が刺さって痛かったです……」と呟いて、投げ捨てました。
パラパラと散るカードが飛んで行くのを確認した私は「さて、戻りますか」と呟き、ユズたちの待つ門の前まで戻っていくのでした。
で、門の前まで戻って来た訳なんですが……何これ?。
「ぬわぁぁぁぁん!!。ハクちゃぁぁん!!」
「うぇぇぇぇん!!。ユズさぁぁん!!」
二人は号泣しながら抱き合っていたのです。……いやマジで何してるん?。
遠目から他人を装って二人を見ていた私でしたが、ユズのアホ毛が私を探知した事により、バレてしまいました。
「あ、エルシアちゃん!」手を振りながら寄って来るユズ。
「止めて!、変な奴の友達とか思われたくないから来ないでください!!」
結局ユズに捕まった私は、二人が号泣していた理由を聞きました。と言うか、言い訳の様に聞かされました。
なんでも賭博中は気にしていなかったらしいんですが、私が負けた場合、一生あの連中に恥辱を味あわされてたんだと思うと、涙が止まらなかったそうです。
でも私は言いました。万が一にも、億が一にも、兆が一にも負けは無い――と。
まぁ確かに、私は私の腕前を知っていたし、負けても連中を全滅させれば良いと思っていたんで、あんな無茶な賭け方が出来た訳ですが、ユズたちからしたら恐怖だったでしょうね。
「すいません。配慮が足りなかったですね」私は抱き着く二人の頭を撫でました。
「エルシアちゃん、体温低いね」
「エルシアさん、胸小さいですね」
「あははっ。ハク、貴女いい加減ぶっ殺しますよ?」
「ひぃ!?」
そんな感じを会話をしていた私たちですが、そろそろ遂に別れのタイミングがやって来ました。
「さて、行きますか」私は二人を離れさせて言いました。
「うん……行こうか」ユズは最後に、ハクと握手を交わしました。
「二人共、本当にありがとうございました!。どうかお気を付けて!」
ハクは私たちに手を振り続けました。
彼女の影が小さくなっても。
町が見えなくなっても。
それでも彼女の声は聞こえて来る気がしました。
「ねぇねぇエルシアちゃん?」
「はい?」
ユズが楽しそうに話しかけてきます。それに対して私は、いつも通りのテンションで返事をしました。
「たまにはさ、人助けも悪くないでしょ?」ユズは憎たらしい程にニッコニコの笑顔で問い掛けてきます。
「……そうですね。悪くないかもしれません」
そう返答す私に、ユズは「つんとするエルシアちゃん可愛い!」とか言いながら、頬を突っついてきました。
私はユズの指を掴んでブンブン振ると「所でユズ、貴女宿に居ない間、何処に居たんです?」と尋ねました。
「あー……ハクちゃんの家だよ」
「宿があるのに?」
「エルシアちゃんにさ……合わせる顔が無かったんだよ……いでででで!?」
ユズの無意味な気遣いを聞いた私は、指を変な方向に曲げようとしました。
「変な気遣いはしなくて良いんです!。私……ユズが居なくて寂しかったんですよ?」
本音をぶつけた私は、ユズに抱き着きました。
「……もう、勝手に居なくならないでください。友達が居なくなるの……嫌なんです」
「……うん。ごめんね、エルシアちゃん」
そうして抱き合った私たちは、私が満足した後で、再び王都を目指して歩き始めるのでした。
〇
それから数週間後、ユズは小さな町で行商人から手紙を受け取っていました。
「ユズ、誰からですか?」私は彼女の背後から抱き着きつつ、手紙を覗き込みました。
そしてそこに記されてた名前は、ハクだったのです。
「ユズさん、お手紙ありがとうございました。この手紙が届くかどうかは分かりませんが、今の私の状況を報告させてもらいます。まず、私はエルシアさんから頂いた金貨300枚で、賭博場の経営者になりました。これからも稼いでいきたいと思います。つきましては――」
私はそれ以上読む事無く、ユズから手紙を取り上げると、ビリビリに破いて捨てました。
あの町に居た時、ユズは私がカードを捨てに行ってる間、今後の彼女がまた困る事が無い様に、連絡を取り合おうと約束していたらしいです。
ですが、彼女は私たちが望んだ道とは正反対の所に歩いて行ってしまった様でした。
と言うのも、あの町に賭博場が多い理由……後から知ったんですが、あれは違法経営の金貸しの隠れ蓑として、賭博場を運営していたからだそうです。
しかも賭博運営者の金貸したちは、更なる標的として近隣の町をの飲み込もうとしてると聞きます。
つまりハクは……お金に目が眩んだ結果、かつての自分と同じ存在を作り出す、腐った連中の一人になってしまった――そういう事でした。
「…………………………………………………」ユズは絶望した様な、怒りに満ちた様な表情で、顔を下げていました。
「……私が、余計なお金をあげた所為ですね」
「……エルシアちゃんは悪くないよ。……悪いのはハクちゃん」
「そう……ですね……」
もうハクとは二度と出会う事は無い――そう心に決めた私たちは、気分の晴れないまま、旅を続けていくのでした……。
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