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私たちは、エレナさんの魔法のお陰で、現在入浴中です。
しかし魔法って便利なもんですね。何も無い場所から水も出せて、オマケに沸かせるんですから。
私も使える様になれば、きっと旅が楽になるんでしょうけど……まぁ普通の人には魔法は使えないでしょう。
さて、エレナさんがこのゴーストタウンに居た理由なんですが、急に眩暈がして不時着した場所が、あの井戸の前だったとの事です。
余りの気持ち悪さに項垂れていたら寝てしまっていて、起きたら私たちが地図を広げて、この場所に泊まるか否かを悩んでいた所だったんだとか。
因みに彼女も旅をしてるとの事でしたが、その旅の目的は魔女の友人を捜索する為らしいです。
「お互い、目的の為に頑張りましょう」エレナさんは胸の前でガッツポーズを取ると、張り切った様子で湯船から立ち上がりました。……スタイル良いですね。
そんな感じでお風呂を満喫した私たちは、今度は夕食を食べました。
しかし宿は閉鎖中なんで、食事は私の持っているインスタントカレーと、エレナさんの持っていたコーヒー豆を挽いて作ったブラックコーヒーでした。夕飯が真っ黒くろすけです。ってか組み合わせが最悪な気がします……。
無事に夕飯を食べ終わり、歯磨きも済ませた私たちは、エレナさんの魔法で明るく灯った寝室で各々のしたい事をしていました。
私とエレナさんは日記を、ユズは布団の上で跳ねて遊んでいます。埃が立つから今すぐ止めていただきたいです。
そしてエレナさんも日記を付けてるとの事だったので、私たちはお互いの日記を交換し合い、旅をしながら綴った記録を拝見していました。
私は旅を始めてから日が浅いんで大した事は書けていないんですが、エレナさんの旅の記録は驚く程に長く、そして色々な事を体験しながら此処まで来た事に感心してしまいました。旅も日記も止めないのは凄い事だと思います。
さて、いい加減に眠くなってきたんで、私はいつの間にかベットで寝てしまっていたユズの隣に潜り込み、目を閉じました。
……どうやら私の直感は外れたようで、何事も無く夜を越えられそうです。
次の日の朝、私は切羽詰まったユズとエレナさんに叩き起こされました。
「おはようございます……早起きですね……」私は目を擦りながらカーテンを開けました。
まだ外は真っ暗です、どうやら夜中の様ですね。……二度寝決定です。
しかし寝ようとする私を、ユズは必死に妨げてきます。
「ユズ……。私は自分の進む道に障害があったら……それを排除しながら進む人間ですよ……?。だから寝かせてください……死んでしまいます……」
「ちょっと寝ぼけてて何言ってるのか分からないけど……今は寝てる場合じゃ無いんだって!」
ユズは往復ビンタで私の眠気を明後日の方向にぶっ飛ばしていきます。
流石に目が覚めた私は、ユズに無言のチョップでお返しをすると、改めて何を焦ってるのかを聞きました。
どうやらエレナさんは、魔法で時計を作っていたらしいんですが、何故か半日程経ったのにも拘らず、外は暗いままだと言うんです。
いくらなんでも夜が長過ぎると感じたエレナさんは、一旦この町から離れて、周りの様子を確認しようとしたらしいんですが、そこでヤバい事に直面したと言います。
それは……町から出れなくなってるらしいんです。
言ってる意味が分からなかった私は、とりあえず宿から出ると、町の門から外に踏み出してみました。
私の足は普通に外の大地を踏み、何の抵抗も無く町の外に歩き出せます。
「なんだ、普通に出れるじゃないですか」あくびをしながらそう言った私は、目の前の光景を見て口を開けたまま固まってしまいました。
「…………」
「あはは、お帰りなさい……」
「……エルシアちゃん、私たちの言ってる事……分かってもらえた?」
えーっと、私は今、外の大地に向かって歩きました。
なのに眼前には、ゴーストタウンに佇むユズたちが居ます。
「……?」
意味の分からなかった私は、もう一度外に出ようとしました。
問題無く外に進んでいますが、何故かまた行き着く先が、ユズたちの前……。
うーん?、頭が痛くなってきたぞー?。
どうやら二人は寝ぼけていて変な事を言ってる訳じゃ無く、本当に訳の分からない事になっていて焦っていたみたいですね。
そして私は確信しました。私の直感通りに、とんでもなくヤバい事に巻き込まれている事に。
一旦作戦会議をしようと、宿屋に戻った私たちですが、今度は此処でも問題が発生しました。
私たちの寝泊まりしてた部屋から、首に鎖を巻き付けて、白い服を着た黒髪の女性が這いつくばりながら出て来ていたのです。
「ひぃっ!」涙目になりながらユズに抱き着く私。
ユズは優しく私を抱き返してくれていますが、彼女も震えている事に気付きました。
アレって……間違い無く幽霊ですよね!?。無理無理無理無理!!!!。
そんな私の恐怖心が伝わったのか、幽霊は私の方を見るとニタァッと笑い、驚くほどのスピードで、四足歩行のまま追い掛けてきました。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」驚きのあまりユズを階段から突き落とす私。
転げたユズは「おぶぁ!?」と変な呻き声を出すと、首を擦りながら立ち上がろうとしました。
そんなユズを踏み台にして走り去ろうとする私は、変な風に体制を崩してしまい顔面から地面に激突しました。
鼻血が出ましたが、それでも構わずに、私は転びそうになりながらも宿からダッシュで逃げました。
そして井戸の前に到着した私は、変な物を発見してしまうのでした。
……鎖です。鎖が井戸の底から出て来ていたのです。
そういえば幽霊も、首に鎖を巻き付けていましたね……って事は本体この下に繋がってるじゃん!!。
私は音を立てない様に、ゆっくりと後ずさりました。
そんな時でした。私の背後から、異常な程にヒンヤリとした女性が抱き着いて来たのです。
「――っ!?!?」思わず硬直する私は、足が震えて今にも腰が抜けそうでした。
確認なんてしたくないんですが、私は後ろから抱き着く存在の方に顔を向けました。
するとそこには、顔が真っ青の女性が至近距離で私を見つめて何かを喋っていたのです。
「いぴぃぃっ!?」変な声を出して固まる私は、不思議と幽霊から目が離せなくなりました。
そんな時です。急に飛んで来た火の玉は幽霊に命中すると、その場で小爆発を起こしたのです。そしてその直後、私は助けに来てくれたユズに引っ張られながら、その場から走り去るのでした。
「すいません……本当に助かりました……」冷静さを取り戻した私は、何度も二人に頭を下げました。
「エルシアが無事で何よりです。幽霊になっちゃう所でしたね」
「そうそう!、それにエルシアちゃんが幽霊苦手なのも分かった事だし?今後の旅が楽しみになった訳だし?」
「…………」もしかしてこの二人、かなり怒ってるのではなかろうか……。
まぁその辺りの考えはさて置き、今は幽霊を倒す方法を考えなくてはいけません。
因みに私の直感は……あの井戸に飛び込めって言っています。そんなのは馬鹿の所業だと思います。
そもそも井戸って深い訳ですし、落ちたら死にますし……。飛べれば話は変わってきそうですが。
……ん?、飛ぶ?。
「さて、いい加減にこの場所も彼女に気付かれそうですし、何か案がある人はいますか?」
エレナさんが外を眺めながら聞いてきました。
私は少し戸惑いながらも、提案を出してみます。出来れば却下してほしいです。
「あの……エレナさんって飛べますよね?」
「えぇ、魔女ですから」
「幽霊に物理的な攻撃、当たってましたよね?」
「物理と言うか、火の玉ですが……まぁ当たってましたね」
「…………」
「エルシアちゃん、顔真っ青だよ?」
ユズに背中を撫でられながら、私はエレナさんに「私を井戸の中に連れて行ってください」と頼みました。
作戦はこうです。
運動神経も良く、遠距離武器を持ったユズが幽霊と対峙する。
そしてエレナさんは私を乗せて、井戸の底まで行く。
私は井戸の底にある「何か」を直感で探す。
作戦ですら無い様な気がしますが、とりあえずはそんな感じです。
流石にこの作戦は二人共拒否する……そう思っていたんですが、ところがどっこい、まさかの満場一致で賛成でした。えぇ……?。
二人が私の作戦に乗った理由なんですが、意外にも「何も思いつかなかったから、何でもいいやと思った」との事でした。貴様等ふざけてんですか。
さて……嫌々ですが作戦を決行する事になった私たちは、私の直感で幽霊の来なさそうな道を選んで、徐々に井戸に近付いていきます。
しかし私の直感、凄いですね……。マジで幽霊に遭遇しません。
そして井戸まであっさりと到着した私は、早速エレナさんに井戸の底まで連れて行ってもらいました。
「行ってら~」ユズが気の抜けた声で手を振っています。
……多分一番大変なのはユズなんですが、その事を理解してるんでしょうか……?。
まぁ何はともあれ、私たちは無事に井戸の底まで到着しました。
井戸の底は真っ暗で何も見えませんが、エレナさんが魔法で灯してくれたお陰で、かなり周囲を見やすくなりました。
「さて、此処からは私の番ですね」
私はぐるっと周囲を見渡し、自身の直感に身を任せて走り始めました。
そして暫く進むと、其処には小さな家が建っていました。そして家の煙突からは、例の鎖が伸びています。
鎖が繋がってた以上、この場所は幽霊と縁のある場所だと思うのが普通でしょう。
下唇を噛んで恐怖心を抑え込んだ私は、意を決して小さな家のドアを開けました。
――ギギギギギ。
軋む音を立てながら、ドアはゆっくりと開いていきます。
そして見えて来たドアの向こう、そこには……幽霊と同じ服を着た少女の骨が、家族のものと思われる骨と共に食卓を囲んでいました。
そしてこの時に私は、この食卓の風景が探索中に見つけた、まるで昨日まで使われてたかの様な痕跡を残す民家と同じだという事に気付きました。
「これ……どういう事なんです……?」私は恐る恐る骨の前に歩み寄ります。
その時でした、背後から「それ以上近付くな!」と、怒ってるかの様な少女の怒声が聞こえてきました。
振り返ると其処には、気絶したユズを抱えた幽霊の姿が。
「……此処は何なんです?」私は幽霊に尋ねました。
幽霊は暫く黙ったままでしたが、何かを覚悟した様に「私の家だよ」と言いました。
「どうして井戸の底に家が?」
「……昔は、此処は井戸じゃ無かった」
「なるほど。それじゃあ別の質問をします。貴女は何で私たちを此処に閉じ込めたんですか?。そもそも此処は地図上に存在しません、私たちを何処に連れて来たんですか?。そして、なんで貴女は成仏しないんですか?」
私は纏めて幾つかの質問を投げかけました。
その質問に、幽霊は1つずつ答えていきます。
まず成仏しない理由は、したくても何故か出来ないとの事らしいです。
そして成仏出来ずに一人で悲しかった彼女は、いつしか無くなってしまった自分の住んでた街を、複製して作ったそうです。
暫くはそこで楽しく暮らしつつ、成仏するのを待っていたそうなんですが、いつまで経っても成仏は出来ずに、とうとう一人で居る事が苦痛になってしまったんだと。
そう思ったタイミングで、丁度私たちが来たんで、ほんの少しだけ遊んでほしかったから閉じ込めたとの事でした。
だとするとユズが気絶してる理由も、私が骨に触ろうとして怒る理由も分からなかったんですが、幸せだった家族の記憶を他人に汚されたくは無かったそうです。
そしてユズなんですが、物理が効くとか何とかで、幽霊にロケット頭突きを決めようとしたらしく、幽霊が躱した事で石の壁にめり込み、気絶したらしいです。
気絶したユズは放って置いて、私たちは幽霊に「私を成仏させて」と頼まれました。
エレナさんは二つ返事で了承しましたが、私は拒否する姿勢を取りました。
「残念ですが、私は貴方の成仏を手伝う気はありません。今すぐ解放してください」
私の刺々しい言い方に涙目になった幽霊は「どうしても……手を貸してくれないの?」と尋ねてきます。……自分勝手も甚だしい。
私は深くタメ息を吐くと「どうして手を貸さないといけないんです?。勝手に閉じ込めて、追いかけ回して、それで今度は成仏させろ?、付き合いきれる訳無いじゃないですか!」と、畳み掛ける様に言いました。
ですが私の言い方が気に入らなかったのか、エレナさんは「彼女を成仏させるまでは、私は井戸から出ませんよ」と、少し怒った様な口調で言ってきました。
エレナさんの言わんとしてる事。それはつまり、私をこの場所から出す気は無いと言ってるのと同義でした。
「…………」
「…………」
暫く睨み合う私とエレナさん。
私、この人の性格は苦手かもしれないです。ユズとは気が合いそうな気がしますが。
しかし帰れないのは困ってしまうんで、私は仕方なく幽霊の彼女を成仏させる方法を探し始めるのでした。
因みに鎖は煙突に絡まってるだけなので、成仏させる方法はノーヒントで探さなくてはいけません。
彼女を成仏させる方法を探してる間、私たちは彼女の生前の話を聞いていました。
裕福では無かったものの、家族と食卓を囲める事が幸せだったと、そう懐かしそうに語っています。
本当は「早く家族に会わせてあげたい」とかの台詞が出て来るのかもしれませんが、生憎と私的には心底どうでも良かったんで、特に何も感じず「昔の生活ってそんな感じだったんだ」と思いながら聞き流しているだけでした。
そんな時です、彼女の骨を何となく眺めていた私は、服の中で胸の部分が光っている事に気付きました。
「二人共、見てください」私はエレナさんと幽霊を呼ぶと、彼女の胸部を指差して「コレ、何で光ってるんでしょう?」と尋ねました。
しかし二人共思い当たる節は無いとかで、本人の了承の元、私は彼女の骨が着てる服を脱がせました。
「キャッ、恥ずかし!」とか言ってますが、ただの骨に恥ずかしい要素は無い気がします。
エレナさんも骨が恥ずかしい感性が分からないのか、引きつった笑みで幽霊を見ています。
そして服を脱がせた私は、彼女が成仏できない理由を悟るのでした。
彼女の胸の、本来は心臓がある部分では、オーパーツが光り輝いていたのです。
このオーパーツがどういった効果を持つ物体なのかは定かではありませんが、恐らくは魂とか意思とかをその場に繋ぎ止める、或いは呼び戻す物なんじゃないでしょうか。
そして何らかの原因で、彼女の生前に誤作動を起こしたオーパーツが今でも動き続けて、彼女の成仏を妨げているのではないかと思われます。
きっとこのオーパーツを取れば成仏出来る、そう彼女に告げると、私は取り外す許可を求めました。
「……コレね」彼女は涙ぐんだ声で、何かを語り始めました。
「昔、好きだった男の子がプレゼントしてくれた、不思議な鉱石だったの。でもある時に起きた事故で、父が男の子の妹を轢き殺しちゃって……それからは人が変わったかの様に、毎日「お前を呪ってやる」って、そう言い続けたの」
「…………………………………………」私は何も言わず、ただ聞き続けました。
「それでも彼が好きだった私は、いつも肌身離さずにコレをペンダントにして持ってたんだけど、そっか……彼はまだ私を呪ってたんだね……」
「…………………………………………」
「……良いよ、ソレを外して?」
私は頷くと、彼女の骨の間を掻い潜って、オーパーツを取り外しました。
するとその瞬間、彼女の体は少しずつ薄くなっていき、粒子状になって散り始めます。
「……私には、まだ好きとかそう言うのは分かりませんが……でも貴女を呪って無かった事だけはしっかりと分かりますよ。ミキさん」
私は彼女の名前を呼びながら、オーパーツの可動部分を動かして、そこに刻まれてる文字を見せました。
そこには「呪うなんて酷い事を言ってごめん、ミキ」と、綺麗な文字で確かに書かれています。
「――っ!!」ミキさんは口に手を当てると、涙をボロボロと零しながら泣いてしまいました。
「このオーパーツ、此処に置いておきますね」私は骨の方の彼女の膝にオーパーツを乗せると、ただ泣き続けながら消えて逝くミキさんに背を向けました。
……私だって同情する程度の心は持ち合わせています。
そして体の殆どが消えたミキさんは「怖い思いをさせてごめんなさい。そして……ありがとう」と言って消えてしまいました。
「…………」ミキさんは満足してたみたいですが、結局は報われない人の様に感じます。
ミキさんが消滅した瞬間、周囲の空気が張り詰めたものから柔らかいものに変化したのを感じました。
恐らくは元の世界(?)に戻って来たんだとは思いますが、井戸の中ではよく分かりません。
私は気絶したままのユズを抱き上げると「帰りましょう」とエレナさんに言って、先にユズを井戸から送り出してもらいました。もちろんその間は一人なんですが、今は怖くないです。
――ガチャン。
背後で何かが落ちる音がして、体がビクッてなりました。
背後を確認してみると、そこには真新しい文字で「本当にありがとうございました」と書き加えられたオーパーツが発光しながら転がっていました。
「……来世では彼と幸せになってくださいね」
私はそう呟くと、オーパーツを地面に置きました。
私の声に返事をするかの様に、オーパーツは眩く光を放つと、音も立てずに粒子になって消えてしまいました。
「エルシア、お待たせしました。行きましょう」暫くして戻って来たエレナさんは、私に手を差し伸べてきました。
「そうですね、もう此処に用は無い筈ですし」
私はエレナさんの手を取って箒に乗ると、そのまま井戸から上がっていくのでした……。
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