罠は感知、SAN値!ピンチ!
勇者はとても慎重に迷路の中を進んでいた。
あの性根が腐ってそうな、否、あんな嫌がらせをしたんだから絶対に腐っている魔王のつくった迷路だから絶対に何かあるだろうと思いながら…
曲がり角から何かが飛び出してきた!
「ひっ⁉︎」
勇者がビビりながら慌てて放ったファイアーボールは「飛び出してきた何か」改めわざわざ細かく粉状にまでした胡椒がたくさん入った嫌がらせ爆弾の導火線に見事にヒットした。導火線は地味に長く、恐怖を煽るように(バチバチ)と音を立て、少しずつ短くなっていく。
正体に気づき逃げる勇者。またも勇者の思考を読んで閉まる背後の通路。導火線についた火を水魔法で消火するなどということが出来る頭を持ってなかったのが今回の勇者の敗因だろう。
まあ、彼は残念な勇者だからなぁ…
…そして胡椒は通路に満遍なく広がっていったのだった。
〜十分後〜
「ヘクショイッ!魔王め、こんな汚いへクシュ手をクシュン使いやがってハクションッッ!」
どうやら魔王が使った胡椒は魔改造されていたようで未だに執拗に勇者を鼻の中から攻撃していた。
まだくしゃみが止まらない勇者はようやく水で目や鼻を洗浄すればいいと思いついた。
…勇者は天才的だと思っているが魔道具で監視している魔王は流石にもっと早くに思いつくだろうと思っていたので呆れながらも大笑いするという微妙に器用なことをしていたのはどうでもいい話か。
さておき、勇者はやっぱり水でもなかなか取れない胡椒を鼻の中の痛みに耐えながらも流し終えた。
…あまりに取れないので粘膜も一緒にに流され、そこから風邪の菌が入ってきたにも関わらず風邪をひかなかったのは勇者の残念な知能のことを思い出して推して測るべし。
(ナントカは風邪をひかない(ボソッ))
「…暗くなければ罠にかからないんじゃね?俺って天才か?」
勇者は暗いせいで罠にかかりやすいのではないかと思い光魔法を使った。なお、MPのことは考えていないようだ。
勇者は周りを警戒しながら歩く。前方から矢!勇者は華麗に避ける!
『思った通りだな!明るけりゃトラップも怖くないぜ!』
勇者が脳内で自画自賛しているところに
今度は前方から複数の矢!
狭い通路の中、矢が飛んできていないすみの方にジャンプ!
しかしそこには落とし穴!…ではなく小麦粉が敷かれ、親切にも風魔法で拡散された。
ただただ体が真っ白になるだけの嫌がらせだ。
これはジャンプする方向を見ていなかった勇者が悪いのではないだろうか。
勇者は無言でスッと立ち上がり歩き出した。
目が死んだ魚よりも濁っているようだ。
そこに魔物Aが現れた!
魔物Aは勇者の白い格好に混乱している!
勇者は虚無の表情で剣を振った!
白銀が一筋走り、勇者についた小麦粉が舞った。
魔物Aは倒れた。
…何だかだんだんと怒りが増してきた勇者は腹いせに迷路をぶち壊そうと思い切り殴った。
(カチッ)
(ゴゴゴゴゴ…)
通路の一部が動く!
…しかしその先は壁だった。
いきなり何かの仕掛けが作動して冷や汗をかかされた勇者は、またも腹いせに新しく出てきた壁を蹴った。殴らなかったのは岩でできた壁と勇者が抑えている手を見れば察せるだろう。
(ガァンッ)
カチッなどという音も立てずに勇者の頭に突如落ちたのはタライだった。魔王はベタなのも好きらしい。ちなみに壁は感圧式の罠っだったようだ。魔王城も意外とハイテクなのである。
そんなこんなで迷路を進むと大きめの部屋があった。真ん中にはボス(?)の大きなスライムがいた。
勇者はさっさとロクでもない迷路から出るためにスライムに切り掛かった。
スライムは分裂した。
さらに斬る!
またも斬る!
もっと斬る!
おまけにもう一回斬る!
スライムはさらに分裂した。
(‘ ‘) (‘ ‘) (‘ ‘) (‘ ‘) (‘ ‘) (‘ ‘) (‘ ‘) (‘ ‘)
スライムの合体!
スライムは元に戻った。
(・ ・)
勇者はファイアーボールを放った!
スライムはファイアーボールを食べた。
満足そうだ。
( ^ ^ )
…勇者パンチ!
効果はないようだ。
スライムの攻撃!
(ぽよん)
しかし効果はないようだ。
勇者は女性の胸もこんな柔らかさなのだろうかと想像しながらもスライムを倒すために奮闘した。
〜五分後〜
結局お互い攻撃が通じずダメージもくらわず、一進一退すらすることはなかった。
しかし、魔王が焦れたのか、ボス部屋の奥の通路が開かれた。
なんとも言えない空気の中、勇者とスライムは戦うのを諦め、お互いに健闘を称えあった。
…今のところまともな登場人物(?)はスライムだけではないだろうか?
かくして勇者はボス部屋を後にした。
ボス部屋を出るとそこには綺麗な草原があった。勇者にはどうなっているかはわからなかったが、そこら辺のダンジョンと同じだろうと思い、疲れを癒す為に寝転んだ。
勇者が寝転んだ瞬間、景色が変わった。
そう、ここまでと同じ岩の壁だ。
さらに、勇者は起き上がろうとしたときに背中の違和感に気付いた。まるで絵具のようにベタベタした感覚だ。
勇者が恐る恐る地面を見ると、そこには案の定黒い絵具のような物がついていて、勇者が寝転んでいたところだけそれが剥がれていた。勇者は軽鎧の背中を擦って取ろうとしたが被害が広がることになるばかりだった。
勇者は泣いた。
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