推理小説の元祖! モルグ街の殺人

 今は主としてファンタジー物、現代ドラマ物などを書いている僕ですが、書きはじめの当初は推理小説家志望でした。推理小説はその設定や情報集め、司法関係や科学捜査などの専門知識が膨大に必要で、しかも緻密な構成が求められる難易度の高いジャンルですが、物語の基本である起承転結がはっきりしているため、材料の勉強には苦しむけれど、それを作るのは意外に簡単なのでは? と思ってしまったのです。もう、完全に舐めています。起承転結は確かにはっきりしていると思いますが、素人作家風情に書けるほど、推理小説は甘くない。というか、ほとんど無理じゃねぇ? 「文字通りの無理ゲーじゃねぇ?」と気づいてしまいました。刑法の第199条(第199条は、殺人罪です)を知っているだけじゃダメ。被疑者が法律用語で、容疑者がマスコミ用語であるのを知っているだけでもダメ。その他、薬物や毒物に関する情報を調べても、その量があまりに多すぎることもあって、すぐに匙を投げてしまいました。「僕には、江戸川乱歩賞は無理だぁ」とガッカリしちゃったわけですね。


 だから、本格推理小説は夢のまた夢。僕の書いているミステリー物は、「ミステリーの要素がある物語」といった感じです。事件のトリック云々が、現実の物理法則にのっとっていない。ほとんど卑怯技みたいな感じになっています。その意味では、僕の書いていたミステリーは、ミステリーではない。ミステリーの手法を活かして、ほかのジャンルに転用するときはありますが。それでも、純粋な推理小説とはいえないでしょう。純粋な推理小説は、想像以上に高レベルです。それを最初に生みだしたとされるアメリカの作家、エドガー・アラン・ポーは、「天才」としかいいようがありません。彼は「世界初」といわれた推理小説、「モルグ街の殺人」を書いた人物です。この作品には推理物の主な要素である、物凄い名探偵と物語の語り手、密室で起こった殺人、様々な混乱要素ミスリードを含んだ関係者達の発言、名探偵の名推理、そこから導きだされる意外な犯人などいったものが、ぎゅうぎゅうに詰まっています。


 正に推理小説の王道。ほとんどの方は、名探偵=シャーロック・ホームズと、その助手であり、元軍医でもあるワトソンが、推理小説の金字塔(実際に金字塔だとは思いますが)と思っている筈ですが、元祖名探偵は、ポーの生みだした名探偵、オーギュスト・デュパンという男性です。そして語り部である「私」の視点から、物語が語られていく。その語りがとても精緻なのですが、これは実際に読んでみた方がいいですね。たぶん、(あくまで僕の主観ですが)「すげぇ文章量だ」と思う筈です。僕も、最初に読んだときはそう思いました。そして、そのオチにも。デュパンと同じ速さで犯人が分かった人、あるいは、犯人の目星がつけられた人は、頭が相当に柔らかい人だと思います。あの犯人は、ですから。犯人が人間……あ、いけない。ネタバレは、ダメですね。詳細は、本編をチャック! チェック! ああ、自分もポーほどの才能が欲しい。


 ちなみに「モルグ街」のモルグとは、死体安置所を意味するとのこと。

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