28 焦燥
「やっぱり倒れねえか。あれは俺でも辛いかもしんねえ」
京慈は舌打ちをして口許にぎこちない笑みを浮かべた。
手の中にある白い銃で絶え間なく「何か」に弾を撃ちこんでいく。弾は切れることなく、銃声は鳴り止まない。
「二人とも、まずは落ち着いて。ゆっくり立つんだ」
「ゆ、優良さん」
優良が壱晴と暖のところまできて背中に優しく触れた。
落ち着いている優良の顔を見たら安心してしまい、壱晴は涙声になってしまう。何度も頷いて優良に言われた通りゆっくり立ち上がった。
「優良さん!あそこに成清が!まだ!」
「うん、大丈夫。ちゃんと見えてるよ。助けるから心配しないで。ね、ほら、暖くん」
「はい……。」
暖も涙声になりながら深く頷き、立ち上がる。
壱晴は暖の服の裾を掴み、俯いて。僕は、どうしたら強くなれるんだろう。誰かを守れるほどに強く。
「京慈さん、二人ほど来れます。十五分以内には到着するかと」
「二人か。まあ、しゃーねえよな。他の花咲きの浄化もあるだろうし」
「あとのメンバーは遠いところにいるので難しいですね」
「あれは俺でも勝てるか不安だわ。鳳凰部隊が辛うじて戦えるかどうか。下のメンバーは戦わせられないな。悪戯に仲間を殺されちゃ、たまんねえ」
カチカチッと音がして、京慈は銃へ目を落とした。弾切れだ。
「碧音、お前ので浄化していてくれ。俺のは水切れだ。補充しねえと」
京慈が弾を撃ち込んだ部分は小さく光っていたが、イヌサフランの茎がシュルシュルと蠢いてその部分を覆うと、跡形もなく光は消えてしまった。
「何か」はゆっくりと体を元の位置に戻すと瞬きを何度かして、何事もなかったかのようにまた歩き出す。
「くそ!全く効いてねえな!碧音!」
「わかってます!」
碧音は手の中に黄金の光の塊を出現させ、そのまま手を前に出した。光が「何か」に当たり、絶え間なく光が注がれていく。「何か」は動きを止めたが、光から逃れようとする様子はなく、じっとしている。
「ごめん、二人とも。今はあの子を助けられない。行くよ!あの子は必ず僕が助けるから今は逃げることだけを考えて!」
優良は「何か」の様子を窺っていたが、暫くすると壱晴と暖の腕を引いた。「何か」の後ろに成清が倒れている。どう考えても「何か」をすり抜けて成清の元へ向かうのは無謀としか思えなかった。
隙をついて成清を助けようとしていたようだったが、あの強そうな京慈でさえも苦戦しているんだ。壱晴は優良の必死な、けれど強い目を見てぎゅうっと拳を握りながら頷いた。
「成清っ!優良さん、嫌です!俺は!」
「暖くん!行くよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます