ただ、助けたい。それだけ。
26 何か
耳を
「壱晴と成清はここで待ってろ」
暖が壱晴と成清の前に手を出し、前へ出ないように牽制した。その部屋を見つめ、ゆっくり近づいていこうとする暖の腕を成清が掴む。
「暖、俺が行く。壱晴と一緒にいろよ」
「は?成清!おい!」
成清は暖のほうを見ず、その部屋を見据えていた。暖を自分の後ろに隠すように強く一歩を踏み出して。
「うわあ!死にたくない!逃げろ!」
余裕のない涙が混じった叫び声が聞こえたと思えば、部屋から飛び出してくる何人もの男達。
誰かの肩がぶつかり成清はよろめいてしまうが部屋の中をじっと見つめ、捉われたように動かない。何かが部屋から這い出てくる気配。それを部屋の中が見えない壱晴も感じていた。
「お前らも早く逃げろ!殺されるぞ!あんな化け物が仕掛けなのかよ!卑怯だ!」
真っ青な顔をして誰かが壱晴達に忠告をしてそのまま下の階へと走って降りていく。
壱晴は目を見開いて俯いてしまう。自分の靴を見つめる。凄まじい圧、押し潰されてしまいそうなほどの恐怖にカチカチと歯が揺れてしまう。
さっきの男の言葉が頭の中で反芻されていた。逃げる、殺される、化け物、仕掛け。——どういうこと?
「……逃げ、ろ」
暖の小さな声が聞こえ、かろうじて顔を上げると。暖は開いている扉の先に目が釘付けになり、固まってしまっている。成清も同様に。
壱晴の位置からではまだ部屋の中が見えなかったが、顔面蒼白な二人に事態の重さを嫌でも理解した。冷静沈着ですぐ様行動できる、あの暖が動けずにいるんだ。
「暖!」
びりっと耳に響く成清の声。壱晴はびくりと肩を震わせ、その光景を見つめていた。
「ぐ……っ」
気づけば、成清が壁に打ち付けられていた。前のめりになりながらも苦しそうに立っている姿が鮮烈に、目に映る。成清はやがてずるずると壁をつたい、ゆっくりと倒れていった。
悲鳴が喉の奥でくぐもり混乱と凄まじい恐怖が胸の中で激しく渦巻く。壱晴は立っているのがやっとだった。
「何か」が暖と成清に向かってきて、咄嗟に成清が暖を庇ったのだ。「何か」が突進してきたせいで窓が割れ、天井からはハラハラと建物の欠片が落ちてきている。
突き飛ばされた暖は尻餅をついて、呆然としている。
「暖!早くこっち!」
壱晴は暖に駆け寄り、震える手で服を掴んで引っ張った。
今はあれから一刻も早く離れないといけない。緊張と恐怖に足が、手が、震えてしまう。
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