25 じゃれあい



 さっきから壱晴にばかりボールが当たっていた。当たりすぎていい加減、アザがひどくなりそうで、壱晴は涙目になっている。


やっぱり人には向き不向きがあると思うけれど。これから「焉」に入るのに、こんなんじゃ……。と、じりじりした痛みを感じながら壱晴が俯きそうになると。


「ねえ暖、ちょっとここ立ってみてよ!」


「は?」


 成清が暖の背中にまわり、とんっと軽く押した。それと同時に壁から噴出される、何か。


「あっぶね!」


 水飛沫が成清と壱晴にまで飛んでくる。触れると、それはただの水のようだった。暖は水が当たる寸前で前へ避けたけれど真っ青な顔をして胸を押さえている。相当驚いたらしい。壱晴は暖のあんなに驚いた顔を今まで見たことがなく、なんだかとても新鮮だった。


「おい成清!このやろっ!」


「いやさあ、トラップがあるっぽかったけど、どんなのがあるかはわかんないでしょ?暖なら避けられると思ってさ」


 成清は悪戯っ子のように笑っている。暖は「成清!」とまた名前を呼んで成清の手を引くと自分のほうへ引き寄せる。


「うわ!危な!ちょっと暖!」


 成清もすんでのところで体を屈ませて何とか回避した。壱晴はこの二人の運動神経どうなっているんだろう、と呆気にとられてしまう。


 暖は手をグーにして「成清、お前なあ」と、成清の頭をぐりぐりしている。

成清は「ごめん、悪かったって!勘弁して!」と、半笑いでジタバタし、暖から逃れようとしているが叶わないらしかった。


「ふ、あははっ!二人とも仲良いなあ」


 壱晴は二人のじゃれあいを見つめて、笑い出してしまった。二人の近くへ、と思い前に進むと。


「壱晴!ばか、避けろ!」


「へ?」


 暖が叫んだのも虚しく、壱晴の間抜けな声の後に降りかかる水。気づいた時には濡れていた。


「……うわあ、二人に気をとられすぎちゃった」


「壱晴びっしょびしょ!俺も!」


 なんて、成清はさっき避けたくせに自ら水に濡れて壱晴と笑い合う。



 なんだかこうしていると今まであったことや試験のことが全部嘘のようで。こんな時間がずっと続けばいいのに。


「風邪ひくぞ、二人とも。壱晴はまだしも、成清はただの馬鹿だな」


「その台詞、聞き捨てならないな」


「あーほらほら、最初の部屋に戻ってタオル持ってくるぞ」


 成清の首根っこを持って、暖が踵を返す。壱晴はそんな二人の後をやっぱり笑いながらついて行こうとして。


「た、助けてっ!うわああっ!」




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