24 最後尾




「……なんだ?何が入った?」


 京慈は落ち着いているが狂気を孕んでいた。暗闇に眼光が浮かび上がっている。


「正確に『何』なのかまではわからん。だが、急いだほうが良い」


「シロ、碧音と優良にそれ伝えてこい」


「また僕をこき使うのか。いいか、今度は絶対お菓子のバラエティーパックを買うんだぞ。約束してくれたら行ってやらないこともない」


 ふん、と鼻を鳴らして腕を組み、そっぽを向くシロ。こういう時だけ、子どもに見えるだなんて都合がいい。それを可愛いと思ってしまう自分がいることも京慈はちゃんとわかっていた。



「それくらい買ってやる。行け」


「この前は買ってくれなかったではないか。約束だぞ!」



 屋上の扉を開けながら京慈が頷くと、シロはびしっと京慈を指差してから気配を消した。だいたいが交換条件付きだが、急ぎの用事がある時にはいつもこうしてシロに伝言を頼んでいる。シロは碧音と優良に姿を見せることはないけれど声だけは届くようにしているため、二人はシロの存在を認識はしていた。



「……確かに、変な感じがするな」


 京慈は埃の溜まった灰色の階段を降りて行きながら、確かに感じる悍しい何かの気配、将又、これを嫌な予感とでも呼ぶのか。その嫌な感じに苛まれながら前へ進んで行った。






***



「最後尾は楽だと思ってたのに」


 成清はどこからか飛んできたボールらしきものを掴み、溜め息を吐き出した。二階の非常階段前。上の階からの悲鳴が非常階段にこだまして聞こえてくる。



「わっ!痛い!」


 壱晴の肩にボールが直撃した。反応が遅れ、体を傾けたにもかかわらず当たってしまう自分の反射神経の無さに肩をさすりながら深い溜め息を吐き出す。


 トラップは様々なところに仕掛けられていた。勢いよく飛んできたボールもその一つ。前にいた受験生たちがトラップに引っかかれば後ろの壱晴たちにそのトラップは作動しないと思っていたが、どういう仕組みなのか、トラップは何度でも始動するようだった。


 それでもトラップに遅れをとった受験生たちを数人追い抜かし、非常階段を上がってそのまま最上階まで一気に行こうとしたが、階段の途中に錆びれた大きな棚や壊れた椅子が立ちはだかり、道を塞いでいた。それをどかすために他の受験者たちも途中の階で道具や他の道を探索しているようだった。


道が塞がれているのは三階と四階間の階段。壱晴たちは一度、三階まで上がったが受験者達がその階に大勢いたため、二階まで降りてどうするか考えることにしたのだ。


 それにさっきから悲鳴が飛び交っていて、壱晴は上に行くほど凄い仕掛けがあるんだ、とぞっとして上に行きたくない気持ちでいっぱいだった。




「壱晴、俺の後ろにいなよ。ボールが飛んできそうになったら言うから」


「あ、ありがとう、暖」




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