23 男の子
「京慈っ!聞いているのか!」
男の子がふてくされたように頬を膨らませながら、スッと京慈の目の前に現れた。何もないところから突然に、けれどまるで最初からそこにいたのではないかと思うほど自然に。
男の子は白いレース素材の服を着ているが裸足で、銀髪。年齢は小学校低学年といったところか。
「何だよ、シロ」
京慈は男の子——シロの実年齢なんて恐ろしくて、はなから聞く気など微塵もない。
シロは人間ではなく、この世にある言葉を当てはめるのならば、妖怪や神様や幽霊、そういう類いのものだとシロ本人がそう言った。
シロは自分の意志で人に姿を見せることができるが、それを許しているのは今のところ京慈だけだった。
京慈はシロをちらりと見て「退屈してんだよ」と呟くとストップウォッチを地面に置いてしまう。シロはそれを丸い黒目で不思議そうに見つめ、首を傾げていた。どうやらストップウォッチがわからないらしい。見かねた京慈がストップウォッチを指差して口を開く。
「これはな、時間を測る道具」
「時間?時の流れを測るのか?そんなことをする意味がどこにある?」
「人間はいろいろと競いたがりなんだよ」
「ふうん?だから『時間がない』なんてよく言うのか。時間は先にずっと続いているのにな。僕には意味がわからない」
「でもまあ、人の寿命を考えたら『時間はない』のかもな。やりたいことがある奴にとっては……って、シロが出てくるなんて珍しいじゃねえか。俺が退屈そうにしてるの見て話し相手になってくれようとしてんの?」
冗談っぽく笑いながら京慈が言うと、シロは「ううん」と真顔で首を横に振った。
「だよな。そんなわけねえよな」
京慈は苦笑いを溢しながら、「ほんと愛想のねえガキだな」と膝の上で頬杖をついた。シロは見た目に騙されがちだが、決して可愛い子どもではない。愛想笑いなんて絶対にしない。
「何か、入ってきた」
ぽつり、とシロは表情を動かすことなく静かに言った。
太陽が雲に隠れて屋上に影を落とし、冷たい風が吹き込んでくる。
「……花咲きか?」
京慈はいつになく真剣な顔をして立ち上がると右手を広げた。すると光の粒子が宙から現れ京慈の手の中に集まっていき、銃の形を成す。触っている感触はあるが、目視では白い粒子の集まり。「銃のようなもの」と見える。
「はーあ、それはそれで面倒なことになった。試験中だぞ」
「京慈、違うぞ」
銃を肩にのせて気怠げに扉へ向かっていく京慈を呼び止めた。シロは目を見開き、真っ黒な瞳で京慈を見つめる。
「花咲きよりも、遥かに禍禍しい。人が簡単に死ぬぞ」
低く空気を揺らすその声に、京慈は動きを止めてゆっくり振り返る。
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