2 VTR






『そ、そうなの?えーっと、君は昨日、中崎祐太郎さんを呪い殺すと投稿していますね。その前に投稿された村田むらたれんさんについても同じ内容の投稿があったみたいだけど本当に呪い殺したの?今から約4時間前、不審な死を遂げたっていう情報が入ってきているんだけどね、偶然かな?そういう話題は人を刺激するからね、拡散も本当に凄いよ』



『情報がお早いですね。ええ、私が呪い殺しました。ですが、これは始まりにすぎない。彼らは……ああ、これから呪詛を受ける中崎もそうですが、ただの実験体です。私はね、東京に花の種をばらまいたんですよ。まあ、中崎と村田には直接埋め込みましたが。花は鎖骨にそれはもう美しく咲きます。花が咲く……それは私がその人間に呪いをかけたという証拠。理性が解き放たれ、暴れる者もいるでしょう。その最中、選択を迫られる。私の元へ生まれ変わりの懺悔に訪れるか、その場で死ぬか。それしか選択肢はない。ああっ、これからが楽しみで、楽しみで、仕方ないですよ』



『……は、はあ。花は人には植えられないけど……。それは何かの例えかな?例えば、刺青とかそういう?……うん?あれ、答えてくれないの?微笑まれてもなあ。……うーん。まあ、じゃあ次の質問、で。ええと、どうして名もなき男って名前なの?』



『古い世界で名乗る名前などもうありません』



『君ったら真顔で面白いこと言うなあ』



司会者は冗談だと思っているようで、声を出して笑っていた。


スタジオの観客もそれに合わせて笑う場面が節々にあったが、当の本人——名もなき男は終始、余裕な微笑を浮かべ表情を崩すことはなかった。



————VTR終了




その男はある日、S N Sにアイコンも自己紹介もなく「名もなき男」との名前だけで現れた。



最初の投稿は「呪い殺すことができるか試してみます。まずははやし拓馬たくま



次の投稿が「次は高橋たかはしりくを呪います」——と、男は名前をどんどん載せていった。



最初は誰も気に留めていなかった投稿だが、名をあげた人たちがどんどん不審な死を遂げていき、注目せざるを得なくなったのだ。


亡くなった人たちの鎖骨には男が言った通り花の刺青がいれられていた。死因は自殺や他殺、事故だったりと様々。



『警察は名もなき男の行方を追っているとのことですが、戸籍が存在せず本名も住所も不明のため捜索は困難を極めております。昨夜の情報では、男が今までS N Sに名前をあげた人物以外にも鎖骨に花の刺青のようなものが浮かび上がる事例が確認され、現在、隔離されております』




壱晴は食パンをかじりながら淡々と話すアナウンサーの口許を見ていた。



呪いなんて本当にかけられるものなの?きっと何かトリックがあるはずだよね、とぼんやり考える。


こういう話題は確かに若者の中で流行っていて、現に通っている大学でもよく話題に上がっていた。


「お兄ちゃん、まさか怖いのー?ホラー映画とかも苦手だもんねえ」

「なっ!?そ、そんなことない……。」

「えーほんとお?」


詩織はじっと壱晴を見つめ、楽しそうに笑う。壱晴は「本当だよ」と目を逸らして牛乳を一口飲んだ。


「みんな、おはよう。ああ、まずい。時間が」

「父さん、寝坊?」

「ああ、ちょっとまずいな。彩葉、食パンもらっていくな。行ってくる」


と、慌ただしくリビングに入ってきたスーツ姿の父——正隆まさたか。垂れ目をさらに下げ、困った顔をして笑っている。



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