Round 4 (1/3)


***Round 4 ***


 翌朝、私はベンチの上で目が覚めた。朝日で目覚めるというのはかなり健康的なのではないだろうか。おかげで少し早いけれど。

 立ち上がると少し体の節々がいたんだが、軽く運動して体をほぐすと気にならなくなった。

 ソウはまだ眠っているようだな、と思ったら、顔に日が差したとたんに身じろぎをして目を覚ました。

 ばっちり目が合う。

 昨日の今日で何と言えばいいのかわからず、結局口から出たのは「おはよ」だけだった。

 お互い無言のままペットボトルのお茶を飲み、古びた水道で顔を洗い、うがいをし、できる限りいつも朝していることを済ませる。

「とにかく朝ごはん食べに行かないか」

 一通り済んだあたりで、ソウが伸びをしながらいった。その口調が今まで通りだったので少し安心してから、自分で銃を向けておいてそんなことを思っている自分に嫌気がさす。

 それがあまり表に出ないように、いつも通りになるように意識して振る舞う。

「そうね。昨日のフードコートはまだ空いてないでしょうから、マクドナルドでも探しましょ」

 昨日雨で濡れた服はもうすっかり乾いていて、その雨に打たれたせいかそこまで体もべたつかない。

 自分の鞄を取りに寝床にしていたところまで戻ると、いままで気づいていなかったのか、脇に拳銃とマガジンが置いてあった。

 色々な感情が湧き出てくるのを押しとどめ、マガジンを装着して腰に戻す。

「私は用意できたわ。貴方はどう?」

「俺も大丈夫」

 一晩お世話になった公園を出て、街の中心部へ向かう。ひょっとしたら、今晩もお世話になるかもしれないけれど。

 明るい太陽のもとで見ても、この公園はやっぱりさびれていた。塗装は剥がれ、あちこちが茶色くさびている。こう見ると、遊具に乗るのも不安になるくらいだった。

 丁度街の人たちも動き始める時間帯だったので、道には通勤のために出てきたと思しき人たちがところどころ歩いていた。

 その流れに乗って、時には逆らうようにして歩く。

 そろそろ充電が不安になってきたスマホを使って、最寄りのマクドナルドを探した。

 五分ほど歩いてマクドナルドにたどり着くと、怪訝さを隠しきれていない店員に出迎えられた。まあ、朝の七時に高校生程度の二人連れがやってきたらそうなるだろう。

 値段重視で適当なセットを選んで注文してから、狭くて急な階段を使って二階にある席に向かう。さすがにこの時間という事もあってか、人はいなかった。

 窓際の四人掛けの席を確保し、テーブルの脇にあったコンセントを拝借してスマホの充電を始めたあたりで、別に注文をしていたソウが上がってきた。それぞれカバンを隣に置き、向かい側に腰掛ける。

「貴方も充電できるときに携帯充電しときなさい。そこにコンセントあるから」

「……充電器持ってないんだけど」

 なんでそれを忘れるのか。仕方がないので私の充電器から充電をする。USB接続口が二つ付いているタイプであることのメリットを、初めて感じた。ちなみになぜか、ソウはコードは持っていた。

 一番、と書いた番号札を手の中で弄びながら窓の外を眺めていたら、店員がやってきて番号札と引き換えにハンバーガーを持って来た。

 アイスコーヒーをストローで一口飲んでから、イングリッシュマフィンを使ったハンバーガーにかじりつく。

「これ食べたらどうするの?」

 そういってソウはポテトを口に運ぶ。

 口の中のハンバーガーを飲み込んでコーヒーを一口飲んでから、

「さあね。その辺うろうろしながらかんがえればいいんじゃない。正直今は何も思いついてないけど、貴方の言う通りもうしばらくは諦めずにいるつもりだから」

 コーヒーはブラックでも飲む口なんだけれど、何となく気が向いたのでクリームを入れる。

「それと、貴方にもこれを渡しておくわ」

私が今まで座っていたところにソウの鞄を動かし、彼の隣の席に座る。

「何を?」

 周りに人がいないこと、手元が防犯カメラの死角になっていることを確かめて、テーブルの下でソウにあるものを渡す。

「鞄にでも入れときなさい」

「っ拳銃?」

 ベルトを外したホルスターから中身を引き抜いたソウが、小さく声を上げる。

「素人が撃ってろくに当たるものでもないから、弾は二発だけよ」

「じゃあなんで?」

「お守りみたいなものよ。もし追手に見つかって、にっちもさっちもいかなくなったら使いなさい。もしかしたらもしかするかもしれない幸運にかけてこれで戦うもよし。死ぬために使うのもよし。私が生きてれば殺してあげることもできるけど、私だっていつまで生きて一緒に居られるか分からないからね。死ぬ方がましって思った時、楽に死ぬ手段がないってのも辛いものよ」

 そこで逃げるな、生きることを諦めるな、とは私は思わない。

「じゃあ君は?」

「今二丁持ってるから。それは予備よ」

 ソウが驚いた顔をする。この感じだと、昨晩私の拳銃を取り上げただけで、安心していたのだろうな、と想像がつく。実はもう一丁、カバンの中に拾い物のサブマシンガンがあるのだが、それは言わなくてもいいだろう。

 それでもまあ、拳銃の予備は持ってるに越したことはないので拳銃より素人でも使いやすいナイフを渡すべきかとも考えたけれど、結局拳銃にした。自分であれ相手であれ、実際にその手で肉を断つ刃物よりは、人差し指を動かすだけの拳銃の方が抵抗は少ないだろう。

 それにそもそも、戦力としてはミジンコほども期待してはいない。二発入れたのは、一発だと本当に自決用の感じが前面に出てしまって申し訳なかったから。

 ソウは拳銃を手にして、黙り込む。

「一応操作だけ説明しておくわ。この側面についてるレバーが安全装置。上げたら安全装置がONになって、下げたら撃てる。わかると思うけど、撃つ時は引き金を引く。持ち方はこう。よくある拳銃のジェスチャーはリボルバーの持ち方ね。これはオートマだから親指は銃身の横に添える。打った後は勝手に弾が装填されるから、また引き金を引けば撃てる。使わないとは思うけど、これがマガジンリリースボタン。押したらマガジンが下から出てくる。この上のスライドが下がり切ってるときは弾が入ってない。新しいマガジンを指しなおしたらスライドが戻って打てるようになるわ」

 昨晩いじっていた感じからして多少は知識があるようだけど、教えておくにこしたことはない。

 そこまで一気に言ってから、少し冷めかかったハンバーガーを一口ほおばる。ソースが唇についたので、紙ナプキンで拭いた。

「それから、撃つ時以外は絶対に引き金に指はかけない事と、撃つ相手以外には銃口を向けない事。引き金を引いて弾が出なくても遅れて弾が出ることがあるから気を付けて。最初に私が貴方を撃った時みたいにね。……あと、死にたいときは頭を、できればこめかみを撃つこと。胸とかを撃っても確実性に欠けるから」

 ソウは何も言わずに拳銃を鞄にしまう。

 そのあとは隣に座ったまま、終始無言でハンバーガーとポテトを食べていた。

 

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