ドラゴン・チェイサーズ!
武石勝義
#1 強引に抱きついてくる輩にはグーパンに踵落としぐらいでちょうどいい
1-1
「……続いてバララト宇宙港爆発事故に関する続報です。死者行方不明者千人以上に及んだ未曾有の大事故は、発生から間もなく三ヶ月が経とうとしていますが、その原因については未だ多くが解明されないままとなっています。航宙省による原因調査は遅々として進まず、遺族や関係者からは不満の声が上がっており……」
天井近い空間に浮かぶホロヴィジョンに映し出された女性キャスターが、いかにもとってつけた悲痛な表情を張りつけながら、口調は淡々と原稿を読み上げている。
「聞いたことがあると思ったら、
続報という割には大して内容のないニュースを耳にして、すらりと背の高い優男然とした青年が大袈裟に眉根を下げた。
「あんな簡単に報じてるけどさ、大変な事故だったんだ。俺、実はあそこで働いてたんだけど、爆発したときは本当に戦争でも起きたのかと思ったよ。その後始末に追われていたら、急にこの星への赴任が決まってさ」
そう言って青年は伏し目がちに、小さくため息を吐き出した。心持ち面を俯かせた彼はその若草色の瞳の端で、カウンター越しに座る妙齢の女性をしっかりと捉えている。
「そ、そうなんですか」
彼のお喋りにぎこちなく返事する彼女は、惑星の玄関口とも言える軌道エレベーター発着場の受付としては少々垢抜けない。だが肩の辺りで切り揃えられたストレートの茶髪に、くっきりとして整った目鼻立ちは、十分合格点だ。こんな風に声をかけられるのは慣れていないのか、緊張した面持ちが初々しいのも良い。
「バララトからこのエンディアまでは遠いね! 三回も
「この星の名前なら、エンデラ、です」
「そうそう、そのエンデラ」
受付嬢の答えに大いに頷きながら、青年は組んだ両腕をカウンターに乗せる。
「なにしろ聞いたこともない星だからどうしたもんかと思ったけど、到着早々に君みたいな素敵な女性に出会えたのはラッキーだ」
青年がカウンターに両肘を突いて身を乗り出すと、受付嬢は若干目を泳がせながら身を引いた。
「あの、お客様……」
「ああ、だからってこの星のことを馬鹿にしたわけじゃない。これでも少しは勉強してきたんだ。なんでもエンデラには龍が棲むって言われてるらしいじゃないか。お伽噺でしか聞いたことのない、伝説の生き物だろう? 一度でいいから見てみたいもんだよ」
そう言って青年は額に垂れ落ちた赤毛を、芝居がかった仕草で掻き上げてみせた。同時に微笑を浮かべながら白い歯を覗かせる。これでも女性受けのいい、目元涼しげな表情には自信があるのだ。彼女の好感度も、少なからずアップしたに違いない。
「それなら、その」
だが彼女はにこりともせず、その表情は固いまま。こいつは少々手強いな、田舎娘だからといって侮ってかかったかもしれない。もう少し本気を出すべきか。
青年の背後から喧噪が上がる。宇宙ステーションから惑星地表のこの発着場まで、彼と共にエレベーターから降り立った客はそれほどいなかったはずだが、にも関わらず結構な喧しさだ。ええい、邪魔をしてくれるな。これから彼女を本腰入れて口説こうという彼には、いささか煩わしい。
しかし目の前の受付嬢には、そもそも彼に構う余裕など端からなかったのである。彼女は辛うじて右手を持ち上げると、震える指先で青年の背後を指差した。
「龍をご覧になりたいなら、ほら」
「ほら?」
優しく尋ね返す青年に対して、受付嬢はほとんど泣き出しそうな、引き攣った笑顔を浮かべた。
「お客様の後ろに見えるのが、その龍になります」
その途端に建物全体が軋むような、みしりという音が響き渡った。同時にフロアのあちこちから悲鳴が上がる。
青年は頭を掻きながら、ゆっくりと後ろを振り返った。そこにはひびの入った展望ガラス窓を塞ぐように、何やら巨大なものが張りついている。赤銅色の鱗にびっしりと覆われた蛇の腹のようにも見えるが、それにしてはなにしろ太い。本当に蛇のような生き物だとしたら、ざっと胴囲は十メートル近くあるだろうか。そいつが時折りずるっと動き出して、その都度この建物――軌道エレベーター塔がみしみしと軋むのだ。
窓に張りついた
「あれ、エンデラ風の歓迎のアトラクションとかじゃなくって?」
「……違います」
「もしかして俺たち、龍が巻きついた塔の中にいるってわけ?」
「そうですよ!」
そう言うと受付嬢はついに泣き出して、わっと両手に顔を埋める。それと同時に天井近くのホロヴィジョンの映像が、番組の途中だというのに突然切り替わった。
「速報です! 龍が、あの龍が現れました! しかもご覧下さい! 海中から現れた龍は見ての通り、軌道エレベーター塔にびっしりと巻きついています!」
そこに映し出されたのは、天に向かってどこまでもそそり立つ軌道エレベーター塔の足下から上に向かって、全長百メートルはあろうかという巨大な大蛇とも
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