第65話 - 勅命
クレマリー、デリック、ヘルゼを連れて王都へやってきた
王政の王都と言うだけあって他の街とは比較にならないほど繁栄し、贅を凝らした建物があちこちにあった
「さすが王都だな」
周りを見ながらエーサーが関心する
その中でも特に目を引くのが巨大な兵器ギルドだった
王都の一角が丸ごと兵器ギルドになっており王宮を凌ぐ大きさの建物だ
ヘルゼが兵器ギルドを眺める俺に語り掛ける
「あれが王都の兵器ギルドだ、中も恐ろしく広い。工場はもちっと小さいし周りにあるんだが全ての兵器があそこで生産される。実験場も中にあるしすんげぇぞ」
さすが兵器開発が一番進んでいる国だ
力の入れようが違うな
道草をしそうな勢いで街を眺める俺たちをクレマリーが静止する
「謁見で呼ばれているのでしたら早めに伺ったほうがよろしいかと…」
「あ、そうだったな…急ぐか」
◆ ◆ ◆
王宮 謁見の間
エーサーは王に謁見し、跪く
「お前が狂戦士エーサーか」
「はい、拝謁賜り恐悦至極の思いでございます」
「うむ、余はヴァルスト3世。ヴァルスト帝国を統べる王である」
「エーサーでございます」
「この度は長旅ご苦労であった。率直に要件を伝える、お前が作った街の北東にオークの拠点がある。広大な草原の中央にな、堂々と巣くっておる。それをお前たちだけで殲滅せよ」
「ハッ…規模はいかほどでしょうか」
「1,000はゆうに超えておる、ジェネラルが4匹、キングもいる」
キング!?オークキングか?
現状どの国も手を出さない魔物だぞ
それだけの軍勢を俺たちだけで!??
「お、お言葉ですが…」
遮るように宰相が話し出す
「恐れ多いぞ、慎め」
「は…しかし…」
「私はヨルク=ローデリン。陛下より宰相という職を預かる名誉を賜った」
こいつが宰相か…俺たちに死ねというのか…
「貴様は巨人兵を所有しておるな?聞けば街も穢れた女たちを集めて運営していると」
「はい…」
「我々はその巨人兵の力を見たい、攻略はできずともよい。何年かかってもよい、ジェネラルを減らし弱体化せよ」
それならいくらか現実的だが…くそっ強引が過ぎる
困り果てるエーサーを見てヴァルスト王がため息をついた
「ヨルク、ちといじめすぎではないか?困り果てておる」
「ハッ、少しばかり褒賞があればよろしいかと」
「なるほどな…では仮にキングを倒せばキングが支配していた土地を全てお前にやろう。お前に領主の地位も与える、これでどうだ」
一国が攻略をためらう相手だぞ?そういう問題じゃないんだよ
宰相め…俺たちを削りにきたな…
ヨルクが俺を睨みつける
「できんと申すか?王の勅命である。断るならば今ある土地も没収しお主らは流民となる」
くそ…断ればもう行くところがない…
女たちを守れなくなる…
「わかりました…引き受けましょう」
ヴァルスト王は驚きながら喜んだ
まるで自分が支配者だと言わんばかりに、子供が我儘を通したときのように勝ち誇って
「ハハハッ!さすが狂戦士。我が国家の全軍を集めても討伐できるかどうか分からん相手だ。それをお主らだけで討伐できるならあの土地は惜しくない。頼んだぞ、下がってよい」
◆ ◆ ◆
ヘルゼは王宮に残り、クーベルシュタイルへ戻ってきた
クレマリーとデリックと食堂に集まりみんなでため息をついた
ゾフィが紅茶を淹れ、席に座る
「どうしたの?そんな暗い顔して」
暗い顔もするわ、オークキングが相手だ
1,000体の兵隊も連れているとは…
「ここから東北にある草原にあるオークの拠点討伐を命じられたんだ」
「へ~そんなに難しいの?」
「オークキングがいるんだってさ」
ゾフィは紅茶を吹き出した
慌てて布を取り出しテーブルを拭く
「うそでしょ…そんなの引き受けたの」
「断れば俺たちは土地を奪われ流民になるとこだったんだ」
「うーわ…さすが王様」
宰相も王も明らかに遊び感覚で命令している
巨人兵などというおもちゃを目にしてはしゃいでいるというところか
穢れた女たちならどうなってもいいとでも言うのか…
女たちに理解のある人間が多い国だと思っていたが
王がこれでは風評が酷いのも頷ける今まで会った人たちに恵まれていたんだな
「はぁ…だがやると言った以上やらねばならん。呪鎧はどれくらい増やせそうだ?クレマリー」
「攻略に赴くのであれば街に5体残し、残りを向かわせればよいかと。破損したときの事を考えると予備は3体ほど儀式無しがあれば…人員はまだ今いる者たちに比べて未熟なため乗り手は増やせません」
俺含め6人で向かう事になるのか…大丈夫か…
「勝算は?」
「キングが未知数ですが一度に全てを相手にするわけではありません。移動含めひと月もあればジェネラルは殲滅できるでしょう」
キングは戦ったことがないから当然か、俺もそうだ
「人選はどうする?」
クレマリーは顎に手を当てる
納得するように小さく二度ほど頷いた
「そうですね…デリックとアンリは残しましょう。街の経営が困難になります」
デリックはほっと胸をなでおろし、申し訳なさそうな表情をする
「す、すいませんね…へへへ…」
明らかに安心しやがって…
しかし女を守る騎士になると言っていたんだ、しっかり守ってもらおう
「俺は行くぞ、オーク共の行動が読めるようになる」
ゾフィが立ち上がる
「じゃああたしも行く!新兵器を思いつくかもしれない!」
何言ってんだ…お前が街にいなきゃ誰が街の運営を代行するんだ
「お前は俺の代わりに運営を代行しろ」
「やーだ!無理。わかんなーい!エーサーが帰ってこなかったら街は無くなるも同然なんだからあたしは援護に行く!」
クレマリーは小さく頷いた
「そうですね…そもそも街の代表が出るという事自体が異例ですし…呪鎧の整備も含めていてくださった方がありがたいです」
クレマリーまで…
「残り三人は女たちの中から筋のいいものを選んでおきます、大まかな人選はこれでいいでしょう」
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