第59話 - クレマリーの追跡 2

デリックは立ち上がった


「貴様、下手に出ていれば調子にのるな!国家に反逆した男を匿えば貴様も同罪だぞ!」


デリックはさらに剣を抜く


「今ここでお前を異端者を匿った罪で殺すこともできる。知っていることを話せ!」


バルトも立ち上がり、剣を抜いた


「てめえらが何と言おうと英雄を売る気はねーんだよ!お前らはこの街に何もしてねーだろうが!」

「貴様…聖騎士をなんだと思っている!」

「やめろ!」


クレマリーがデリックを睨みつけ、静止する

デリックはため息をついて剣を下げた


「バルト殿、気持はわかった。我々は勝手に探す、そこまで邪魔はするまいな?」


バルトも剣を収め、深呼吸する


「勝手にしろ、街のやつらが言うんなら俺は止めん」

「相分かった、邪魔したな」


クレマリーたちが立ち上がり、部屋を出るとバルトはベロニカを呼びつけた


「ベロニカ!」


パタパタとベロニカが応接室へ入ってくる


「はい!なんでしょう…議論が白熱してましたね…」

「フン!奴らが出て行ったら魔物避けの香を焚け!」

「は、はい…」


◆ ◆ ◆


クレマリーたちは宿を手配し、クレマリーの部屋で会議をしていた


大きなため息をつくクレマリー

デリックは顎に手を当て、頭を傾げる


「隊長、異端者エーサーがここまで庇われる理由がわからない」

「そうだな…ミリアの街を救ったのは事実なんだろう」

「ここで異端者エーサーがそんなにも善行を行ったのが事実ならオルレンヌに来てから何かあったと考えるほうが自然だが…」


クレマリーは表情もなくデリックを見つめ、小さなため息とともにうつむいた


「皇国に対する不敬はやめよ。我々は聖騎士なのだ」

「はっ…邪推でした」


静まり返る一同

クレマリーは窓の外を見ながら情報を整理した


異端者エーサーはオルレンヌでも妹と二人で多数のオークの拠点を潰している

妹はお世辞にも戦闘が得意だとは言えなかった

だとすると一人で潰して回っていたことになる

それほどの力がありながらなぜ解放軍の全ての聖騎士が死んでいたんだ?

異端者として追われたなら一人逃げればよかっただけだ

オーレオン様がいる解放軍があの程度のオークにあれほどまでにやられるわけがない

妹を庇って全滅させた?

…あり得ない、聖騎士が妹を攻撃する理由がない

考えるほどに辻褄が合わないな


………考えても無駄か…本人を探して聞くのが一番いい

マドロアがいるなら私が聞けばいい話だ


「今日はここに泊まる、明日の出立まで各自街で情報を集めよ」

「「「はい」」」


◆ ◆ ◆


クレマリーは街の中を見て回る

異端者エーサーの手がかりを探し

ゴブリンたちに破壊され、家主のいなくなった家を訪れた


居間に大きな血しぶきが付着しており、床には花束が添えられている

血は不自然な形で乾いており、ここに人が居たことを物語っている


なぜこの家だけ残されているんだ…

……!?足音…


ガチャガチャと扉を開けて現れたのは花束を持った老人だった

老人はクレマリーに気づくと一礼し、花を添えて祈りを捧げた


クレマリーは老人と一緒に祈りを捧げる

老人はクレマリーが祈りを捧げているのに気づくと、静かに語り掛けてきた


「おまえさん、エーサーを追ってるんだってな」

「はい、彼に聞きたいことがありまして…」

「ここはな、エーサーが引き取った娘がいた。両親を失って孤児になった娘だ。エーサーは娘を引き取り、ここで暮らしたんだ」


クレマリーは目を開き、床に付着した血をこする


「この血はなぜ…?」

「ある日街に数百のゴブリンがやってきた、その時娘は犯され、エーサーに懇願したんだ。殺してくれってな、その子の血だ」


穢された娘か…オルレンヌ皇国の王都でも自刃する娘は多いと聞く…


「それからエーサーは怒り狂い、スウォームを発生させたゴブリンの巣に一人乗り込み全てのゴブリンを殺したそうだ」

「………」

「娘の名前はクベア、ワシはクベアが働きに来ておった馬屋をやっておる」

「………」

「お前さんはエーサーを殺すのか?」


クレマリーは目を閉じ、小さく首を振った


「わかりません、異端者としてかけられた嫌疑の通りなら殺すでしょう。ですがまずは話を聞きたいと思います、こんなにも街の人に愛されている男がどうして聖騎士を殺したのか…」


老人は小さなため息をついてこくこくと小さく頷いた


「風の噂ではヴァルストにいるそうだ。エーサーが街を襲う計画なんぞするはずがない、あんたが証明してくれ」

「………私の妹も行方不明になりました。彼が連れている可能性が高い、妹が無事なら話を聞いてみます」

「何があったんじゃろうな…どうして心優しいエーサーが異端者などと…」


老人は立ち上がり、家を出ていった


ヴァルストか…一度宿に戻って他のものと行軍計画を立てよう


◆ ◆ ◆



宿に他の聖騎士たちも戻ってきた

クレマリーがデリックたちに首尾を聞く


「どうだった?何か情報は得られたか?」


ザール、アンリは首を振る

デリックが手を挙げた


「場所は頑なに言いませんでしたがどこかで穢れた女たちを集めているそうです」


どういうことだ…穢れた女たちを集めて何をしている


「推測ですが…オーク軍を編成するため、女たちを使っているのではないでしょうか?」

「バカな…そんなこと許されるわけがない!ふざけるな!」


その中には妹もいるというのか!?許さん!絶対に取り返してやる!


クレマリーは息を切らして怒鳴りつけた


「こちらも進展があった、ヴァルストにいるそうだ。明日すぐに発つぞ」

「「「はい」」」

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