第60話 - クレマリーの追跡 3

2週間が過ぎ、クレマリーたちはとうとうエーサーの居場所を突き止めた


早朝、クーベルシュタイル郊外にたどりつき、街の様子を眺める

街は木杭で囲われただけの質素なもので家が数軒、人が何人か見える

木杭の外側に新しい石壁を作る工事をしているようだった


デリックがクレマリーに話しかける


「どこにオークを隠してるんでしょうね」

「ここではないだろう、目立ちすぎる」

「それは確かに」


本当にここにいるのか?

防衛力は皆無に近い、こんなところで何をしている

いきなり攻め込むのはまずいだろう…ここは他国だ

まずは門の前で異端者エーサーを呼び出すのがいいか


「デリック、門まで行こう。異端者エーサーを呼び出すんだ」

「わかりました」


門の外に馬車をつけ、広がって叫び声を上げる


◆ ◆ ◆


早朝、エーサーは物々しい音で目が覚めた


街のどこかでガンガンと何かを叩き

大声で怒鳴る女の声がする


「なんだ…騒がしいな…」


義手を装着しとりあえず外に出て見ると東門で聖騎士たちが道を塞いでいた

聖騎士たちは大きな金属の板を叩き、音を鳴らしながら叫んでいる


「異端者エーサー!いるなら出てこい!オーク軍を率いる穢れの王!出てこぬなら街に火を放つ!」


エーサーは鎧も付けていなかった


火をつけられるのは困る

せっかく街の運営が軌道に乗り始めたのに何をするつもりだ


物音を聞いたゾフィが部屋から降りてくる


「エーサー、呪鎧の準備をするから行ってきて。すぐに行く」


エーサーは鎧もつけずに東の門へ歩いて向かった

途中、ガチャガチャと大きな音を鳴らして呪鎧を着たゾフィが合流する

東門に着くと大きな呪鎧に聖騎士たちは声を無くしていた


デリックが恐れながら声を上げる


「異端者エーサー、それはなんだ!オークジェネラルか!?予想通りオークの軍団をここで育てていたんだな!!」


それを聞いたゾフィが怒る


「ふざけんな!誰だお前たち!あたしの呪鎧がオークだと!?」

「お、女の声…」


デリックは混乱を隠しきれず、勢いよく伸ばした指がしおしおと折れる


「何の用だ!あたしの主人が異端者だと?事によっては呪鎧の錆びにしてやるぞ」


クレマリーはゾフィの話を聞いて激昂する


「異端者エーサー!マドロアは…妹はどこだ!結婚したと聞いていたぞ。なぜオークのような女と一緒に居る!」

「カッチーン!オークのような女だと!!お前今すぐその根性叩きなおしてやるからな!」


ゾフィは巨大なメイスを構え振り上げる

クレマリーたちもとっさに大剣を構えた

エーサーは状況を整理するためゾフィを止めた


「まて、ゾフィ。こいつらと話したいことがある」

「ぐぬぬぬぬ…取り消せ!筋肉女!お前の方がよほどオークに近い見た目だろうが!」

「なっ!聖騎士を愚弄するか!!貴様…」


エーサーは首を振って大きな声を上げる


「静まれ!!」


一同は静まり返り、少しおいて全員が武器を収めた

デリックだけが剣を抜いたままだ


クレマリーはエーサーを睨みつける


「マドロアはどこだ!説明してもらうぞ!!」


デリックがクレマリーの前に立ち、背中で押すように後ろへ下がる


「隊長。こいつら黒でしょう、妹さんは殺されたんですよ!」


ザールが再び大剣を抜いた


「おのれ!オークの女ごときに聖騎士を愚弄されたのか!!今ここで斬り殺してくれる!」


ザールは大剣を構えエーサーに近寄っていく

ゾフィは呪鎧でエーサーを後ろに下げるとザールが斬りかかってきた


ゾフィがメイスで大剣を受け止め、弾き返す

体勢を崩すザール、ゾフィはメイスを両手で持ち替えザールめがけて振りぬいた


ザールはよろめきながらも大剣を構え、メイスを受け止める


耳をつんざく轟音と共にザールは一瞬で馬車の後ろまで弾き飛ばされ

大剣は折れ、ガシャン、ガシャンと2度ほどザールは地面の上を跳ねた


目を丸くして驚くクレマリーとデリック

目を閉じ、耳を塞いでたアンリが目を開けザールを見ると駆け寄っていく


「ザール!!」


アンリがザールと見ると首と腕が折れ、血を吹いて死んでいた


「ザール!ザール!!」


デリックが激昂する


「貴様!!目の前で聖騎士を殺すとは!!」


剣を構え、戦闘態勢に移る


「やめろデリック!!」


デリックが振り返ると涙を浮かべたクレマリーが怒りに満ちた顔でエーサーを睨んでいる

(妹が生きていれば人質になっている可能性がある、刺激するのはまだ早い)


「しかし…隊長…」

「まずは話を聞け!奴らの嫌疑が晴れなければ好きにすればいい」

「………わかりました」


デリックとゾフィは武器を収めた

エーサーは聖騎士たちを見て、諭すように話しかける


「俺が見た事は全て話す。家に来い、気に入らなければ首を取るなり好きにしろ」

「貴様の言葉は全てオルレンヌ皇国へ持ち帰る。よく考えて喋るんだな…」


クレマリーたちを案内し、エーサーは鎧をつけて食堂のテーブルに着いた

呪鎧を脱いだゾフィも参加し、5人でテーブルを囲む


「皆座ってくれ、俺はエーサーだ」


クレマリーはギリギリと音を立てて拳を握り、席に着く


「異端者エーサーを追う調査隊隊長のクレマリー=ミリエンヌだ」

「クレマリー、聞きたいことを言え。正直に話してやる」

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