第58話 - クレマリーの追跡
エーサーがデブレオで出会う頃、ようやく調査隊の越境許可が得られ
クレマリーたちは本格的にエーサーを追跡する旅に出た
オルレンヌ皇国の王都を出て、調査隊は馬車を引きアールテラ資本国家へと向かっていた
静かな街道をガラガラと音を立て馬車を引いていく
御者のデリックが馬車の中を覗き込み、クレマリーに声をかけた
「隊長、ミリアの街に着くまであと半日ってとこです」
「わかった、街に着いたら補給しつつエーサーの足取りを追おう」
静かに殺された聖騎士たちの復讐を誓うクレマリーは険しい表情でうつむく
解放軍が壊滅した場所を直に見たザールは怯えながら話し出す
「あの、あの激戦を潜り抜けた男に俺たち勝てるんでしょうか…」
あまりに怯えるザールの表情を見てアンリが笑う
「恐ろしいのですか?ザール殿。所詮人一人、上級聖騎士が4人もいれば抵抗すら出来ないでしょう」
「君は現場を見ていないからそんなことが言える…あの地獄を見て生き残る自信があるなら俺は貴女に一生忠誠を誓うよ」
「大げさですよ。買い被りすぎです」
アンリは今回初めて調査隊に参加したばかりで解放軍が全滅した現場を見ていない
また、越境をするため前回の調査よりも人は減ってしまっている
聖騎士は国に所属する軍人、あまり多く連れて歩くと宣戦布告とみなされるからだ
クレマリーを隊長とし、デリック、ザール、アンリの4人で調査を行う事となった
ザールの怯えようはそれほど的外れではない
クレマリーはオーレオンが殺されていたことも気がかりだった
オーレオン様はオークジェネラルでさえ一人で葬ることができる剣聖だ
あの場にいたジェネラルは大剣で殺されていた
つまりあの場に居た者でオーレオン様を殺した人物はエーサーしかいない
少なくともオークジェネラルを簡単に葬れる人物と同等の力を持っている
オークジェネラルは上級聖騎士が最低でも2人以上で相手をしなければならない強敵
4人も上級聖騎士がいるが果たしてエーサーは一人だろうか?また新しい軍団を指揮していたら手に負えない
クレマリーもまったく不安がないわけではなく、アンリを擁護できないままミリアにたどり着いた
ミリアは街が半壊したゴブリンスウォームの時からかなり復興が進んでいた
クレマリーたちはミリアに入ると冒険者ギルドへ行き、エーサーの噂を集めた
ミリア冒険者ギルドは初めて見る聖騎士の姿にどよめく
ベロニカがあからさまに雰囲気の違う聖騎士たちに声をかけた
「いらっしゃいませ。冒険者…の方々ではありませんよね…?どういったご用件でしょうか」
クレマリーはギルドの中を右、左と顔を向けて一望するとベロニカの元へ行く
「異端者エーサーの行方を追っている。調査に協力して頂きたい」
冒険者ギルドは噂や名声に敏感だ、エーサーが異端者になっていたことは当然ミリアにも伝わっていた
「エーサーさん…噂はたまに伺います…オークの軍勢を指揮しオルレンヌ皇国を襲撃する計画を立てたと言う話は何度も街を救われた我々にとってあまり信じがたく…」
「あの男は聖騎士の最高権力者であるオーレオン様を殺した嫌疑もかけられている。我々は彼を追っている調査隊だ」
カウンターに手を置き、一歩迫るクレマリー
ベロニカは一歩引き、クレマリーたちにあからさまな恐怖心を示した
「ちょ、ちょっとお待ちください…ギルドマスターに伝えてまいります」
パタパタとギルドマスターの所へ行くベロニカ
ギルド内は聖騎士に対する疑惑の声がひそひそと渦巻いている
「エーサーがオークを率いて?信じられんよな」
「あの人のオークに対する復讐心は並大抵のものではなかった。だいたい可哀想なクベアを引き取りゴブリンから街を守った英雄だぞ?なぜそんなことをする」
「うさんくせえんだよな、聖騎士ってのが。キレイな鎧を身に着ければ全て自分たちが正しいと思ってるような連中だろ?」
デリックが鋭い目つきで冒険者たちを威圧し、クレマリーに近寄る
「隊長、ここは長居するべきではない…我々は彼らの敵のようです」
「………」
ギルドマスターのバルトがクレマリーたちを応接室に呼び
ベロニカが案内する
バルトは調査隊を椅子に案内し、腰かけた
「あー…ギルドマスターのバルトだ。オルレンヌ皇国上級聖騎士の方々。ん?調査隊の方々…」
慣れない口上に言いよどむバルト
クレマリーは遮って話し出した
「いい、私は調査隊隊長のクレマリーだ。クレマリーでいい、異端者エーサーの行方について教えて頂けないか?噂でいいんだ」
バルトは頭を掻きむしりながら目を反らす
「うーん…申し訳ないんだが俺はあんた達に協力できない…おそらく街の連中もだ」
「なぜだ?異端者であることは噂の早い冒険者達なら既に聞いているだろう」
バルトはため息をついた
「はぁ…信じられねぇんですよ。狂戦士エーサーは街を救った英雄だ、オークに対する復讐心、クベアを引き取った慈悲深き心、ゴブリンたちを一人で全滅させる鬼神のごとき強さ。オーク軍団を指揮したとしても街を襲う計画をしていたとは思えない」
デリックは静かに、鋭い目つきでバルトを睨みつける
「オルレンヌ皇国の最高権力者が殺されたというのに、彼の肩を持つと?」
バルトは首を横に振る
「それもおかしい、俺の知るエーサーは確かに恐れるほどの強さだったが人を殺したことは一度もない。何かの間違いじゃないのか?あんたたちは現場にいたのか?」
クレマリーはうつむいた
「状況証拠だけだ…だがエーサーが我が妹を連れている可能性もある。妹は異端者エーサーがオルレンヌにいた間目付け役として付き添っていた!妹も一緒に消えたんだ」
バルトは小さく頷き、小さな声で話した
「エーサーがやったと信じる気はないがそこまで言うなら確かめてきな。俺はあんた達に協力できない」
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