第17話 - クベアの依頼
スウォームの可能性を示唆してから数日
コンコン
「エーサーさん、お願いがあります。聞いて頂けませんか」
今朝はクベアが部屋にきた
何事だろうか、朝から俺の部屋まで来る事はなかった
最初にあった日以来だ
「入ってくれ」
眠い顔をこすりながらクベアを呼ぶ
クベアは泣き腫らした顔で扉を開けた
「どうした…」
「依頼が…あるんです…」
今にも泣きそうな顔をしながらクベアが依頼をしにきた。直接
見るからにただ事ではないだろう
ベッドから出てテーブルに座り、クベアを座らせる
「言ってみろ」
大きく深呼吸しながら語り出した
「昨日…お父さんが薬草を取りに行ったんです…北東の山に」
先日ゴブリンの巣を壊滅させたところだ
「一日で帰ってこれる距離なんですが…今朝になっても帰ってこないんです」
まずいな
「馬も、帰って来ちゃってるんです。きっと何かあって…馬が無くて帰るのに時間がかかってるんだと…思うんです。迎えに…行ってあげて欲しいんです…」
「わかった、受けよう。装備を着けるのを手伝ってくれ」
カタカタと指が震えるクベアに装着を手伝ってもらい、宿を出て馬房に向かった
馬房について馬主に移動用の馬を借りようと声をかける
「今日は馬車はいらん。馬だけ貸してほしい」
「クベアがあんたんとこ行ったのかい?」
「そうだ」
「クベアの父親は北東の川沿いに向かったはずだ。街道を行けば川がある、その上流だろう」
「助かる、行ってくる」
「うん、その…回収は気を付けてな…」
馬を出して、悲しそうに馬主は行先を伝えてくれた
口ぶりからするにもう知っているんだろう
俺でもわかる、怪我をして帰れないなんて事はない
昼はオーク、夜はゴブリンがうろつく土地だ
他にも大型の獣の魔獣たちがうろついている
馬主の言う回収というのは遺品の事だ
馬を走らせ川が見える位置に着いたところで馬を降りた
川沿いに死体があるなら魔物がいる可能性がある
慎重に上流へ向かっていくと食い散らかされた男の姿があった
オークなら潰して持ち帰るだろう
ゴブリンも巣に持って帰る
これは魔獣の仕業だ
傷跡は4本平行に並んだ鋭い爪
胴を斜めに切り裂いている
爪の間隔からすると熊だ
熊の魔獣は獲物に執着する
きっとまた戻ってくるだろう
切り裂かれた体はいくつか食いちぎった跡があり、まだ赤い
紫に変色しているところとそうでない場所がある
食ったばかりだ、獲物を土に埋めるため穴でも掘っているんだろう
ガサガサと音がした
音の方向へ目をやると黒い毛皮の熊がこちらを見ている
立ち上がり両手を上げて威嚇を始めるとその大きさは大人二人分はある高さになった
これはオーク達でさえ手こずる大きさだ
熊は四つ足になると突進してきた
(早い)
体の大きさに比例して歩幅が大きいため速度が速い
左に重心を傾けてフェイントを入れ、右に飛ぶと分かっていたかのように左足で薙ぎ払われた
野生の獣は勘が鋭い、かろうじて防いだが義手が折れ曲がってしまった
ゴロゴロと転がり素早く体を起こして次に備える
遺品を回収するだけのつもりだったので大型の魔獣を仕留める装備がない
◆ ◆ ◆
何度か突進を躱し、木の陰を利用するなどしてようやく熊をしとめた
義手は渾身の斧を最後に振った時に折れてしまった
両腕に着けた小盾は熊の爪を二度ほど受けただけで原型を留めていない
オークバーサーカーと同等の強さと言ってもいい
よく一人で倒せたものだ、戦闘に関しては知恵が回らない魔獣だったから勝てたのかもしれない
これで爪ではなく剣など持っていたら死んでいたのは俺だろう
折れた義手を外し、熊を持ち帰る木のソリを組み上げ、クベアの父親が握っていた薬草の本を形見に持って帰った
馬房に戻ると馬主は熊の死骸を受け取り、いつも通り馬を受け取る
「クベアのお父さんは見つかったかい?」
血に濡れた薬草の本を馬主に見せると目を閉じて頷いた
「あんたにゃ関係ない話だが…あのよ…もしよければ頼まれてくれないかい?」
「依頼か?」
馬主は目を閉じてゆっくりと顔を振る
「いんや…クベアはあんたを大層気に入ってるんだ。あいつの親は今あんたが持ってる本になっちまった…母親はずいぶん前にゴブリンに攫われた、もう身寄りがないんだ。あんたさえよければ一緒に住んでやってくれないか」
得体も知れない男に街の娘を預けるというのはどういう心境なんだろうか
クベアから聞いた話では毎朝この馬房で仕事をしていると言っていた
老婆心から来るおせっかいだろか
「あんたさえよければな…この街は一見派手に見えるがみんなその日暮らしで余裕がないんだ」
「……考えておくよ」
突然の話に戸惑ったが一度クベアにも聞いてみないとわからない
そもそも俺はオルレンヌ皇国に向かう旅の資金を得るために来ただけのはずだった
フルーフの形見を届けるために
毎朝飽きもせず偶然を装って会いに来る彼女に少なからず同情しないわけでもない
どうしたものか…
冒険者ギルドへ向かい、事の顛末を報告するとクベアの家をの場所を教えてもらった
クベアは泣くだろうか
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