第18話 - クベアの想い

クベアの家に着いた


ノックをするとクベアが迎えてくれた

家は質素で倉庫付きの平屋、台所兼食卓の部屋と寝室

屋根裏に小さな部屋がある、家というよりは二つ小屋がある感じだ


大通りの大きな建物は大通り沿いにあるだけで

住宅街に入れば似たような家がいくつもある

みんな余裕がないというのは本当のようだ


クベアに父親の形見を見せると落ち着いて受け取った

小さな子供ではないのでさすがに悟っていたようだ


クベアは悲しい顔をして形見を受け取ると布で包装して倉庫に行った

戻ってくると神妙な顔をしながらテーブルに座った


「エーサーさん、謝らなければいけないことが…」

「なんだ」

「あの…依頼をしたのはいいんですが…お支払いするものがなくて…」


朝はかなり混乱した様子だったからな、考えていなかったとしても仕方ないだろう

この子はこの先どうするつもりなんだろうか


「そうだな…クベアはこれからどうするつもりなんだ?」

「わからないです…あたし一人の稼ぎではその日食べていくのが精いっぱいで…税金がお支払いできないのでいずれ街を出る事になると思います」


深刻だな


「行く当ては?」

「……ありません」


なるほど、馬主が言っていたのはこういう事か

仕方ないだろう無理に搾り取る気もない


「わかった。報酬は今回なしでいい、熊の素材が売れるからな」

「いえ、必ずお支払いします!少し、数日お待ちください。街の英雄にお支払いもせずお願いしてしまったと噂になれば…私のように直接泣きつけばいいと思われエーサーさんにご迷惑おかけしてしまいます。お願いします、お支払いさせてください」


クベアはうろたえながら俺を静止し、申し訳なさそうに肩を落とした


なるほど…それはそれで一理ある

そしてそうなればかなり面倒くさい、すぐにでも街を出るだろうな

オークは憎んでいるが街のために命を賭けて討伐している

無償でやるわけにもいかない


「ふぅ…仕方ない。無理はしなくていい、気長に待つ」

「ありがとうございます。数日したら宿へ向かいますね」


数日でいくら用意するつもりなんだろうか

無理しなきゃいいが


クベアの家を出た後は兵器ギルドへ向かった

ハーベイに壊れた義手を見せるためだ


中に入るとハーベイが俺を見つけるなり寄ってきた


「よう、旦那。色男はつらいね」

「何の話だよ」

「クベアの依頼のために一肌脱いだって話じゃねーか。泣かせるねぇ」


もう伝わってるのか、クベアが心配するわけだ

さっさと義手を渡して仕事させよう


「ほら、義手が壊れた。作り直してくれ」


折れた義手をハーベイに渡すと眉をひそめてあからさまにいやそうな顔をする


「はぁー?簡単に言ってくれるじゃねーの…鉄の義手をどうやったらこんなにできるんだ」

「デカい熊に襲われてな、一撃で折れたぞ」

「オイオイオイオイ…はぁ…ったくよー俺のせいみたいに言うんじゃねーよ大事に扱え」

「すまんな。で、いつできる?」

「クソッたれ…心の底から謝りやがれ。予備がある、今はこれをもってけ。印も刻んである」


予備?俺以外にもそんなに腕がないやつがいるのか?俺と同じサイズで


「随分用意がいいな」

「まぁ、いずれこうなると思ってたよ。オークバーサーカーと戦ったらしいじゃねーか、あいつらは人が両手で扱う武器を片手で使うからな。丁度試作してるやつがあるんだ、明日取りに来い」

「そうか、楽しみにしておく」

「おう、見て驚け。金貨も持って来いよ。高くつくぞ」

「わかった」


その日は宿に戻り、義手に血の儀式を施してゆっくりと過ごした


◆ ◆ ◆


翌日


朝食を済ませて今日の偶然を済ませに冒険者ギルドへ向かったがクベアは来なかった

冒険者ギルドへ入り、カウンターへ向かうとベロニカがものすごく不満そうな顔をしている


「おはよう。今日は機嫌悪そうだな」

「エーサーさん、クベアの事をどう思っているんですか?」

「クベア?何かあったのか?」


今朝偶然を装って会いに来ることが無かったのと関係あるんだろうか


「昨日から夜なべして働き詰めですよ。一体いくら要求したんですか」


おいおい…どうしてそうなる


「彼女もう身寄りも無くなって頼れるのはエーサーさんだけです。どうして引き取ってあげないんですか」


簡単に言うな


「あのな…俺にも事情があるんだよ」

「事情!?それは失礼しました、成人して間もない少女を路上に放り出すような事情があるとは知りませんでした。申し訳ありません。今日お話しできる依頼もありません」


ベロニカはツンと顔を背け話を聞く気もない態度を示す


こいつ…クベアとそんなに親しかったのか?

参ったな、このままでは俺が街を追い出される


「本当は報酬はいらないと断ったんだ。だが泣きつけば無償で依頼を受けてくれると噂が広まってしまえば俺に迷惑がかかると言っていた」


ベロニカは小さくこくこくと頷きながらうつむいた


「たしかに、それで安い報酬ではご迷惑がかかるとあんなに働いているのかもしれませんね」

「クベアはどれくらい依頼を受けてるんだ?」

「おそらく三日は寝る暇も無いです」

「無理するなと言っておいたんだが…」


ベロニカは小さくため息をついて願うように話し出した


「彼女の想いを汲んであげてください。それだけエーサーさんを想っているんです」

「はぁ…クベアは今どこにいる」

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