第16話 - ゴブリンの巣

巣の前で戦闘の準備をする


ゴブリンは洞窟に住むことが多い

この地域ならばオークが入れないような巣を選ぶだろう

今回の洞窟はそういう意味では理想的だ


奥にゴブリンロードなどもいる可能性がある

中の地形が分からない上に敵の巣に単身乗り込むほど無謀ではない

今回は煙玉と目つぶし玉を使ってあぶり出す


煙玉にいくつか火をつけ洞窟の奥に投げ込んでしばらく待っていると奥の方からゴブリンどもの声が聞こえ始めた


ギャァギャァと慌てふためく声が遠くから近づいてくる


目つぶし玉は辛味成分を多く含んだ煙玉で触れればピリピリと痺れる

肌ならその程度だが目に入れば激痛で前が見えなくなる

これを洞窟の入り口で焚いて待つ


自分自身が被害を受けないように今回は槍を買ってきた

入り口から距離を開けて待っていると煙玉で燻されたゴブリンたちが慌てて出てくる

目つぶし玉の煙を顔面に浴び、一匹転がると二匹目、三匹目と転がったゴブリンに躓いてゴロゴロ転がってくる

あとは槍で突けばいいだけだ


30匹ほど殺すとゴブリンたちは出てこなくなった

報告通り30匹だったんだろうか?


煙が収まったころ中に入って確認しよう

洞窟の入り口で倒したゴブリンたちの耳を削いでいく

二つで一匹討伐とカウントされて1体あたり銀貨50枚だ


半分ほど処理をしたころガサガサと草がこすれる音がする

音の方向を確認すると20体ほどのゴブリンとゴブリンロードが俺を見つけて横に広く広がっていた


(抜け道があったか…)


入り口はひとつではなかったようだ

20体ともなるとさすがに分が悪い

しかも横に広がり取り囲まれている


そんな心配をよそにゴブリンたちは怒り狂ったように飛び掛かってきた

槍を洞窟に投げ込み

集団を躱しながらひっかけるようにゴブリンたちの頭を斧で叩いていく


4体ほど殺しながら洞窟へ避難した

まだ煙は残っており視界は悪い

ゴブリンたちも続いて入り込んでくるが通路を利用して正面からの攻撃だけに集中できれば対処は楽になる


左手で槍を突き、潜り抜けてきたものを右手の斧で処分する

さらに10体ほど処分してゴブリンの勢いが無くなったので用心しつつ外へ出る


右、左と確認し、耳を澄ませて音を聞く

ロード達はいなくなっていた


「逃がしたか…逃げる知能があるのは厄介だな」


逃げるという事は次回に備えるという事だ

悪知恵が働くゴブリンの事なのでより面倒な事になるだろう

ギルドに報告しなければならないな


洞窟の煙が十分に薄くなったころを見計らって中を調べた

何匹か昏倒しており始末しながら隅々まで調べていくと扉のある部屋と檻が見つかった

中には誰もおらずここだけ他とは違う匂いがする


おそらく繁殖場だ

女を捕えている

ロード達の数も合わせて50匹程度だったが女たちは見ていない

もっと数がいると思ったほうがいいだろう

厄介なやつを逃がしてしまった

スウォームになる可能性が高い


マップを作り、状況をまとめてゴブリンたちの耳を削ぐ

耳を穴をあけて縄を通すと帰路についた


街に戻る頃には夕方になっていた

ギルドへ戻り、ベロニカに事の顛末を報告する

ベロニカは深刻な顔をしながら話を聞いていた


「討伐に加えて調査まで…ありがとうございます。ちょっと深刻な事態になりましたね…」


ベロニカは少し待つように言うとバルトに報告しに行った

しばらくするとギルドマスターの部屋へ呼ばれ、ギルドの二階にある部屋へ入った


バルトは大きな執務用テーブルに座り忙しそうに書類を見ていた


「呼び出しておいてすまんがあと5分ほどその辺に座って待っていてくれ」


奥には大きな椅子とテーブルがあり応接室のような雰囲気だった

そこで待っているとベロニカが紅茶を淹れ、持ってきた


「今回はスウォームに発展する可能性がある重要な報告になりました。後日マップの買い取りと調査料もお支払いします、ギルドマスターが執務を終えるまでもうしばらくお待ちください」


ベロニカは紅茶をテーブルに置くと、静かに部屋を出ていった

待っている間一口、二口と紅茶を飲んでみたが草の匂いがするだけでこれの何がいいのかわからない

そんな顔をしているとバルトが微笑みながら向かいの椅子に座った


「紅茶は初めて飲むのか?」

「そうだな…草の香りがする温い水か」


エーサーは何度も匂いを嗅いでは不思議そうにする

バルトは笑いを堪えるように口を手で覆った


「クックック…お前に商人は向かないだろうな」

「まぁ、する事もないだろう」

「確かにな…本題に入ろう、今回呼んだのは詳しい報告を聞くためだ。ゴブリンロードと繁殖場が見つかって女たちも移動されていたとまでは聞いた。ゴブリンロードはどんな姿だった?」

「……オークの毛皮を着て、上等な槍を持ったやつだったな」


バルトはやっぱりかという顔をしながら両手を顔の前で組む


「そいつは”棘”と呼ばれるゴブリンロードだ。ひときわずる賢く、目撃例はこれで3回目になるがいずれも逃げおおせている。そして見つかるたびに巣の規模が大きくなっている。最初は30体ほどの巣、次は50体の巣、今回は50体を超える巣だ」

「次はおそらくスウォームになるだろうな」


バルトは大きくため息をついた


「そうだな…街の女たちを外に出さないようにしてなるだけ家にいるよう伝えておくか」


急に鋭い目でエーサーを睨む


「お前を慕っている娘、クベアと言ったか。気をつけろよ、あいつらは人を覚える。お前を狙ってくるはずだ、側に女がいるなら攫われる可能性を意識しておけ」

「………わかった」

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