第11話 - 初仕事

「もう我慢ならねぇ!もう一本の腕もたたっ切ってやる!」


剣を抜いた強面の男と俺を取り囲むように冒険者たちが群がってくる


「お、やれやれー」

「手加減すんなよー」


物好きたちのヤジが飛ぶ

強面の男は長い剣をくるくると振り回しながら中腰で様子を伺い始めた


「お前が悪いんだからな。もう片方も無くなったら飢えて死んじまうかもな」

「やるなら早くしろ。他に行くところがあるんだ」

「クソが!」


強面の男は長い剣を生かして間合いを保ちながら強く突き出してくる

エーサーは身をひねり、剣を躱しながら斧を抜いて男の肘を突きあげた


鈍い音と共に男の腕は本来曲がらない方向へ曲がる

左手の斧を強面の男の首にかけ、引き倒すように斧を引くと男は前のめりに倒れこんだ

折れた腕を足で踏みつけ男の首にもう一度斧の刃をあてる


「暴れる場所を選べ、お前では話にならん」

「う…ぐぅ…い、いてぇぇ」


ギルドの中は一気に静まり返った

様子を見ていた男が手を叩きながら声をあげる


「よーし、そこまで」


俺と強面の男を囲んでいた男たちがその男を見ると道を開ける


「俺はギルドマスターのバルトだ、この勝負は俺が見届けた。負けたやつはギルドの登録を抹消しといてやる。街からも出ていくといい。その程度で和を乱すようなやつは戦場でもロクな働きをせん」


俺は斧を引き、バルトを見た

この男も大柄で顔に斜めの傷を持っており、背丈も体もエーサーより一回り大きかった

強面の男は仲間に引き取られ、そそくさと出ていく


「そいつはそれでもそれなりにオークを殺せる男だが素行が悪くてな、調子に乗りすぎた。お前もその男と同じになるなら追い出すからな。肝に銘じろ」

「わかった」

「よし、ならお前に仕事をやる。潰した男の分もお前が働け、ベロニカ、オーク退治の仕事をくれてやれ。腕に自信もあるようだしな」


ベロニカは慌てて手続きを始め、バタバタと書類を集めるとカウンターに戻ってきた


「え、エーサー様。こちらにいらしてください」


カウンターに向かうとベロニカは説明を始めた


冒険者ギルドは依頼をこなした数で名誉が与えられる

どんな仕事でも依頼主が設定した金額分しか貰えない

依頼で倒した魔物などの素材は自由にしてよい

依頼が魔物の素材なら納品対象以外はこれも自由にしてよい

名誉とは単なる噂程度のものだが冒険者は信用で成り立つ商売なので最も重要な要素だそうだ

装備が良い者ほど依頼の達成数が多く、高潔な傾向が強いらしい


「ギルドの説明は以上です、それで今回の依頼ですが、オークを倒して牙を持ち帰ってください。二本で一匹討伐したとみなされます。一匹あたり銀貨100枚と交換になるので一匹でも倒せば達成になります」


うってつけの依頼が来たな

オーク退治は得意だ、片腕になってからどれくらい戦えるかも確認したい

数も自由なら無理せず退却できるだろう、これならすぐにでも取り掛かれる


「やろう、牙はここへ持ってくればいいのか?」

「はい、では受け付けます。あとこちらがエーサー様の仮の身分証です」


ベロニカは縁に細工が施された銀の板を差し出した


「まだ何も書かれていませんが後程正式なものをお渡しするのでまたいらしてくださいね」

「わかった、日が暮れるまでに戻る」


冒険者ギルドを出ると早速準備に取り掛かった

砦攻めで使った煙玉がいくつか残っているので緊急時はこれを利用しよう

あとは馬防柵を現地でいくつか作れば少なくとも数匹は狩れるだろう


フルーフの荷物に入っていた金貨もあと1枚しかない

とりあえず稼いでおかねばすぐに尽きてしまう

すぐに向かおう


街の門を出ると門衛に呼び止められる


「おい、お前これから外に出るのか?」

「そうだ、オークを狩りにいく、ここからだとどこが近い?」

「歩きで行くのか?ギルド証があるならすぐ近くの馬が借りれる、借りていけ。オークはここから東の森によくうろついているらしいぞ。死ぬなよ」

「ありがとう」


門の中へ戻ると馬房があるのを見つけた

馬房へ行くと馬主らしき男が近寄ってくる

馬主は白髪のお爺さんで優しい口調の男だった


「お兄さん、馬が必要なのか?」

「ここに来たら借りれると聞いた」

「そうだな、一匹でいいのか?何に使うんだ?」

「オーク狩りに行く」

「わかった、なら一匹、馬車付きのやつを連れてきな。ギルド証はあるかい?」


馬主にギルド証を見せると目を細めながら何度も裏返してはさすっていた


「よし、依頼で狩りに行くなら無料で貸し出している。夜までに戻らない場合は馬が勝手に戻ってきちまうからな。オークやゴブリン達にあんまり近づけても怯えて戻って来ちまう、無理させないようにしてくれよ」


馬主は馬に馬車を括り付け門まで馬を引いて行く

門に着くと屈託のない笑顔で送り出してくれた


「よし、じゃあ行ってらっしゃい。死ぬんじゃないぞ」

「助かる、行ってくるよ」


まだ日は高い、正午くらいだろう

東に馬を走らせると一時間ほどで森へたどり着いた

街道が整備されており、馬車で無ければ半日は歩く必要があっただろう

門衛の助言が無ければ帰るのは明日になっていたな

夜はゴブリンも出てくる、馬車を借りておいてよかった

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