◆09 迎えの船は
雨宿りをしたあの日からどれだけ過ぎたのだろう。惑星に住んだ日数を数えることも忘れている。それぐらいクロエと暮らす毎日は
早朝の
やはり、というか。おそらくそうなのだ。俺はクロエのことが――いつしか
夢見心地でいた俺に足音が近づく。身体を起こそうとした。
「おはよう、ク……」
――だが、俺は『異変』に気づいた。彼女の異変に。
洞穴の
身体を左右に
……どうしたんだろう。いつものクロエと
俺は眠りにおちていた。
「えっ、覚えていない?」
クロエは俺に、真面目な顔でうなづいた。
つぎに目が覚めたときクロエは
……夢だったのかな、あれ。
異様に思えたあの姿が
クロエと朝食を終えた。
そんなころだった。
……外から
これって、
「まさかスラスターの?」
「そうみたい。船ね」
クロエはのんびりと答えた。彼女にとっては何度も経験をしたことなのだろう。けれど彼女は俺を見て何かに気づいたらしく、頬笑んだ。
「ユーリ見に行こうか。こっそり
音を
船は急に
この船は『貨物船クルタナ号』だ。
「どうしたの?」
「俺を捨てた船だよ。……あいつらなんで戻ったんだ」
クロエは俺に身をよせる。下ろしていた手に、指の感触を感じた。
「逃げようクロエ」
だが、
「おお!?
後部の大きなハッチがひらき野太い声が俺を目がけて飛んできた。そして小太りの男が
……まさかこいつらホバリングで俺を探していたのか。相手の
やってきたのは、副船長
「ようユーリ。んで、元気だったか」
「『元気か?』だ……? 今更なんの用だよ。俺を捨てたくせに。ほかに言うことがあるだろ」
「おいおいやめてくれ。長年おなじ飯を食った仲間だろ。なあ、みんな」
はぐらかしたヨゼフが、うしろに振りむく。開いたハッチにはのこる船員三人の男たちがいる。
そのなかで、背が高い、がっしりとした体格の男が
船長のダグラス。……その視線に、あのころの日々が頭をよぎった。
「ちなみにだがユーリ、おとなりの美人は?」
クロエはそばを離れずに、俺の手をにぎっていた。
「ここで知り合った。それしか言わない。ヨゼフ用件はなんだ」
吐き捨てるように
「すげえんだぞ、とびきりに上客の
「『俺を船にもどしにきた』と……。なるほど」
声が少し震えてしまった。あまりに無責任で、身勝手。ほんとうにこいつらは……。
ヨゼフは
「俺たちがお前を捨てるわけねえだろ。あれは……そう、ちょっとした
……我慢、できなかった。
「ふざけるな! 絶対にお前らのところには帰らない。見えすいた嘘をつくぐらいなら、そっちが
遠くのごみ山に俺の声がこだました。ヨゼフは、笑顔のまま表情をひきつらせている。
そのとき、
「やあべっぴんさん、こっち来いよ!」
ヨゼフとは別の声がそばで聞こえ、
「ルッツ何を!」
俺は追いかけた。クロエはおびえた顔を俺に向けている。
「どうやらお前はこの女と仲良しなようだな。彼女を返してほしいなら船に乗れ。さもないと……」
クロエをさらに引きずろうとする。かすかな悲鳴が耳にとどいた。
歯を食いしばった。こいつらの
「……わかった。船に乗るよ」
二度と乗りたくなかったクルタナ号の船内に、ふたたび足を
いつも、こうだ。ぜんぶこいつらに壊される。そして今ばかりは、被害者が俺ひとりじゃないんだ。あいつらは「女も乗せる」と伝えてきた。
「ユーリごめんね。こんなことになるなら」
「……大丈夫、だから」
悔やんでいる彼女に俺は、ぎこちなくしか返せない。
ダグラスが船員に命令した。書類管理士
「なにボケッとしてる! マーク、離陸準備をしろ」
「船長。さっきのホバリングで推進系が不調になっています。『整備がいる』とさきほど副船長が」
「そうなのかヨゼフ」
「へ、へい。いまお伝えしようかと」
笑ってごまかすヨゼフにダグラスは咳払いして、言った。
「整備のためこの廃棄座標に
ルッツがクロエに近寄った。
「なあ、あんた名前は。名前がわからないと、仲良くなれないだろ?」
「クロエ。……この
「『ほしの精』だぁ? ははっおもしれえ! この女
「ルッツきさま!」
殴りかかろうとした俺は
「女。お前にはまず身体検査を受けてもらう必要がある。健康状態の確認と、船内に変な病原菌を持ち込むことを防ぐためだ」
ダグラスはそう言って内ポケットから小型装置を取りだした。電源をつけ、クロエの顔にかざした。
……が、
「『バイタル測定・不能』、なんだこれは。……誰か船内の生命反応検知をオンにしろ」
ヨゼフが操縦席のほうへ消えていき、機械のうなる音が鳴りはじめる。ダグラスは手元の装置を見た。
「生命反応、合計五つ。……
驚いたダグラスは、しかしすぐ嫌味な薄笑いへと変わる。ゆっくりと後ずさった彼は、右壁のレバーを思いきりさげた。それは殺菌用の紫外線ライトを光らせるレバー。
青紫に満たされた船内。
だがクロエの肌には、数字の
「……クロエ。なにこれ?」
ダグラスは言い放った。
「こいつは人間じゃねえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます