第3話 真と偽

「僕には彼女がいる」

そお思ってリンカからの連絡を真に受けず、偽りだと思い気持ちを抑えるカナタ。


交際1年の彼女がいた。


しかし、彼女に対し、愛情はなかった。


別れを切り出すも、彼女の涙に情が芽生え、別れきれず中途半端な関係が続いていた。


愛情がなくなった理由は、彼女の考え方、価値観の相違、極めつけだったのはあの出来事だった。


今から1か月前


カナタの基に一本の電話がかかってくる。

向こうの声の主は、警察官だった。


突然の電話に困惑しながら、話を聞く。こぼれる涙。

理解が追い付かない。


”父親の死”がカナタの耳に入った。

カナタの父は彼が8歳の時、とある事件を起こし家族と疎遠になっていた。


事件の内容は知らないが、ろくでもないと母から聞いていたカナタは、そんな男になりたくない。

父のような生き方をしない!と心に誓い今まで生きてきた。


その流した涙には、いつか父に会って親よりも立派に生きていることを見せれなくなった悔しさと、幼いころの気持ちが蘇ってしまったのかもしれない。


そんなことがあって、心に傷を負たカナタに、彼女のわがままで会うことになる。


その時、主観的に自分の話しかしない彼女に苛立ちを募らせながら無関心に聞くカナタ。

その行動に不安を持ち、何があったか聞き出そうとする彼女に、父が亡くなったことを告げるが、

彼女の取った行動は、カナタの話を聞き流し、自分に対しての態度が不満とぶちまけ続ける。


そんな彼女に対し、あきれたカナタは怒りをそっと飲み込み彼女の不満が覚めるまで話を聞き続けた。


「ごめん。」カナタが発した言葉は、空気と心を冷たくしていった。


それが一か月前にあり、彼女への完全に愛情はなくなっていた。


擬似交際の彼女に連絡を返す。

吸っているタバコがやけに苦く感じた。


深夜3時、仕事を済ませ眠りにつくまで、リンカとの連絡は続いていた。


それから毎日のように、連絡を交わし自分の意志に逆らいきれず店に向かうカナタ


潤んだ瞳で見つめるリンカ。店の名前のごとく澄んでいた。


理性が飛び、2人だけの世界、温かく和んだ空間、異性といて幸せだと久しくカナタは思っていた。


不意にリンカに「もしあの時、キスしてたら怒った?」と聞くカナタ


静かになる、空気


「ごめん。」誤るカナタに潤んだ唇が重なる。


一瞬だが、時間が止まったような感覚。


この時、偽りの愛が真実に、交際という形のない表現が偽りに変わった。


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口移しのケムリ AUGA(オーガ) @AUGA

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