第22話 1944年11月26日 茨城 神ノ池基地
鷲津は上司である三木と共に、ジープの後部座席ででこぼこ道に揺られながら茨城県神ノ池基地に向かっていた。
助手席に座っているのは海軍航空本部所属の田中淳一郎大尉である。
後部座席の二人は思いに耽るように外を眺めている。ジープの
海軍航空本部から桜花の製造状況、今後の配置に関する概要説明を基地部隊の幹部に行い、同時に三木らの技術陣を呼んで現行の桜花の最終性能の説明を行うと共に今後の性能への希望を聴取してもらう、というのが今回の打ち合わせの趣旨である。数日前桜花にロケットを積載し増速飛行をすることに長野飛曹長が成功した後、海軍幹部は比島進出を目指して部隊を四個に再編した。五十の桜花が既に製造を終え、比島への搬出を待っている。
百里原基地から神ノ池に移動して間もない頃で、三木も鷲津も新しい基地を訪れるのは初めてであった。
基地が近づくに従ってバックミラーに映る田中大尉の顔が次第に曇っていくのに気づいた鷲津が、
「田中さん、どうかしたのですか?なんだか浮かない顔をしているけど」
と尋ねた。
「いやぁ・・・」
田中は何かを振り払うように軽く手を動かすと後部座席を振り返った。、
「野中さんにつかまるかと思うとねぇ」
そう呟くと半笑いのような表情で
「本当は藤田少佐が来られるはずだったんですけど・・・。まんまと逃げられてしまいました」
と愚痴をこぼした。
「野中さんって、七一一の隊長の?」
付属陸攻隊が七一一空の名称を正式に与えられ独立したのは十日ほど前であるが、その隊長が「大人物」だという事は三木や鷲津にも聞こえてきていた。もっとも「大人物」がどんな意味なのかはよく知らない。
「そうです。あの人、無茶を言うんですよね。私になんか言っても無駄なのに」
「そうですか?技術的なことなら話を私たちも聞いた方が良いですかね」
三木がまじめな口調で答えると田中は頭を掻いた。
「いやまあ、そうなんでしょうけどねぇ。聞いて何とかしていただけるなら・・・」
田中が歯切れの悪い口調で答えているうちに、基地の門が見えてきた。その門の右側にある「七二一海軍航空隊」の門札はいいとして、左側に「海軍神雷部隊」と看板が掛けられているだけでも奇妙なのに、奥には黒々と筆跡も鮮やかに「南無八幡大菩薩」と書かれた旗と紫の幟が靡いている。その幟の向こう側から、どんどん、と太鼓の音が響いてきた。まるで祭りと見間違うばかりである。
「なんですか、あれは?」
三木が旗を指した。
「野中一家の旗印ですよ。ご存じありませんでしたか?」
苦々し気な顔で田中は答えた。
「司令も・・・あんなの許しておくのどうかと思うんですけどね。戦国時代じゃあるまいし」
田中の話では、野中の率いる隊は台湾を始めとして各地から、経歴を問わず集めてきているにも関わらず、入って一週間も経たないうちに野中の部隊だと分かるようになる。元から野中の配下にいる陸攻の搭乗員のみならず、新たに配属された搭乗員たちも、「まるでペンキの中にぶち込んだ木っ端」のように同じ色に染まりだすという。
不思議なことに互いに仲がいい。兵学校、予備、兵科に関わらず他で必ず起こる仲間内でのいざこざはない。その上、妙に活気がある。
「どうせ、俺たちは死ぬんだからねぇ」
と朗らかに言われると調子が狂うんです、と田中は言った。
どうせ、死ぬというのは桜花隊の言葉としてなら理解できるが陸攻隊の言葉としてはどうか、と別の部隊の佐官が注文を付けに行ったが、
「おれたちゃあ、そんな気持ちでやるんでっさ」
と野中に凄い目で睨まれすごすごと引き上げたという話もある。
そして荒っぽい。「入湯上陸」と言われる正規外出、或いは「ダツ」と呼ばれる無断上陸・・・上陸と言っても海軍用語で実際は基地から足で出ていくのだけなのだが・・・で、飲みに出た街で軍人相手に喧嘩はしょっちゅう。
「で、必ず相手に勝つんですよ」
と田中はまるでそれが悪い事であるかのように零した。
今では野中の部隊が来ると聞くと他の兵隊は飲み屋から退散するそうだ。だがそんな荒っぽい連中も野中の一喝で大人しくなるのだという。
「どう考えてもやくざまがいでしょ?で、野中一家と言うんですよ」
やくざの屯しているところに乗り込んでいくのか、と気分が滅入り始めた三木と鷲津を乗せたジープはのろのろと門をくぐると建物の方へと向かっていった。
会議の最中、野中はじっと腕を組んだまま視線を落としたままだった。初めて見た顔ではないが、今まで話したことはない。鷲津は興味深げに野中の方をちらちらとみるのだが、野中は組んだ腕を戻すこともなく、ただひたすら下を向いて黙っていた。説明を主に行う田中は慣れた口調で、桜花の生産が順調であること、配備はまずフィリピンが考えられており捷号作戦に基づく防衛ラインの死守が目的になることなどを説明した。岡村を始めとする幹部は航空本部が桜花に資材を集中するとするという方針を満足げに聞いていた。
最初の注文数は二百。それだけあればすぐにでも前線に送り出せるぞ、そう幹部たちは囁きあっていた。そんな雰囲気の中でも、野中だけは腕を組んだまま目を瞑って微動だにしない。
桜花の生産が順調なのは何も生産力があがっているという訳ではない。
特攻兵器である桜花は使い回さねばならない戦闘機などとは違って構造が簡易である。本来なら金属であるべき部分も木製で代用可能で、構造が面倒な脚も不要だ。翼が木製だとレーダーに引っかかりにくいと主張されてもいるが、それは強がりで一式陸攻にぶら下げられている限り桜花自体が木製でも金属製でもあまり関係ない。
ロケットを使うため一部どうしても貴重なジュラルミンを使う部分があるが、それとて航空機に比べれば僅かなものである。飛行機を作るよりも貴重な資材が省けるのであり、それが、海軍が桜花に期待を寄せる一因でもあった。
「桜花を射出した陸攻が基地に戻ることによってこの戦術は永遠に回していけるわけでして・・・」
と田中が言った時、野中が不意に目を開けて田中を睨んだのに鷲津は気付いたが、背を向けていた田中は気づかなかったようである。
だが打ち合わせの間中、一言も口を挟まなかった野中は、会議が終わって出ていこうとした田中に
「田中。ちょっと、来い」
と引き留めた。ぐぇ、というような声を上げ、三木と鷲津を絶望したような眼で見た田中は
「待っていてください。ほんのちょっとです。帰っちゃだめですよ」
そういうと田中大尉は叱られた犬のようにとぼとぼと野中の後ろをついていった。三木と鷲津は目を合わせにやりと笑うと、建物の外に出た。
三木はマッチを擦ると煙草に火をつけた。煙草も今や貴重品である。
秋の日が国旗の長い影を作っている。空には訓練の最中なのか陸攻の機影が空に舞い上がっていくのが見えた。爆撃機が飛んでいるというのにそれは妙にのどかで平和な風景に二人の目には映った
二人を乗せていくジープはとっくに準備ができていて、あとは田中が戻るのを待つだけだったが、「ちょっと」と言い合った割にいつまでたっても田中は出てこない。二十分ほど辛抱したがとうとう我慢できなくなって二人がもう一度建物に戻るとさきほど会議を開いていた部屋から、怒声が聞こえてきた。野中の声だった。
「それが机上の計算っつうんだよ。いくら桜花なんぞ作ったってそれを乗っける陸攻は確実に消耗する。俺が保証してやらぁ。お偉方を前にして嘘八百を並べ立てるんじゃねぇ」
「そんなこと、保証されても困りますよ。だって・・・陸攻の帰投がこの戦術の前提かつ肝なんですから」
田中がぼそぼそと答えると、覆いかぶせるように野中の怒鳴り声が響いてきた。
「お前、ばかか?じゃあ、一度零戦を使って模擬戦をしてみりゃあいい。陸攻が無事でいられるかどうかすぐ分かる。だいたいなあ、お前らのいい加減な説明のせいで陸攻隊と桜花隊の間にも、しこりができちまったんだ。桜花隊は必死、陸攻隊は決死とか言いやがってまとまりゃしねぇ。どっちも必死だってはっきりしやがれ」
「勘弁してくださいよ。それにだいたい野中さんの言うことを認めちゃったら、陸攻の方の意気だって消沈しちゃうでしょ」
「消沈するかもしれねぇが、覚悟なしに死なすよりはずっといい。俺は死なすつもりがないとは言っていないんだ。どうせ死ぬなら、きちんと説明してちゃんと戦果を出させてやりてぇんだよ。戦果なんぞ期待できずねぇのに必死だの決死だの・・・」
野中は突然、言葉を探すように宙を睨んだ。
「必死だ、決死だとか、こっちが死ぬことが目的じゃあねぇだろ。必中必殺のものをもってきやがれ」
「そんなことを私に言われても・・・困りますよ」
田中の声は泣き声に近かった。
「聞けよ。あの陸攻で桜花を乗っけて、敵の艦隊に近づこうとするだろう。何が起こる?」
「・・・」
「まず間違いなく敵の艦隊に近づく前に電探に引っかかる。艦隊の遥か手前で邀撃される。こっちの掩護が相手にしたとして、次に何が起こる?」
「・・・」
真ん丸に見開かれた田中の目は許してくださいよと言うように野中を見つめている。
「掩護で逃げ切れたとしても次の邀撃機が丸裸にされた陸攻に向かってやってくるんだ。絶対に間に合わないんだよ。そしたら何が起こる?答えて見ろ」
「勘弁してくださいよ」
田中は手を合わせるような仕草をしたが、野中の激しい口調は止まらなかった。
「陸攻は桜花を放さざるを得ない。もしかしたら桜花はうまく水上に着水できるかもしれん。それが目的ならな、結構だ。水遊びだって考えりゃなあ。いずれ敵さんが助けてくれるかもしれん。
だがなぁ、捕虜になるのは許されんから次は火遊びだ。あいつらは爆死するしかねぇんだよ。その上陸攻もだめだ。ありゃあ戦闘機じゃねぇ。例え桜花を切り離したとしても、そこから戦闘機とまともにわたりあえねぇんだ。喰われちまう事は必定だ。親子そろって死ぬしかねぇ。それが現実だ」
「・・・・・」
自分の剣幕の前で言葉を失っている男を野中は睨みつけた。
「お前が分からねぇって言うんならこいつを進言した隊付の大田っていうのを連れてこい。自分が桜花に乗るって言ったんだろう。乗ってみて貰おうじゃないか。そいつ本人に撤回させればいいんだ」
「無理ですよ。大田少尉は、あ、いや中尉になったんだっけな、まだ飛行検査に受かっていないんです。多分視力のせいじゃないかな。こちらに来ることにはなっていますが、操縦させるわけにはいかないんですよ」
か細い声で田中は抗ったが、たちまち野中の怒鳴り声の前に抵抗は掻き消された。
「何をたわけたことを言っているんだ。特攻だぞ。視力も何も関係ねぇ。根性さえあれば行けるんだ。そいつの根性を見せてもらおうじゃないか」
「・・・」
暫く沈黙があった。三木が部屋の扉をこつこつと叩いてから開けた。振り向いた田中の顔がほっとしたように緩んだ。
「三木さん・・・」
「そろそろ出発しないと日暮れまでに東京に着きませんよ」
穏やかにそう言ってから三木は野中を見た。
「桜花はまずいですか?」
野中は仏頂面をしたまま、
「桜花そのものの話じゃねぇ。最初はちゃちいと思ったし、隊員の中にはこれが俺の棺桶か、せめて零戦にしたかったと泣いている奴もいたが、意外と合理的にできている。だが、一式陸攻での運用は無理だ。やるより先にこっちが確実に喰われちまう」
「重すぎますか・・・」
「所詮、一式に乗せるのが無理なんだよ。敵さんは科学的に攻めてくる。こっちはいざとなると、根性にすがるだけだ。理屈も何もなくて根性だけじゃ勝てねぇんだよ」
「そうですか・・・」
ならば会議の時に言えばいいのに、と鷲津は思ったがいくら傍若無人な野中とは言え、さすがに幹部の揃った席では言い出しにくかったのだろう、と思い直した。桜花の比島進出は既に決まっている。陸攻隊長が公式の会議で否定的なことを言ってしまえば何が起こるかわからない。
「三木さん、銀河ではどうですか?」
鷲津が三木を振り向いた。銀河は一式陸攻の後継として山名と三木が設計した陸上爆撃機で、ほぼ一式陸攻と同じ航続距離を持っているが速度は遥かに出る。ほぼ零戦と同じ速度である。急降下爆撃も雷撃も可能で、航空廠としては自慢の一機である。いざとなったら対等とまでは言えぬが十分戦闘機相手でも渡り合えるし、逃げ切ることもできるであろう。
「設計の前段階で検討したけど、車輪の幅が狭くてね。桜花が収まらないんだよ」
三木の答えに
「ですけど、一式では重すぎて行きつけないっていうくらいなら炸薬の量を減らしてでも銀河で行きつける方がずっといいじゃないですか。零戦の特攻だって二十五番でしょう?それで十分打撃を与えているみたいだし」
鷲津は反駁した。それまで机上で計算した結果として五十番では無理としていたが、現実に航空特攻では二十五番、つまり二百五十キロの爆薬で、改造型とは言え空母を沈めているのだ。
「そりゃあ、そうかもしれないね」
三木は細めた眼を宙に彷徨わせた。その姿を見て鷲津は畳みかけるように言った。
「桜花を搭載しても、速度は五百キロまではだせると思いますよ。零戦でも二十五番を積めるんですから、銀河なら五十番は確実に行ける」
「お、若けいの。話が分かるじゃねぇか。話っていうのはそうでなけりゃねぇ。いつまでも堂々巡りしてちっとも先に進まねぇ話って言うのはつまんないねぇ。五十番じゃ空母相手に足りねぇと言えば足りねぇんだが、子豚さんをぶら下げていくよりよっぽどましだ。いざとなりゃ、二基当てることを考えればいい」
そう言いながら田中大尉をじろっと睨んだ野中の仏頂面が僅かに綻んだ。
「航空本部の馬鹿どもと話をしていてもちっともはかばかしくねぇ。役人根性がしみ込んでいやがる。上のいう事を聞くしか能がねえんだよ」
能なしと
「そんなこと請け合って大丈夫なんですかね?」
三木と鷲津を睨みつけるようにしたが三木は穏やかに答えた。
「僕らは要求された諸元によって設計しますからね。その意味じゃ僕らは確かに役人根性丸出しなんですよ。百二十番を積むように作ってくれと言われたら銀河じゃ無理ですと答えざるを得ない。でも、五十番で良いというなら再検討できますよ。田中さんに上に提案して貰っていけそうだというなら検討しましょう」
「ならば、ロケットも再検討しませんか?」
鷲津が口を挟んだ。
「おいおい、そう簡単に言うな」
三木は鷲津を軽く睨んだが、鷲津は構わずに話し続けた。
「でもタービンにすれば燃料の心配も少なくなるし、アウトレンジも可能かもしれない」
アウトレンジとは敵の攻撃距離範囲内に入らずに攻撃を仕掛けることである。一定の距離桜花による操縦が可能ならば、邀撃機に見つかる前に桜花を発射することが出来る。桜花の速度は一一型でも六百キロを超える速度を出しえるのだから、発射されてしまえば敵機を振り切ることは可能だ。結局射出の時の距離がものをいう。
「今のは聞かなかったことにしてください」
三木は真顔で野中と田中を見つめ、言った。
「技術的に確立できていないんです。使えるとしても相当先のことになる。できる限りのことをしますが、ロケットやエンジンは確立した技術じゃないと」
野中はにやにやしながら、議論をする二人を見ていた。
「ええねぇ。そうやってきちんと本音で話ができるのが海軍のええ所だ。ええです、最後の話は聞かなかったことにしやしょう」
野中の言葉に
「どっちにしてもすぐという訳には行きませんよ。許可が下りるかわからないし、許可が下りても設計にしばらくかかる。当面は今のままで行くしかない」
と三木は防御線を張った。
「すりゃ、かまわねえ。今すぐ出ろといわれりゃ覚悟はできている。俺も立派に死にますよ。逃げはうたねぇ」
三木が怪訝な顔をした。田中にさんざん文句をいっていたのも母機を守るためではないのか?それなのに、死にますとは?皆の視線に野中は
「先生にも分かっちゃもらえないだろうがね、この作戦は仲間に死ねって言って放り出すやり方だ。そんなこと出来っかよ。少なくとも俺にはできねぇ。だから出撃命令が降りれば俺は死にますよ。どうせ、どうやっても一式じゃあ逃げ切れやしねぇんだから、ね。だが俺に続く者たちがどう考えるかは分からねぇ。続く者たちにせめて生きて戻って来れるようにはしてやりてぇんだ」
そう言うと、野中は暫し言葉を探すように宙を見た。
「本当のことを言うと今のままなら体を張ってでも止めてぇ。こいつぁ、いまのまんまじゃ使い物にならないんだ。俺のことはともかくねぇ・・・搭乗員は無駄死にでさぁ」
漸く解放されて車中の人となった三人は、がたごとと揺れる車の中で暫く黙り込んでいたがやがて田中がぽつんと小さな声で三木に尋ねた。
「先生、大丈夫ですかね」
「うん、理論上検討は十分可能です」
「では、上に掛け合ってみます。もしできるなら、先生、お願いしますよ」
「わかりました」
「田中さん、ずいぶんと野中さんにひどいこと言われていたのに・・・優しいですね」
今度は助手席に座った鷲津がからかうように振り返って笑いかけると、田中の頬がぱっと赤く染まった。
「鷲津さん。僕は・・・体をね、悪くしていて、今は戦地に赴くことはできない。だからですからかねぇ、野中さんたちを見ているとひどく切なくなる。文句は散々いうけどそれだけ真剣に命を張っているんですよ、本当に。だからあの人たち、放っておくことができないんですよ。だって・・・僕の代わりに死ぬかもしれないっていう事ですからね」
「そうですか」
三木が穏やかに相槌を打った。
「じゃなきゃ、付き合いませんよ、あの人となんか」
胸糞悪いとでも言いたげに田中は唇を突き出した。
「意外ですね。田中さんはてっきり野中さんの事を嫌っていると思った」
鷲津が笑った。
「好きかってきかれりゃ、好きじゃないですよ。できる限り会わないようにしているんですよ、これでも」
田中はむくれたまま。唇を突き出した。
「僕の伯父にもあんな人が一人いましてね。口数も手数も人の倍以上なんですよ。僕はどちらかというと物事を荒立てたくない方だし、だからはっきり言って嫌いですよ。でも・・・」
「でも・・・?」
問い返した三木に困ったような顔で田中は首を振った。
「あの人は正直なんですよ。今どき、正直なことをはっきり言える人はなかなかいないですよ」
そう言ったきり、田中は遠くの空を眺めるように目を転じた。秋の陽が、低く山の端を掠めるようにのろのろと西の空に沈んでいくところだった。
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