第18話 1944年10月25日 フィリピン ストッツェンベルグ


海軍一・二航艦所属の飛行隊長以上の者たちがストッツェンベルグにある空七六の士官室に集められ、一航艦と二航艦が統合し、そのすべての者が特攻を行うと大西から告げられたのはその十日前である。

それまで福留から特攻はしないと聞かされてきた二航艦の者たちは、大西の激越な演説に疑いの目を向け、横で聞いていながら何も言わない福留に不信を抱いた。その様子を察したのか、大西は演説の最後に

「反対の者がいれば言え、俺が斬る」

と言って話を終えた。

二航艦が栗田艦隊からの掩護要請を無視し、天候不順の季節とは言え索敵に再三失敗した挙句、会敵すればしたでグラマンの邀撃ようげきに多くの機体を失ったのは事実である。

それに反して、一航艦の特攻が成果を上げたのも事実だった。

だが、二航艦はあくまで台湾の部隊であり福留の配下である。フィリピンには応援でやってきたのであって、死に場所を求めてやってきたのではない。瀕死の状況の中で乾坤一擲けんこんいってきの方策に活路を見出さざるを得なかった一航艦隊員と気持ちにずれがあったことは想像に難くない。

大西が一航艦、二航艦を廃し第一連合基地航空部隊とすると言った時点で二航艦に属するパイロットたちの運命は決まった。

一航艦による最初の特攻が成果を見せたことが彼らの不運であった。

そうなる前に自分たちが特攻以上の成果を上げられなかったのが彼らの不幸の源であった。

そしてそれ以降、終戦に至るまで持つ限りの飛行機を使うようにして、二航艦のみならず日本の残る多くの航空機の操縦士たちは多かれ少なかれ特攻の渦に巻き込まれていくことになるのである。


だが、大西はその中でただ一つの例外を作った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る