第13話  1944年11月4日 フィリピン マニラ


「山本っ」

隣の部屋からかんの強い怒鳴り声が響き渡った。聞くなり山本大尉は、続き部屋で軍靴ぐんかを綺麗に鳴らし、最近東京から赴任してきた司令官の前に立つと敬礼をした。

マニラ市内の外人住宅を接収し、そのまま使っている司令部の建物は良く音が通る。そんな怒鳴り声を上げなくても聞こえると、毎度内心うんざりするが、そんな感情は一切面には出さない。軍靴を強く鳴らすのは当てつけがわりだが、目の前の男はそれを自分への忠誠の証とでも思っているようである。

相手はつい七月まで陸軍次官として東京で大手を振っていた大物司令官なので丁重な対応を欠かすことはできない。しかし山本大尉は目の前にふんぞり返っている小柄な司令官をどうしても好きになれなかった。

好きでないからこそ、心を閉ざして命令を聞かねばならない、そう山本は考えている。そんな山本の心情などお構いなしに司令官はぎょろりとした目で椅子から山本を見上げた。

「ようやくBの奴らが頭を下げてきおった」

「は」

この司令官はトンボかカマキリのような目をしている、唐突に山本はそう思った。ぐりぐりとその動く様子はまるで獲物を求めている捕食昆虫の眼だ。この目のせいで俺はこの男を好きになれぬのかもしれない。は、と答えた時に下に疑問符をつけないように声を抑制したのだが、ふんぞり返って山本を見上げている男の口調はどこか苛立いらだっていた。

「は、じゃない。何をうつけのような顔をしておる?我らも特攻に参加するのだ。向こうが頼んで来るまで我慢しておったが、Bばかりにでかい顔をされてたまるか。はやぶさは零戦に劣らん。であろうがっ?」

「その通りであります」

そう答えつつ、山本は唾を呑んだ。先ほど一航艦の新しい司令官が来たのはその事を話し合うためだったのか?

以前に海軍の寺岡第一航艦前司令とわが方の間で航空兵力の協力に関する取り決めがなされていたことは承知していた。大海指四百三十五号中央協定に基づく、現地での詳細協力についてである。その取り決めによって海軍一航艦、陸軍第四航空軍は決戦の際、比島、北オーストラリア、中部太平洋で主軸として協力することが求められている。

だがあれは特攻が始まる前の話だ。あの慎重すぎるくらい慎重な寺岡中将が特攻を前提におくとは思えない。航空兵力の協力と言っても、前提としていないものの協力までする必要はないだろう。

確かにこの基地にも特攻を前提とした隊が日本からやって来ている。しかしそれは陸軍の指揮下で必然と判断した時にのみ使う隠し玉だと聞いていた。それと共にその攻撃は上奏に達しておらず、いつ使うことができるのか知れぬという話で、海軍の特攻が始まっても動かなかった。

だが目の前の司令官は特攻を始めると言ったばかりでなく、隼の名を挙げた。来比している陸軍特攻部隊は爆撃機のみである。という事は戦闘機まで特攻に巻き込むつもりなのだろうか?

立ち尽くした山本を見て、富永恭次とみながきょうじ元陸軍次官、現第四航空軍司令官はにやりとした。

「お前は知らんかもしれんが・・・もともと特攻は陸軍が進めていたのだぞ。東條閣下、後宮うしろく大将のもとでな。わしが次官をしている時には決まっていたのだ、それをあいつら・・・勝手に先駆けしよって」

笑いをいきなり憎々し気な表情に変えると富永はどんと机を叩いた。


さかのぼること半年前、その年の三月、陸軍航空関係の上層部の大幅な入れ替えが行われ、航空総監兼本部長に後宮淳、航空本部長に菅原道大すがわらみちおおが着任した。同時に、第三航空技術研究所長正木博少将に特攻兵器の開発が命じられた。


第二次世界大戦開戦前に陸軍が戦っていた相手は中国であり、開戦後戦線を拡大してきた相手も基本的にアジア諸国である。仏領インドシナ、英領ビルマなど欧州植民地にしても所詮相手は本隊ではないし、各国とも欧州戦線でドイツを相手に手を焼いていたためにアジアまで面倒を見切れない。

中国・アジアが相手なら勝てると陸軍は踏んだ。警戒すべきは陸続きのソ連であり、ソ連さえ参戦させなければ良いのだ、と勝手に単純化して考えるようになる。

だが陸軍の大陸における軍事行動はアメリカや英国、オーストラリアなどを刺激した。日露戦・第一次大戦を勝ったことで日本は新たな脅威と彼らの眼には映っていた。それだけではない。第一次大戦までは国際社会は帝国主義の論理で動いていたが、戦後にはそれとは別の価値観が生まれたのである。他の国の領土に触れさえしなければ切り取り放題、争う相手は同じ獲物を偉っている他国のみ、というロジックは新たな国際協調の枠組みの中で、慣性的に残っていたが、それだけでは動かなくなっているという事を日本は見逃していた。だからアメリカの関与は横槍にしか見えず、横槍である以上なんとかなると考えた。だが、現実はそうはならなかった。

アジア諸国と違って戦力にけたそれらの国を相手にするのはもっぱら海軍である。欧米の視察の機会も多く、その実力を熟知していた海軍は開戦を渋ったが、アジア地域への侵攻によってもっぱら利益を得た陸軍は戦争に前のめりになって行った。

背景にアジアの欧米による支配への対抗と言う建前もあった。事実、ロシア、ドイツを排した日本は、アジアの一部の人たちの眼には欧米のくびきからの解放者と映ったこともある。一部世論や政党は欧米の横暴を糾弾しアジア解放を掲げ戦争を支持し、マスコミも海軍の弱腰を詰った。しかし、その頃は既にアジア諸国でも日本は解放者ではなく、欧米に次ぐ新たな支配者ではないかと考えられ始めていたのである。

海軍は次第に陸軍と世論に圧されていく。海軍の中でも意志の弱い者たちが上層部に据えられ非戦論者が左遷させんされると、海軍も日独伊三国同盟の締結への賛成・日米開戦にかじを切っていく。

日米開戦を決定的にしたのは仏印進駐である。

1940年の北部仏印進駐を連合国は日本の野心が中国に留まらない顕れと理解し、航空機燃料を始めとした物資の輸出を禁止し駐留を止めるように警告を与えた。

だが連合国の警告にもかかわらず、翌年七月「情勢ノ推移ニ伴フ帝国国策要綱」が裁可され、日本軍の南部仏印への侵攻が始まった。

禁輸された資源の確保を理由に更に南下を始めた日本の姿勢は、アメリカ・イギリスをはじめとする連合国の眼に国際社会に対するあからさまな挑戦と映った。直ちに石油・鉄を始めとした全面禁輸と日本国外の資産凍結が実施された。

軍首脳は、仏印進駐が米国を刺激しないだろうとの希望的観測が誤りであったことを悟らざるを得なかった。最後の一線というものは、往々にしてそれに気付くことなく越えてしまうものである。

海軍の非戦論者は前線に送られたり左遷されたりしたが、その一部は早期終戦論者としてしぶとく生き残った。三国同盟に強く反対した当時の海軍次官山本五十六は海軍甲事件で戦死したが、海軍大臣米内光政や軍務局長井上茂美の二人は後にそれぞれ総理大臣兼海軍大臣、海軍次官として中央に返り咲くことになる。


昭和十九年三月は陸軍と海軍の力関係における端境期であった。軍の力関係は天皇がどちらの意見を重要視するかという事で定まっていた。

首相はまだ東條英機である。海軍大臣は海軍内において東條英機の男妾おとこめかけと密かにののしられていた嶋田繁太郎であった。嶋田は一月前に永野元帥ながのげんすい更迭こうてつ、軍令部総長を兼務し、政務と統率を一本化した。陸軍もまたしかり、参謀総長杉山元帥は職を追われ東條が兼任をすることになる。

軍政と軍令の一本化がなされると再び一元化問題が浮上した。国難にあたって陸海の意見が統一されないのは望ましくないので一体化を図るという、聞こえはいいが事実上の陸軍による海軍支配案である。

軍政、軍令一本化では飽き足らず、東條は全てを自分の管理下に置くことを目論もくろんだ。といっても権力欲のみでそうしたわけでなく、東條は戦争遂行にその体制が必要だと本気で信じていた。しかし世の中には本気で信じていることの方が往々にしてたちが悪いことがある。

更にこの頃になると連合軍の物資遮断の効果で軍備資材の不足の影響があらわになってきた。在庫が払底したのである。とりわけ、陸軍・空軍共に使用する航空機の資材、特にボーキサイトの不足は顕著となり、資材の取り合いが両軍の間で激しくなったことも軍一元化を正当化する理由の一つとされた。

陸海が統一されれば軍同士が資材を取り合うような事態も解消できるに違いあるまい。別々に存在するから要求が過度になる。

陸海双方から資材を要求される軍需省でもそう考えるものが少なくなかった。しかし、取り合いが不足を生じさせたのではない。不足が取り合いを生じさせているのである。絶対的な不足が根本問題であるにも拘わらず、問題の巧妙なすり替えが行なわれた。


陸軍はまず航空隊に手を突っ込もうとした。

海洋国である日本において航空戦力は基本的に海軍と馴染む。だが中国の占領を念頭に置けば陸軍にも航空機を要求する十分な理由がある。更に仮想敵国としてソ連を擬し、場合によっては陸伝りくづたいで欧州の戦線でソ連と対峙たいじするドイツを助けるという事まで考えれば陸軍が重爆・軽爆を保有する十分な理由になっていたのであった。陸軍はソ連を敵対関係に陥ることを望んではいなかったが、常に仮想敵とみなして軍備の要求にあたってはそれを基礎とした。

爆撃機を保持すれば当然、戦闘機・偵察機も必要となり、陸海はそれぞれ独自の航空軍を保有していた。

東條は陸軍による特攻兵器の開発にゴーをかけた。本来特攻とは敵艦戦に対し航空ないし洋上からの攻撃が主体である。陸軍は陸上基地・軍事施設・あるいは政府施設の爆撃を主な任務とする。特攻をするとしたら、それは海軍の領域であり、陸軍の領域ではない。それにも拘わらず、陸軍は先に特攻兵器の開発を仕掛けた。海軍に対する挑発であり、国を守るために特攻を陸軍がやることによって主導権を奪おうという魂胆こんたんがそこに見え隠れする。


元来、陸戦には特攻に近い要素がある。歩兵に突撃を命じる時、それは必ずしも死を命令するわけではないが航空機や戦車のようなよろいを纏わずに戦う歩兵は、より死を身近に感じざるを得ない。それでも迫撃砲などの後方からの支援があるのが常だが、東南アジアで補給線を伸ばしすぎた陸軍はいつしか、歩兵が生身で戦うことを求め始めていた。生身で戦車の下に手榴弾を投げ込むことはほぼ自死を前提としている。

陸軍の主力である地上部隊では決死と必死の線が海軍より曖昧になっていったのは想像にかたくない。

だが、陸軍の首脳が考えたほど事はスムースに進まなかった。陸軍では傍流である航空部門は陸軍首脳の特攻に反対したのである。

1944年3月、特攻に異論を唱え続けた航空総監兼航空本部長の安田武雄は解任され後宮淳がその任についた。航空畑を歩いてきた菅原道大がそれを補佐する新体制は、一挙に特攻兵器の開発へと舵を切るためであった。

だが後宮、菅原のラインをもってしても陸軍航空本部に特攻兵器の開発をなさしめるには壁が厚かった。

安田の特攻異論は個人的なものではなく航空本部の意見そのものだったのである。兵と機材の消耗を前提とした特攻を唱える陸軍上層部の考えは彼らの誇りを傷つけていた。そもそも後宮はともかく総監部次長についた菅原でさえ、特攻に疑問を持っていたのである。ただ菅原は意思の強い男ではなかった。明確に特攻に反対することもなければ、敗戦時に責任を取ることもなかった。


特攻については陸軍と海軍、将官と兵、東京と現場という形で明白に賛否が分かれていたわけではなく、入り乱れていたというのが実情である。その中で陸軍の航空本部は特攻に対して比較的はっきりと異論を唱えていた。

だが、本来特攻に否定的な素地を持つ海軍では、逆に魚雷部隊や航空部門を中心に現場サイドで特攻主張する者が多かった。その殆どはミッドウェイ以来前線で彼我の戦力の差を思い知らされた者たちである。陸軍が特攻を唱え始めれば、そうした海軍軍人たちの中には共鳴する要素が多分にあることも現実である。陸軍首脳はそうした海軍の一部を取り込むことが一元化に資すると考えた。

そうした微妙なバランスの中、サイパン島を六月に失った嶋田繁太郎は軍令部総長として翌七月の八日に「用法事項に関して」の允裁を仰いでいる。その五項に「各種奇襲兵器」に関する訓練研究要員養成機構を編成するという項目があり、それは海軍における特攻兵器の開発と人員養成を容認する根拠となったのであった。


大西は軍需局にあってそうした動きを察知していた。だが、当時の大西は特攻に前のめりになっていたわけではない。海軍が巨艦主義を捨てずに固陋ころうな考えに執着するのを苦々しくは思っていたが、さりとて陸軍の下に入る考えは毛頭ない。

陸軍と、それに引きずられる嶋田に対する重臣や海軍穏健派による巻き返しも次第に激しくなっていった。とりわけ海軍穏健派の反発は「穏健」と言う言葉が不適当なほど激越であった。

結局、東條は海軍を取り込むことに失敗し、絶対国防圏を突破されたという理由をもって七月に退陣することになる。

それに代わって小磯・米内の連立内閣が成立したが、特攻というとげは刺さったままだった。海軍における特攻兵器の開発は黒島亀人少将が陣頭に立っていた。嶋田によってゴーがかかり、現場では有馬少佐のように佐官さえも特攻と等しい攻撃に身を投じかけつつある。

厄介なのは海軍においては特攻が現場における窮余の策としてボトムアップで上がってくる側面があったからだ。軍令部にも黒島を始め特攻を主張する者たちが多く潜んでいる。流れに棹させば、海軍内の意思不統一が生じ、再び陸軍からの策動による一元化問題の再燃に繋がりかねない、海軍大臣として米内はそう考えざるを得なかった。


東條の退陣にもかかわらず、陸軍でも特攻の構想は続いていた。

できたばかりの航空総監部から特別攻撃隊の編成の命が下り、陸軍航空の首脳たちの抵抗は圧し潰された。鉾田では九九双軽による万朶隊ばんだたい、浜松では四式重爆による富嶽隊ふかくたいが編成され、前線に送られることになった。

その命を受けフィリピンにやってきた彼らは今、富永の配下にある。陸軍の特攻機は海軍のように前線で爆装をしたのではなく、日本を飛び立った時にその機体は周到にも爆弾を投下することはできぬよう固定され、艦船に飛び込んだ時に信管が起動するように改造が施されていたのである。陸軍航空隊において特攻に志願した者たちでさえその機体を見て粛然とうなだれた。

だが緻密に準備された割にはその出発は遅れた。特攻部隊を編成することについて天皇の允裁を受けるかどうかで陸軍首脳の意見が割れたのである。結局、允裁を受けぬまま編成された隊が日本を飛び立ったころにはすでに海軍の特攻は始まっていた。


最初の特攻を持ってかれてしまった以上、富永にはこのまま海軍にやらせておけばよいという気持ちがなかったでもない。だが特攻が国民の強烈な称賛を受けていると知ると矢も楯もたまらなくなってきた。

東京からの命令はその二隊をもって随時特攻せよというものであったが、おめおめと海軍の後をついていくのは癪だった。富永は海軍から頭を下げてくるのを待っていたのである。

一方で富永は別の案も持っていた。洋上は本来海軍の役目である。それに加わるのではなく、陸上基地に飛行機を着陸させ、基地と敵の航空機を爆破するという斬込隊を送り込むことである。それならば海軍と違う形の特攻が実現できると考えたわけである。その着想は後に「天号作戦」としてレイテ島の攻防で、実際に発令されることになる。


一体に、錬成された飛行機乗りは海軍であろうと空軍であろうと腕に自信を持っている。

爆弾を抱えて敵艦に突っ込んだり、敵の基地に斬り込みに行ったりなど素人の考えで、自らの操縦の腕で敵を倒すことこそが自分たちの使命であると考えている。とりわけ戦闘機乗りはその傾向が強い

鉾田教導飛行師団の万朶隊、浜松教導飛行師団の富嶽隊は前者が軽爆、後者が重爆機である。爆撃機を使用したのはその性能と共に、爆撃機乗りの方が戦闘機乗りより説得がしやすかったせいかもしれない。そして優秀な操縦士を次々に失い切羽詰まった状態に追い込まれつつあった海軍に比較して、陸軍の特攻隊は温存されてきた陸軍きっての優秀な操縦士で構成されていた。命を受けた者たちは爆撃のエースパイロットであった。

とはいえ、爆撃機乗りたちが従順に命に従っただけかというとそうではない。

特攻を命じられた陸軍航空隊鉾田基地の万朶隊は爆弾が固着された飛行機に乗せられたが秘密裏に固着された爆弾を投下可能な爆弾に改造していた。馬鹿にするな、という気持ちがそこにありありと出ている。

同じ陸軍士官とは言え航空要員は所沢、その他は座間で教育を受け、受ける教育の内容も微妙に異なっている。そのため、地を黙々と這って進むような陸軍本来の思想とどこか異なる自由な雰囲気がある。しかし、前線に出ればその司令官は殆ど地を這うように生きてきた兵を動かしている陸軍将校である、

その上、現場と特攻隊員の意識の差は海軍より遥かに大きかった。海軍の特攻が現場で始まったのに比較して、陸軍のそれは特攻要員が内地から派遣されたためである。

富永のように航空を知らぬものが航空軍司令の地位につき、その前線に立っていることは陸軍航空隊の悲劇を増幅することになった。


「リパに岩本大尉がおる。あれを呼べ。宴を張ってやろうじゃないか」

富永がにんまりとしたのは部下の出撃に際して、心づくしをする上官だとでも思わせたかったのである。富永にはそうした性向があった。岩本益臣いわもとますみ大尉は万朶隊の隊長である。

「ですが、今、九九式を無闇に飛ばすのは危険です。特攻が始まってからは米軍機の哨戒しょうかいも厳しくなっております。九九の速度では見つけられ次第、蜂の巣にされてしまうのでは?」

山本の答えに富永は目を上げ額に青筋を立てると、いきなり机をどんと叩いた。

「岩本は陸士有数の操縦士だろう?そんなわけがあるか。だいたいそんなことを言い出せば特攻そのものが成り立たん。お前らはなにかというとすぐに言い訳をしおる。精神がなっとらん。敵機を見つけたなら自ら屠って飛んで来いと言え」

「は」

山本は敬礼をすると急いで指令室を飛び出した。これ以上司令室に留まってもろくなことはない。山本はそのまままっすぐと電信室に走った。残念ながら富永のいう事にもただ一つの真理らしきものがある、山本は走りながら考えた。

「特攻そのものが成り立たん」

という言葉・・・。

それは軽爆による特攻の先行きを予言するものではないのか?だが電信を打つ時山本は富永の言葉に一言添えた。

「敵情を顧みて飛行が不適と判断した際には車両にて来駕らいがされたし」

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