第8話 1944年9月6日 東京 麹町 米内邸
といっても断酒しているわけではなく、機会があれば
足元の方を何気なく視線を遣ると、月明りの中、蚊遣りの細い
その日、帝国議会は陸海軍の予算増加を審議する秘密会を開いた。答弁で男は心身ともに疲れ切った。ストレスは過度の飲酒のせいでただでさえ肥大した心臓に負荷を与え続けている。そのストレスは議員の鋭い舌鋒に応えなければならないから発するわけではない。学芸会に
昼食後、大蔵大臣、
先に登壇した杉田の演説を聞きながら陸軍は一歩踏み込んだ、と米内は思った。杉山は、政治家のいる場所で軍の指揮について滅多に話すような男ではない。以前、それで米内と喧嘩したことさえあるのだ。だが、
「これら新兵器は皇国独特の必殺戦法を敵に強要致しますものがその主なるものであります・・・これを駆って敵に肉迫攻撃をするものは
と言った彼の言葉をそのまま取れば新兵器が必死の特攻兵器であると感づいても不思議ではない。皇国独特という言い回しは卓越しており、アメリカやイギリスにはとても考えられない攻撃である、ということを暗に示している。
米内自身はあっさりと「新攻撃兵器」としか言及しなかったが、陸海混然一体となって戦争を遂行すると陸海両大臣が揃って答弁で言ったのだから、陸軍が特攻兵器を作るなら海軍も同じと捉えられても仕方あるまい。
もっとも陸軍の大げさな言いようは
陸軍は新兵器の開発をよほど前のめりに進めているのだろう、と米内は推察した。
「来るべき決戦には航空作戦に付随致しまして、敵の心胆を寒からしむものありと期待しているものであります」
と大臣が言った以上、秘匿されている陸軍の新兵器はまず航空関係に違いない。このままでは・・・まずい。
航空関係に陸軍が手を出してきて碌なことはない。それも必死の攻撃となれば・・・それは陸の事ではなく海か空の事に違いあるまい。
枕の上で天井を見上げながら米内は深くため息をついた。
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