「あのねあのね!!」

「って最後に親に言ったの、いつの事か覚えてる?


 ”あのね”なんて無邪気な言葉、段々と使う事も無くなるもんねー。

 なんなら親にじゃなくてもいい。祖父母やら兄弟姉妹やら……あっ、でも趣味で出会った人には無しね。

 それは今回僕が言いたい事とは少し違っちゃうから。


 それじゃあ早速だけど僕が言いたい事、つまり今回のお題を話そうか。

 僕が今回言いたいのは、いつから視点が違う事を意識した? って話。


 それこそ親に今日学校でこんな事があったよ、って話す時なんかがそうなんだ。

 こっちは毎日が大冒険で新しい事を知る事が出来る未知の経験なのに、彼らは決まって『そうなんだ』とか『すごいね』って定型文を差し出してくる。


 いや、別にそれが悪いって訳じゃないんだ。実際のところ僕も小さい子供に無邪気に話しかけられても、どんな反応すればいいのか分からないしね。

 ついでに言っておくと親が子に愛情を感じていない訳では決してないと僕は知っている。

 だって彼らがそんな定型文に頼ってしまうのは、話を飛び越えて愛する我が子に目を奪われているからなんだ。


 ただ、視点が違うだけなんだよ、本当に。

 どっちが悪いとかじゃなくて、純粋に違うところを見ているだけ。


 でも思春期を迎えると僕らは唐突に恥ずかしくなるんだ。所詮は自分が知らない事を、相手に押し付けていることが。

 って言ってもなんだか昔のこと過ぎてよく分からないかな?


 じゃあ君がハマっているソシャゲがあるとしよう。

 そのソシャゲで君はとってもレアなキャラクターを引き当てたんだ。でも生憎周りには同じゲームをしている友人は居ない。

 だからたまに話す程度の友人に、何気なく話題を振った。


『最近ガチャ運が良いんだよね』


 なんて、話したくてうずうずしている喋りだしでさ。


 そしたら相手はそれがどれだけ凄い事かも分からないから『そうなんだ』、『すごいね』って定型文で返してくる。

 これはさっきと逆だろ? 自分だけが知っているのに、その興奮を相手は分かってはくれない。


 その場は良いんだ。何なら『なんで分かってくれないんだ?』なーんて考える余裕もあるかもしれない。

 でも少しずつ冷静になると一つ一つがちょっとだけ恥ずかしくなったりするんだ。

 黒歴史なんて大きな傷跡ではないけど、ほんのちょっとだけ胸がゾワッってする感覚、分かるかな?


 なんであんな喋りだしをしてしまったんだろう、相手はあのゲームに興味が無いって分かってたのに。

 それでも過去は変わらない。一生思い出すたびに胸をゾワッてさせる恐怖の仕掛けが出来上がりさ。


 段々そういう積み重ねがあって僕らは大人になっていく。そしていつか子供が出来た時に『あのねあのね!!』って話しかけられて『そうなんだ』とか『すごいね』って返すんだ。


 僕たちは案外なりたい大人になれてるのかもしれないね。胸がゾワッてする事の無い周りと同じ大人にさ


 ってところで今回はここまで。

 やっぱり僕は孤独でいいなー。だって友達が出来たら『あのねあのね!!』って小さい胸のゾワッを量産しちゃうもん


 それじゃあ、また今度。僕が孤独と言い張れる頻度で来てくれよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る