第102話 前夜

 史桜くんと遊園地に行く日の前夜、私はとある場所にやって来ていた。

 それは普通であれば仲違いするはずの相手の家である。


 しかもその相手は今、私の目の前でパジャマを着て油断した姿を見せている。


「さぁ、結衣先輩、恋バナしましょうか‼︎」


 ゆるゆるふわふわのパジャマを着て私の目の前で目をキラキラと輝かせているのは史桜くんの彼女、水菜ちゃんだ。


 目を輝かせている水菜ちゃんとは対照的に私は驚きから目を丸くしてしまっている。


 今日水菜ちゃんの家でお泊まりする事になったのは水菜ちゃんの方から私の家でお泊まりをしないかと誘ってきたからだ。

 自分の彼氏の事が好きな人とお泊まりをしようなんて考えに至る事にも驚かされるが、更には私と水菜ちゃんしかいないこの空間で恋バナをしようなどと言われたら驚いてしまうのも無理はないだろう。


 私と水菜ちゃんが恋バナをするとなれば、史桜くんの魅力について語り合うだけの謎の会になってしまう。


「こ、恋バナって私が好きなのは史桜くんだし流石に話しづらくない?」


「いえ、もうここまで来たら振り切ってやろうかと思って。友達とかには自分の彼氏の好きなところとか言いづらいじゃなですか」


「友達にいいづらいっていうのはまだ分かるんだけど、それで恋バナをする相手が自分の彼氏を好きな人って言うのも……」


「じゃあ結衣先輩、好きな人の妹にお兄ちゃんのどこが好きかとかどんな仕草にキュンとくるかとか、そんな恥ずかしい事話せますか?」


 ……そうか、みずなちゃんが特に仲良い友達というのは史織ちゃんの事だ。のろける相手が彼氏の妹ともなればのろけづらい気持ちも理解出来る。


「それは……無理だね」


「そうなんですよ……。なので、今日は結衣先輩と史桜の好きなところを好きなだけ言い合おうと思いまして」


「今の理由を聞かされたらその誘いを断るのは可哀想だね。でも水菜ちゃんは本当にいいの? 私と水菜ちゃんと史桜くんの3人で遊園地に行くなんて……」


 先日水菜ちゃんと話したばかりではあるが、私の中には史桜くんと水菜ちゃん、そして私の3人で遊びに行くという事に抵抗があった。

 水菜ちゃんは私に気を遣っているだけで、本心では3人で遊びに行きたいとは思っていないのではないかと思うとどうも明日の遊びには気が乗らなかった。


「前も言いましたけど、そりゃよくはないですよ。出来れば史桜には私以外の女の子とは関わってほしくないと思います。でも結衣先輩とはしっかりと決着を付けないと、結衣先輩も史桜もずっとお互いの事を引きずると思うので」


 水菜ちゃんは本当に凄い。史桜くんと付き合うのは私なんかよりやっぱり水菜ちゃんの方が良いのかもしれないとさえ思ってしまう。


 しかし、このチャンスを易々と手放すのは勿体なさ過ぎる。


「……水菜ちゃんがそう言うなら甘えちゃおうかな。私もこの気持ちにケリをつけないと先に進めなさそうだから」


「はいっ。仮に史桜がやっぱり結衣先輩の事が好きだなんて言い出しても私は結衣先輩を恨んだりしません。でも、その逆も然りです。恨みっこなしですよ‼︎」


「水菜ちゃん……。ありがとね」


「はい‼︎ 明日はお互い頑張るとして、今日のところは思いきり史桜の好きなところを言い合いましょう‼︎」


 こうして私たちは日を跨いでからもずっと史桜くんの事について語り合ったのだった。

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