第95話 史織の意図

 風呂に入ってびしょ濡れになった体を温かいシャワーで洗い流し、史織が張ってくれたお湯に勢いよく飛び込んでゆっくりと体を温めてから今の状況を整理する事にした。


 結衣がどしゃ降り中俺たちが雨宿りをしている場所まで来てくれたのは非常にありがたい事だった。

 俺たちは傘を持っておらずあの場を離れる手段を持ち合わせていなかったし、水菜は雨が本降りになる前に雨宿りを始めておりびしょ濡れになっているという訳でもなかったので、思い切って雨に打たれなが家まで帰るという訳にもいかなかった。


 そんな時に傘を持って俺たちの元へやってきてくれた結衣は俺たちにとって救世主と言っても過言ではない。


 しかし、傘をさしているとはいえ結衣がどしゃ降りの雨の中で態々俺たちのところへやってきた理由が全く思い浮かばない。

 結衣は風邪をひいていたので、よっぽどの理由がない限り体調を悪化させるリスクを負ってまで俺たちを迎えに来ることはないだろう。


 それに、問題は俺たちを迎えに来た時の結衣の発言だ。


 結衣は雨宿りをしている俺たちに、史織に俺たちを迎えに行けと言われたと言っていた。その発言が本当かどうかは分からないが、俺には風邪をひいている結衣になんの理由もなく史織が俺たちを迎えに行けと言うとは思えない。

 それなら結衣が俺たちを迎えに来たのには何か理由があるのではないかと考えるが、その理由がどれだけ考えても思い浮かばない。


 仮に今日結衣が俺に言っていた、好きな人、というのが大雨に打たれて雨宿りをしているとなれば無理をしてでも迎えに行きたくなるのかもしれないが、結衣の好きな人というのは俺でもなければもちろん水菜でもない。


 となると……。もう本当に訳がわからんな。


 とりあえず結衣が傘を持ってきてくれていたので家まで帰ってきたが、今からどうしようか……。


「タオル置いとくよ〜」


「お、おおっ。史織か」


 俺が頭を悩ませていると、史織が洗面所に入ってきて声をかけてきた。


「何びっくりしてるの。いつも持ってきてるじゃん」


 史織は俺が風呂に入っている時に洗面所にやってきてタオルを持ってくることが多い。なので普通は史織がやってきても今のように驚くことはないのだが、史織のことを考えていたこともあり声をかけられて驚いてしまった。


 しかし、結衣と水菜がおらず俺としおり二人きりの状況が出来上がったのはチャンスなのではないだろうか。


 そう思った俺は史織に声をかけた。


「なぁ、ちょっといいか?」


「どうしたの?」


「なんで結衣に俺たちを追いかけるように言ったんだ? しかも風邪ひいて寝込んでた奴にどしゃ降りの中俺たちを追いかけろなんて普通言わないだろ」


「普通は言わないだろうね。でも私じゃなくても同じことをした人は多いんじゃないかな。私は悩んでた結衣さんの背中を押しただけだよ」


 史織が言っていることはあまりにもふわっとしており全く明瞭ではなく史織の意図が読めない。

 結衣が悩んでいたのは恐らく好きな人とやらについてだ。その悩みに対して背中を押したのだというのなら、結衣が俺たちの元に来るというのは辻褄が合わない。


「何言ってんのかさっぱり分からん」


「そんなんだから私にかき回されるんだよ〜」


「え、何それ、どういうこと? え、あ、史織さんちょっとぉ⁉︎」


 結局史織は俺の質問に対するはっきりとした回答を答えることなく洗面所柄出て行ってしまった。

 



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